第8話
「でも、リハビリって言うのはその丸じゃなきゃダメなの?」
「ンなコトはねェよ。カナタにココア煎れてやるのだって、リハビリの一部さ」
「それって、動かしていればいいってコトだよねぇ?」
「まぁ、そうだ」
「じゃあ、プレステとかやってみたら?」
「はぁ?」
あ、なんかボクはまたまたひらめいてしまった!
「そうだよ! コントローラーってボタン操作がいっぱいあるし、ゲームやってる方が絶対面白いモン!」
「ゲーム?」
「アクションとかは無理だけど、RPGならコマンド入力だけだし。ちょっと待ってて、ボク取ってくるから」
このスバラシイひらめきを、即実行に移さないではいられない。
ボクはシュウイチの家を飛び出すと、大慌てで自分の家に帰ってプレステを掴むとエレベーターを待つのももどかしくて階段を駆け上がった。
「オマエ、そこまで息を切らせてくるコトねェだろう?」
呆れたみたいな顔してるけど、シュウイチはボクのこのひらめきのすごさが解ってないんだ。
「イイから早く、ココ座って!」
ボクはシュウイチをリビングのテレビの前に座らせると、コントローラーを手に握らせる。
電源を入れて、ゲームとコントローラーの操作法を説明すると、シュウイチは最初ちょっと面倒くさそうな顔をしたけど、途中から熱心に話を聞き始めた。
「じゃあつまり、このパーティーっちゅーのでウロウロして、モンスターが出たらこのボタンを押せば良いんだな?」
「ホントはゲームを最初からやった方が面白いんだよ?」
「いいよ。カナタのパーティーのレベル上げ…っての、しといてやるから。早く宿題やっちまいな」
「う…ん。じゃあ、やってみてよ」
レベル上げなんて、ちっとも面白くないのに。
って、ボクは思うけど。
シュウイチは全部の操作を覚える方が面倒だ…って言って、ボクのデータをロードしてる。
まぁ、面倒なレベル上げをやっておいて貰えるなら、ボクはその方が楽だけど。
宿題を終わらせてリビングに行くと、シュウイチは黙ってソファの隣を空けてくれた。
「シュウイチもパーティー作って冒険すればイイのに」
「カナタのやってるの、隣で見てる方がラクじゃん」
「それじゃシュウイチのリハビリになんないじゃんか!」
「ん、そうか?」
なんて言いながら、シュウイチはちゃっかりボクにコントローラーを押しつけてくる。
コントローラーリハビリは、スッゴイ名案だと思ったんだけどなぁ。
ボクは返されたコントローラーを持って、少し経験値を稼いで貰ったパーティの冒険の続きに取りかかる。
頼んでおいたにも関わらずパパがコロッと忘れていたから、クラスの中でもボクのパーティは相当「出遅れ」ていて、冒険はまだ中盤にさしかかったところだ。
他の子はもうそろそろエンディングに辿り着いていて、既に2ロード目に入っているヤツもいる。
もうみんなの話題はレアアイテムの収集やレアイベントのクリアの話になっているから、ボクの冒険は1ロード目からそれらの収集までしなければならず、やたらと寄り道も多い。
「なぁ、何で先刻からずっとスゴロクやってんの?」
「スゴロクの上がりに、レアアイテムがあるんだよ。それが無いとクリア出来ないワケじゃないんだけど、持ってた方が楽だから」
ゲームをプレイしながら、ボクは細かいルールやちょっとしたコツをシュウイチに説明してあげた。
「最初の頃に出てくるスゴロク場は、大したモノくれないんだけど。中盤から後半に掛けては結構イイモノくれるんだ」
「そーいうのを持ってると、友達に自慢出来るンか?」
「それもあるけど…。持ってないよりは、持ってた方がイイじゃん」
「なるほどな」
納得したように頷いたから、ボクは何気なくコントローラーをシュウイチの手元に返してみる。
すると、なんとシュウイチは自分からコントローラーを持って、スゴロクに挑戦し始めた。
良かった、少しはシュウイチの興味をひく事があったらしいや。
シュウイチの左手は、相変わらず全く力が入らないみたいだけど。
ぎこちなくコントローラーを動かしながらも、なんとなく両手で使おうとしている感じがする。
スゴロクは普通に冒険を進める事に比べると、全然操作も簡単だし、特別な謎解きもない。
ゲームにあんまり興味のないシュウイチみたいなヒトには、いっそそーいう単純な方がいいのかもな。