表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

義兄との出会い

本日、三回目の更新です~



「は? 妹が出来たって?」


 目の前には、やけに顔が整った少年。眉間に寄った皺も美しさの内だろうか。剣呑な目を向けられながらぼんやりと考える。


「ブラッドリー、そうだよ彼女は私達の新しい家族だよ」

「チェルシーちゃんて言うのよ。あなたの四つ年下なの。可愛がってあげてね」

「え、なんでそいつ、そんなに殴られた痕があるの?」


 不審者を見る目である。たしかに、ぼこぼこに殴られた貴族令嬢なんて彼の周りには今までいなかっただろう。しかも顔面。


「チェルシーちゃんは、お家を乗っ取られて虐待を受けていたのよ!」


 泣きながら叫ぶ義母メリッサ。そのような事実は無いが。


「はい。過酷な日々でした……」


 空気を読んで合わせておいた。精神的な虐待は受けていたに等しいので、間違ってはいないだろう。


「は? その割には、怯えた様子がひとつも無いけど?」


 もっともな意見である。私は冷静な義兄に好感を覚えていた。


「意地悪を言わないで、貴方の治癒魔法で癒してあげて」

「絶対に嫌だね」

「ブラッドリー!」

「俺の治癒方法は赤の他人に施せるものじゃない」

「貴方の妹よ!」

「まだ会って数分だ!」


 どうやら義兄のブラッドリー・アニストンは治癒魔法の使い手らしい。治癒魔法師は体のどこかに魔法陣を持っていて、それを目的の部位にあてる事によって治療ができる。赤の他人に施せないという事は、魔法陣が微妙なところにあるのだろう。治癒魔法を使える人は結構いる筈なのに治癒魔法師がいつも人手不足なのは魔法陣の場所のせいもあった。


「……お尻とかに魔法陣があったらさすがに無理ですもんね」

「違う!」

「チェルシーちゃんごめんなさいね。息子は思春期なの」

「わかります。本で読みました。十代の半ば頃に特に少年に見られるやつですよね。親の言う事に反発し、年頃の女性を見るとモヤモヤしてしまう。それが思春期ですよね」


「やめろおおおお!!」


 目を剥いて怒っている。そうだ。思春期を指摘されるのも、結構な刺激になってしまうのであった。失敗失敗。それにしても整った顔が崩れるのを見るのは面白い。先程から私はずっと笑顔だ。


「ブラッドリー、口の端の傷だけ早急に治してやってくれ。まだ血が滲んでいて痛々しいだろう?」

「よりによって口元か!」

「だ、大丈夫ですお父様。痛みなど我慢できます!」

「ぐ…………ッ」


 健気な少女を演出してみた。胸の前で手を組み、義父をキラキラとした目で見つめる。ちらりと義兄に視線をやると、罪悪感に苛まれているような顔をしていた。あ、まずい。私が空気を読みすぎたせいで被害者が生まれてしまった。声をかけようと口を開いたら、義兄は悔しそうな顔をして私を手招きした。


「なんでしょう、お兄様」

「まだお前の兄になったつもりはない」

「…………申し訳ありません」

「動くなよ。微動だにするな。動いたらお尻ぺんぺんの刑だからな」

「ふふッ」

「動くなっつうの!」


 ガシリと顎を掴まれた。そのまま義兄の顔が近付いてくる。あれ、何をするつもり? 目を見張る。義兄の口が開いた。中から、ピンク色の舌が現れて……あら、舌に何か…………


 口角に、生温く湿ったものが触れた。先程まで痛みを覚えていた箇所が熱くなる。それは一瞬の事で、義兄の顔が離れるともう痛みは消えていた。

「んッ……」

「やめろ変な声出すな」

「…………な、舐めた!」

「治療したんだよ!」

 義兄は真っ赤になり、背を向けた。そのまま部屋を出ていきそうになり、御礼を言えてない私は慌てて声をかけようとした。いや、でも待って、兄ではないと言われた。しかも、名前を呼ぶほど親しくはない。なんと呼ぼう。なんと呼べばいい。脳をフル回転させる。


「待って下さい、御嫡男!」


 ドアノブに手をかけていた義兄の体が跳ねる。ゆっくりと振り返ったその顔は、ザ・怪訝、という感じだった。


「……御嫡男?」

「あの、治癒魔法を使って下さってありがとうございました! 感謝します! 私は妹と認められなくとも気にしませんので、これより先は、存在を無視して下さい! ひっそりと暮らしますので!」

「…………勝手にしろ」

「はい! ありがとうございます!」


 鼻を鳴らして部屋を出て行ってしまう。後ろで見ていた義両親はクスクスと笑っていた。


「照れているのよ、ごめんなさいねチェルシーちゃん」

「いえ、大丈夫です」

「ブラッドリーの魔法陣は舌にあってね。家族以外には治癒魔法は使いたくないと日頃から言っているんだ。でも、きみには文句を言いながらも施した。家族と認めているんだよ」

「…………嬉しいです」


 そうだろうかと疑問に思う。照れているのはたしかにそうだろう。だが、家族と認められたかどうかは別の話だ。先程は義父から頼まれて治療してくれただけだ。


 空気を読もう。疎ましく思われているようだったら、やはり近付かないのが一番だ。私はそう心に決めた。




読んで下さってありがとうございます。また一週間後くらいに更新できたらと思っています。

下の★評価で応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ