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どうしても空気を読んでしまう

のろのろ更新です。お久しぶりです~。



「まあぁ、バレちゃったの!? それは大変ね!」


 ちっとも大変そうじゃないのんびりした声。義母の声だ。扉が開いて部屋の中に姿を現した義両親は、にこにこしていた。


「ようこそいらっしゃいました。愚息がいつもお世話になっております」


 穏やかに微笑みながら、義父が挨拶をする。大将は座ったまま、他の二人の令息は立ち上がって、頭を下げた。


「アニストン伯、大変申し訳ございません。わたくし、御子息と御息女に、お二人が婚姻をお望みである事をお話ししてしまいましたわ」

「え、誰」


 大将が、まるで貴族女性のような話し方をする。ぞわりと鳥肌が立ってしまった。貴族女性で合ってはいるのだけれど、違和感が半端ない。


「まあ、アンダー公爵令嬢、そろそろ話そうと思っていたところですので、お気になさらないで。二人とも、そういう事なの。チェルシーが学園に通うようになる前に婚約をしてもらいたいのだけれど」

「そうだな。フリーのまま学園に入ったら、可愛いチェルシーはどこの馬の骨ともわからない輩に目をつけられてしまうだろうからな」


 義両親のチラチラとした視線が煩い。私と義兄を交互に見ながら、生温い視線を送ってくるのをやめてほしい。


「おい。両親の勘違いも、跡形もなく消し去ってくれるんだろ? はやく全力で否定しろ」

「そ、そうでした。ええと、お父様、お母様!」

「どうしたの? チェルシー。結婚式楽しみね。ウェデイングドレスは、どんなデザインにしようかしら?」

「…………お色直しは二回したいです!」

「おおおおおおおおいいッ!!」


 義兄の咆哮を近距離で聞いてしまい、耳がビリビリする。しまった、いつものくせで、空気を読んだ発言をしてしまった。お腹に回された腕が、ぎちぎちと締め上げてくる。怖い。


「あ、そ、そうじゃなくて、ええと、お父様……」

「今からバージンロードを歩く時の事を考えて、私は……私は……」

「な、泣かないで下さい。お義兄様と結婚するのですから、いつまでも貴方の娘ですよ」

「おい、貴様、わざとか」


 また空気を読んでしまった。だって、あんなに盛り上がっている義両親に水を差すような事は出来ない。おろおろしていると、目の端に、小刻みに震える何かが映った。カタカタと振動がテーブルにまで伝わって、茶器も音を立てている。真顔で震えている大将。もう、輪郭がわからないほど。


「大将…………?」


 声をかけると急に大将が立ち上がった。俯いたまま、顔を真っ赤にして義両親に淑女の礼をする。


「し、失礼いたしました。わたくし、用事を思いだしましたので、本日はこれで失礼させていただきますわ。あ、アニストン卿、見送りは結構ですので。では!」


 ものすごい速さで部屋を出て行く。淑女教育ってすごい。あの速さなのに優雅。しかもあの大将が、だ。二人の令息も後に続いた。部屋の中には義兄と義兄のお膝に抱っこされている私と、義両親。そして使用人達だけが残った。本当に急な事で、優秀な使用人達も大将についていけなかったようだ。

 義両親が、大将が消えた扉を見詰めながら気の毒そうな顔をする。


「アンダー公爵令嬢、声が震えていたわ。体もあんなに震わせて……」

「ブラッドリーに好意を抱いてくれていたのだろうか。気の毒な事をしたな……」


「あッ、全然違います」


 こればかりは、空気を読んで合わせる事が出来なかった。大将は笑うのを堪えていたのだ。一連の流れを思い出す。義両親がいなかったら、腹を抱えて笑っていただろう。もちろん、義両親が現れなかったら、大将のツボにハマるようなやり取りはなかったけれど。



「父上、母上、婚約なんてさっき初めて聞いたんだけど?」


 私を膝にのせた義兄が凄みのある声で義両親に問いかける。威圧感ゼロ。逆に凄い。

「まあ、言ってなかったからね」

「そんなにチェルシーを嫁に出したくないのか? 俺という犠牲を払ってまで?」

 テーブルの上に乗っている御菓子に手を伸ばす。お茶会が中止になってしまったので、余った御菓子が勿体ない。柔らかなクッキーは、概ね大将に食べられてしまっているが、まだ硬めのクッキーは残っている。男性二人の言い合いをBGMに、私はガリガリとチョコチップクッキーを噛んだ。

「は? だって、ブラッドリーはチェルシーの事を溺愛しているだろう?」

「どこが!?」

「だって、いつだってどこだって、チュッチュチュッチュとキスしてるじゃないか?」

「それは、こいつが怪我ばっかりしてるからで!」


「痛ッ!」


 クッキーが舌に刺さった。なんという凶器。じくじくと痛む舌。じわりと滲む血の味。これは切れたなと思っていたら、顎を勢いよく掴まれた。


「舌」

「うぁ……はぁい……んッ」


 義兄の端整な顔が近付いてきて、出した舌をぺろりと舐められた。そのまま唇が合わさり、くちゅりくちゅりと治療される。相変わらず、治療は気持ちいい。あたたかい気持ちになって、義兄の首に腕を回した。


「普通は家族だって治療でべろちゅーはしないんだよおおおおお!!」


 いつも穏やかな義父が、屋敷中に轟くほどの声で叫んだ。




なるべくはやく続きを書きたい。そして早く完結させたいです。応援よろしくお願いします。

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