よっ、二代目！
すみません。短いです。
ぼちぼち完結に向けて頑張ります。遅くてすみません～
「見つけた！ あんた！」
どこかで見たような令嬢が私の前に躍り出て、ビシリと指差してきた。彼女はひどく怒っている。殺気すらある。これは、私も心して対応せねばなるまい。こくりと頷き、同様に彼女を指差す。
「ここで会ったが百年目！ 積年の恨み、今こそ晴らす！」
「は!?」
「我が刃、受けてみよ！」
「ぎゃああああああ!! 待って！ 待って、ちょっと！」
隣に立っていたレジナルドの腰にあった剣を手にとり、鞘を投げ捨てると、先程まで殺意に満ちていた令嬢は真っ青になって飛び上がった。
今日は貴族学園の入学式だ。私は十六になっていた。
これからの生活をほんの少し面倒に思いながら馬車をおり、レジナルドを伴って正門に足を踏み入れた途端のハプニングである。
「いやいやいや、ちょっと待って下さいよ、お嬢様。俺の剣で令嬢を斬り捨てるとかやめてくれません？ 変なもん憑いてきそうで怖いんですけど」
「殺さない程度に甚振るだけだから大丈夫よ」
「やめてよやめてよ真顔で言わないでよ！ あんた相変わらず狂ってるわね！」
目の前の令嬢は、『相変わらず』と言った。つまり、一度は会ったことがある人だ。しかし、である。彼女の姿勢は悪い。髪もドレスも凝ってはいるが、どこかちぐはぐで、趣味が悪い。一流の侍女が支度を手伝ったなら、こうはならない筈だ。あの孤児院出身ならば、教師が厳しいのでこの姿にはならない。私がアニストン家に引き取られてから出会った令嬢達の家は高位貴族である。外出する令嬢の支度を失敗するような侍女はいない。知人には、いない筈なのだ。
加えて、彼女は制服を着ていない。自前のドレスである。この時間に制服を着ていないということは、学園の生徒ではないということ。我が国の貴族は、必ずこちらで学ばなければならないという法律がある。まだ入学の年齢に達していないのか、卒業生なのか。若くも見えるし、熟しているようにも見える。とにかくちぐはぐな女性だった。
「お嬢様、憶えてらっしゃらないんで？」
「え？ この方、やっぱりお知り合いなの？」
「我々にとって、恨んでいいのか、感謝していいのか、微妙なご令嬢ですよ？」
レジナルドの言葉を聞いて、目の前の令嬢を、もう一度しっかりと見る。言われてみれば、見覚えがあるような、ないような。醸し出している下品な雰囲気と、どこか苛立つ表情に、昔の記憶を手繰り寄せ……
「あッ！ なりすまし令嬢ね！」
「は？」
「あの、ほら、あれでしょう？ 二代目チェルシー・ディパーテッドさん！」
「二代目って言うな！」
「貴女のおかげで、呪いのループから抜け出ることができました！ 感謝しかありませんわ」
「…………皮肉か！ そのせいで、私がどれだけ酷い目にあったか。あんたを、絶対に許さない！」
「自業自得なのに？」
思わず冷たく低い声が出た。逆恨みもいいところだ。両親を亡くした私を騙し、強引に家を乗っ取って、私の名前すら取り上げた。その結果、私は呪いから抜け出せた。だから感謝はしている。しかし、彼女達の行いを許しているわけではない。彼女は怯んだが、なんとか強張った表情を私に向けて口を開いた。
「あんたのせいで、私は！ 成金のおっさんに妾にされて、毎晩毎晩変態行為を強いられ…………ッ!!」
「変態行為」
「私はこんなことになってしまったのに、呪いを私になすりつけたあんたは、イケメンで優秀な、次期伯爵と婚約をしたって噂じゃないの！ そんなの許せる筈がないわ！ あんた、私と替わりなさい！ 私がその男と婚約するわ！」
「…………は？」
さっきよりも更に低い声が出た。自分の中の何かが、ブチリと切れたのがわかった。
次回は、ちゃんと義兄も出ます！
