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義兄よ血迷ったか(血迷ったのは私でした)

久しぶりの更新です。

そして久しぶりの義兄です。

更新がとまっている間に、電子書籍化の話になりました。よろしくお願い致します。



「おかえり」


 邸に帰ると、私を待っていたかのように義兄が近付いてきてハグをした。

「はッ?」

 そのまま私の手を取ると、自然な動きでエスコートをしながら自室まで送ってくれる。何が起きたのかすぐに理解できずに彼の顔を凝視する。それに何を思ったのか、ああそうかと言って額にキスまでしてくれた。去り際に夕食の時間を口にして、彼はあっさり離れていった。エントランスで顔を合わせてから私の額にキスをして去って行くまで、完全に無心風の表情。私を見る目に熱が籠っているわけでもなく、嫌々やっているようにも見えず。ただただ私は困惑するのみだ。


「えッ? なに今の?」


 自室で侍女に迎えられ、制服から着替えようとする直前、部屋の外に立とうとしていたレジナルドに視線をやると、不思議そうな顔をしている。

「お嬢様? 何をそんなに混乱しているんです?」

「え、や、だって、お義兄様が……」

「今朝、無理矢理約束させていたじゃないですか」

「はい?」

「夜勤から帰ってきてようやくベッドに入られたブラッドリー様の部屋にノックもなく突撃して、淑女教育をすっかり忘れて馬乗りになり、婚約者の入学式に見送りもしてくれないなんて、なんて空気を読まない人間なのだと説教までして、半分寝たままのブラッドリー様に見送りは許すけど出迎えはするように言いながら念書にサインさせていたじゃないですか。しかも、婚約者らしい出迎えを希望されて。その念書を、もう目をあけていることも難しい状態のブラッドリー様の懐に突っ込んで」

「ひいい!」

 言われてみれば、そんな記憶もある。

 今朝は、入学式という一大イベントに興奮していて、いつもの百倍はテンションが高かったのだ。


 お義父様はまだまだ現役なので、跡を継ぐまでは義兄は近衛騎士をすることになった。近衛騎士になれただけでも大変なことなのに、義兄は優秀だったため、すぐに王太子付きになり、激務に追われている。

 当然、家でゆっくりする時間も少なく、なかなか会えない人になってしまったのだ。毎日学園から同じ時間に帰ってきて、私に絡まれては文句を言っていた日々が懐かしい。勿論今も、たまに出会えた時にはウザ絡みをして文句を言われている。どうしてなのかしら。他の人とは円満に関係を築くことができるのに、義兄のことは怒らせてしまう。


 ここ最近、王太子付きの近衛騎士は多忙を極めていた。王太子殿下が、婚約を決めたからだ。なんと相手は大将だった。大将が時折見せるガサツなところに惹かれたというのだから、人生は何が起こるかわからない。選ばれてニヤリと不敵に笑った大将を見て、王妃陛下も満足そうに頷いていたらしいので、この婚姻は成功するだろう。


 さて、今朝の話である。

 入学式の日を迎え、テンションはマックス。学園に到着する頃には冷静になって、鬱々とした気分になっていたのだが、起き抜けはテンション爆上がりの令嬢だった。

 そろそろ出発しなければとエントランスに向かえば、夜勤開けの義兄が欠伸をしながら帰ってきたところだった。新しい制服に身を包んだ私は、当然、婚約者である義兄に格好を褒められると思っていた。いや、今までそういった恋人らしい言葉をかけられたことは皆無だったのだから、無理なのは今となってはわかる。だが、期待してしまったのだ。

『お義兄様、おかえりなさいませ!』

『あ? ああ。今日から学園か? サボらずにはげめよ』

 義兄は私の頭をくしゃくしゃっとかきまわすと、眠たそうな顔をしながら自室へ引っ込んでしまった。待って、違う。思ったのと違う反応。というか、空気を読んでここは私が馬車に乗るまでエスコートをするべきなんじゃないかしら。テンションが高めの私は、そう思ってしまった。だから、憤りのまま、義兄を追いかけ、帰ってきたままベッドに潜り込んだ彼に馬乗りになって文句をいいまくったのだ。

『婚約者の空気って、あるでしょう?』

『婚約者の空気とは』

『久しぶりに会った婚約者ですよ? 会えて嬉しいとか、今日から学園に通うなんて、変な男に目をつけられそうで不安だとか、制服が似合っているとか、そういう甘い言葉のひとつもかけるべきです!』

『…………なるほど?』

『なんですかさっきのは! 親戚のお兄さんでもあるまいし!』

『いや……親戚のお兄さんだからなぁ……』

『ひどい!』

『わかったわかった悪かった。とりあえず朝は勘弁してくれ』

『じゃあ、私が帰ってきたら、ちゃんと婚約者らしく振舞ってくれますか?』

『…………わかった』

『約束ですよ!』

『うう~ん……むにゃ』

『念書を書いてください!』

『うう~……面倒くさい女になったなぁ……昔から面倒くさい子供だったが……』


 ブツブツ言いながら書いてもらった念書にサインをして、義兄の懐に突っ込み、学園へ急いだ。途中からテンションが下がってきて、今朝のことなどすっかり忘れていたのだ。そしてあのお出迎え。


 思い出すだけで顔から火が出そうになる。

 ちゃんとした恋心を自覚した今、思い起こした数々のやらかしに、撃沈した。夕食の時間になってもダイニングルームに現れない私を心配して義兄が呼びにきてくれるまで、ベッドに伏せることになった。





もうちょっとで完結ですよ~

なろう版と電子書籍版の違いを楽しんでいただけるよう頑張ります

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