義兄とはだいぶ仲良くなりました
更新おそくてすみません
「明日は友人が訪ねてくる。お前、勝手に顔を出すなよ」
「なるほど、挨拶に来いってフリですね?」
「フリじゃねえから!」
「わかりましたわかりました。で、何時ごろいらっしゃるんですか?」
「いや本当に! 絶対に来るな! 一日中部屋に籠ってろ!」
「大丈夫です大丈夫です。お任せください!」
十四歳になっていた。優しい家族に囲まれて、健やかに育っている。
最初はどうなる事かと思われた義兄ブラッドリーとの関係も悪くない。それもこれも、空気を読んで行動する私のおかげだ。今では、ツーと言えばカーという感じの私達二人の会話を、義両親が優しく見守ってくれている。
「ブラッドリー様相手にだけは何故あんなにも空気が読めないんでしょうかね」
「え? レジナルド、なんて言ったの?」
「いえいえ、お嬢様の空気の読み方が特殊だなぁって話ですよ」
「特殊……?」
呆れたような物の言い方をする護衛に首を傾げる。相変わらず、私の護衛を続けてくれていた。たまに王宮の騎士達に剣を教えるバイトをしている。子爵家の専属護衛であった時よりも運が上がったらしく、この三年で美人の妻を捕まえて可愛らしい子供にも恵まれた。実は凄腕の剣士だったらしい。子爵家に勤めている頃はついていない毎日だったようだが。
優秀な執事モーガンも、アニストン家で合流してからはその優秀さを認められ、アニストン伯爵家の家令となった。今ではイケオジ家令に目をハートにさせる令嬢続出で、あちらこちらの貴族家から婿入りの話が出ているのだとか。モッテモテである。
どうやら、ディパーテッド子爵家は呪われていたようなのだ。家系図を見れば、異常な状態だったのは即わかる。代々呪われていたのに、よくもまあここまで家系図が伸びたものだと誰もが感心した。
あの男爵家は、子爵家をのっとる事によって、呪いを全て引き受けてくれたようなものだった。血が呪われていたわけではない。ディパーテッドの名が呪われていたのだ。自分で言っていてまったくわけがわからないが、世の中には、説明できないような事が溢れかえっている。考えるな、感じろ、と昔の偉い人は言ったらしい。
家系図から消えて別の苗字を名乗った途端に、叙爵されたり英雄になってきたかつてのディパーテッドの人々。現に名前が消えて成功をおさめた人がいたから、アニストン家は栄えているのだ。
「奪い返す必要がなくなってしまったわね」
「子爵家のお話ですか? 逆にフリーザー男爵家には感謝したいぐらいですよね」
「それもこれも、私が空気を読んだからよ。つまり私に感謝する事ね」
「まあ……そうかもしれませんけど」
レジナルドは微妙な顔をしたけれど、本当に、空気を読んでよかったと思う。あれからディパーテッド家をのっとってその名を名乗っていたフリーザー男爵達は行方不明になってしまったのだ。借金が膨れ上がり、異国へ売られたという噂だ。ブリアナだけがどこかの修道院に逃げ込んだらしい。その後、大金持ちの成金の中年男に無理矢理娶られて借金は返し終ったとかなんとか。
呪われた家系は、これで消えた。ディパーテッドの名を返すと言われても、もうお断りだ。
「お・に・い・さ・ま」
侍女がお客様にお茶を運んだタイミングで、客間の扉から顔を覗かせて声をかけた。ブラッドリーの友人は三人。男性二人と、女性が一人だ。ご挨拶をしようと体を部屋の中に入れようとすると、ブラッドリーがすごい速さで近付いてきた。
「来るなって言っただろ!」
「つまり来なさいって事ですよね?」
「だからフリじゃねえんだっつうの!」
「わかってますわかってます」
「わかってないだろうが!」
「まあまあブラッドリー、可愛い妹が会いに来たんじゃないか。そう無下にするものではないよ。一緒にお茶をいただいたらいいんじゃないかな?」
女性に声をかけられた。キリっとした美しい方だ。まるで、男性のような話し方をする。
「……ですが、アンダー公爵令嬢、今日は四人で卒業式の打ち合わせとして……」
「いや、それは口実で、生徒会役員として最後に親睦を深めようと思って提案しただけなんだ。だから妹さんも仲間に入れてあげてもいいんじゃないかな?」
「アンダー公爵令嬢がそうおっしゃるのでしたら……」
義兄と公爵令嬢の顔を交互に見る。なるほどなるほど、尻に敷かれているようだ。他の二人は普通にお茶を飲んでいるので、こんなやりとりはいつもの事なのだろう。いや、ブラッドリーの態度は臣下のそれかしら。もしかすると、公爵令嬢の取り巻きを三人で務めている?
「仕方ない。感謝しろチェルシー。変な事言ったりするなよ」
「言いませんよ。私をなんだと思っているんですか?」
私の新しいお茶を持ってきてもらうまで、座って待つ事になった。義兄達も新しいものをいれなおしてもらうそうだ。
そこで、部屋の様子を見る。二人掛けのソファには、アンダー公爵令嬢が座っていた。他は一人掛けの椅子のみ。いらっしゃるお客様の人数によってテーブルやソファをセッティングしているので、イレギュラーな私の座る場所はない。座るのを一瞬躊躇した私に気付いたのか、アンダー公爵令嬢がほんの少し腰を浮かした。しかしその隣に腰掛けるのは、失礼にあたるだろう。私は義兄を仰ぎ見た。眉間に深い皺を寄せた義兄は、こくりを頷いて自分の席へ座った。私もそれに続き、彼の膝の上に座る。
「は?」
「え、こういう事ですよね。今、OKサインだしましたよね」
「出してねえ!」
「ええッ、頷いたじゃないですか?」
「見た通り、お前の座る場所はないから去れ、の意味だったんだけど」
「酷い!」
「酷いのはお前の行動だろ。淑女教育ちゃんと進んでんのか?」
膝に座ったまま言い合っていると、二人掛けソファに座っていたアンダー公爵令嬢が、腹を抱えて笑い出した。
もうちょっと続きます