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ボクのコイビト  作者: RU
7/11

第7話

 学校から帰ると、ボクは真っ直ぐシュウイチの所に行くのがすっかり日課になった。


「ただいまっ!」


 って、ボクは言う。

 だって、ボクとシュウイチはもうコンヤクしているんだから、それでイイと思うんだ。


「おかえり」


 って、シュウイチも応えてくれるし。

 ボクが行くと、シュウイチは大抵ダイニングのスツールに座っている。


「ねぇ、昼間ずっと一人でいて、つまらなくないの?」

「そりゃ、面白いワケねェけど…、でもしゃーねェぢゃん」


 そう言って笑うシュウイチは、ちょっと寂しそうに見える。

 だからボクは、早く帰ってきてシュウイチのトコロに来なきゃって思うんだ。

 ボクの大事なコイビトに、そんなサミシイを思いをさせるのなんて、男としてカッコワルイもんね。

 カバンを降ろして、ボクは宿題を取り出すとシュウイチの隣に陣取った。

 ボクがそこで宿題を始めると、シュウイチはいつもミルクココアを作って出してくれる。


「このカップどうしたの? 新しいね?」

「カナタ、仮面ライダー好きなんだろ?」

「うん、好き。…でもボク、その話シュウイチにしたっけ?」


 子供っぽいって思われるのはカッコワルイから、マンガの話とかは出来るだけしないようにしてたつもりだけど…。


「ああ、うん。…オマエのオヤジに聞いた」

「パパに? ……この間、お夕飯食べに来た時、そんな話したっけ?」

「あの後、オマエのオヤジが来たんだよ。息子がいつもお世話になってます…っつってな」


 なにそれっ?

 パパはそんな話、全然ボクにしてない!

 これはユユシキモンダイだっ! 帰ったらパパを問いつめなきゃっ!

「なんだよ? オマエのオヤジと話したら、変か?」

「そうじゃないけど、でもボクに秘密にしてるなんてズルイ!」

「バッカ、秘密にしてたら言わねェよ」


 呆れた顔して、シュウイチは笑うけど。

 なんか、納得できないなぁ!

「いいじゃん。オマエのオヤジが俺と付き合うの反対するよりは、ずっとマシだろ?」


 そんなコトを言いながら、シュウイチはボクの隣に座り直して、テーブルの上にある「丸い物」を手に取った。

 ダイニングテーブルの上には、常に「丸い物」がいくつも置いてある。

 なんだかちょっとプニプニした感触をしているそれを、シュウイチはいつも触ったり転がしたりしている。


「ねぇ、前から気になってたんだけど、それなぁに?」

「あぁ? うん、コレはリハビリ用のボールだよ」

「リハビリ?」


 シュウイチはボクの目の前に左手を差し出すと、掌の上にボールを乗せた。


「俺の左手はな、今は動かないけど一応医者が神経を繋いでくれてあるから、動かす努力をすれば動くようになる筈なんだよ」

「…でも、その丸いのを握ってるだけじゃ、つまんないよねぇ?」

「仕方ねェよ。リハビリなんて、つまんないモンさ」


 なんていって、シュウイチはボクに笑ってみせるけど。

 でも、シュウイチがそれを握ろうとしてモノスゴク辛そうな顔をしているのを、ボクは見てしまったのだ。

 5時間目が少し早めに終わった水曜日に、ボクはシュウイチをビックリさせてやろうと思って「ただいま」を言わずにそっと部屋に入ったコトがある。

 その時、シュウイチはやっぱりいつもと同じようにこの場所に座って、黙ってその「丸い物」を手に持っていたんだけど。

 スツールに座って左手に丸い物を乗せたまま、シュウイチはジッと自分の手を睨みつけていた。

 ボクは、シュウイチのあんなコワイ顔を見た事がなかったから、スゴクビックリして。

 そっと玄関に戻ると、慌てて「ただいまっ!」っていつもよりも大きな声で言った。

 その時「おかえり」って言ってくれたシュウイチは、ちょっと前まであんなコワイ顔してたと思えないくらい、いつもの優しい顔でボクを迎えてくれた。

 手が動かないっていうのが、どれくらい不便なのかなぁ? って思って。


「左手が動かないのって、どんな感じなの?」とボクが訊ねた時。

 シュウイチは「正座して座っていた時に、足が痺れたコトがあるか?」ってボクに訊ね返してきた。

 だからボクは「うん、時々あるよ」と答えたら、シュウイチは「その時に足の指を動かそうとしてみな」と言った。

 試しに正座して、足が痺れきった時に指を動かそうとしたけど、いつもは何気なく動いている親指ですらがピクッとも動かなかった。


「俺の左手は、いつもそんな感じなのさ」と、足が痺れてもがいているボクを見て笑いながら、シュウイチはそう言った。

 でも手と足じゃ、やっぱり少し違うだろうなって思って、ボクは自分の手が動かなくなっちゃったってソウテイして、左手を動かさないでみたりしたコトもある。

 でもちょっとした拍子にすぐズルをしちゃって、全然「ジッタイケン」は出来なかった。

 ボクはズルをしてしまえば済むけど、シュウイチの手はズルをする事は出来ない。

 立ち上がったり歩いたりするのに杖が必要なのに、左手が絶対に動かないからなにをするにも必ず一度杖から手を離さなくちゃならない。

 片足が頼りにならないから立っているだけだってバランスが必要で、ホント言うとボクの為にココアを煎れてくれるのだってアヤウイ感じがしちゃうんだ。

 シュウイチは「少しでも動かした方が身体には良いんだ」って言うけど。

 動く度に思い通りに動かない身体にイライラしちゃってるって、ボクは気が付いていた。

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