黒歴史とは勇者も殺す必殺技by聖女
「なあ賢者。俺に足りないのはカッコいい必殺技だと思うんだ」
「なあ勇者。こんな夜更けに人を叩き起こして言うセリフがそれか。いいから早く寝ろ。明日は魔王との決戦なんだぞ」
「だからだよ。魔王との決戦だから歴史に残るようなカッコいい戦闘にしたいだろ?そりゃお前や聖女はいいさ。魔法唱えてドーンとかキラキラ光って傷治したり華やかじゃん?でも俺なんか剣で斬るだけよ?めちゃくちゃ地味じゃん」
「戦いに地味も派手もあるか。大切なのは勝つことだ」
「嫌だよ。俺だって街のみんなの噂になりたいんだよ。女にモテたいんだよ。チヤホヤされたいんだよ。かー、ほんと光の神様もサービス悪いよな。カッコいい勇者専用技くらい用意しとけっての」
「おいそれ聖女の前で絶対言うなよな。神を冒涜したと知られたらお前魔王じゃなく聖女に殺されるぞ」
「そこでだ。ないなら作ればいいと閃いたんだ」
「人の話を聞け。というか付け焼き刃の技をぶっつけ本番で試そうとするな! 明日は人類の命運がかかってるんだぞ」
「安心しろって。俺もそこまで馬鹿じゃない。使うのは技名だけだ。暗黒滅殺呪酷剣とか言いながら斬れば必殺技っぽいだろ?」
「光の勇者がなんでそんな不吉な技なんだよ」
「えー、カッコいいじゃん」
「じゃあ聖なる刃と書いてセイントスラッシュとかでいいんじゃないか。仮にも光の勇者なんだしあまりイメージを落とすようなこと……」
「うっわwだっさwよくそんな恥ずかしいの思いつくな」
「……」
「冗談だよ、怒んなって」
「サノヴァビッチ」
「えーなにー。賢者イカした技名思いついてんじゃないか。えっとサン……もう一回言ってくれ」
「サン・ノヴァ・ビーツィ。俺の地元の言葉だ。意味は……そうだな我勝利を望むとかだったかな」
「いいじゃん。いいじゃん。それ俺にピッタシだわ。よし俺の必殺技はサン・ノヴァ・ビーツィに決まったぜ」
「そうかよかったな。俺もすごく嬉しいよ。明日が楽しみだ」
後世の歴史において、勇者は魔王との決戦で卑俗的なスラングを叫んだとされている。それは教会の聖女の証言によって裏づけされた事実であるが、なぜ勇者がそのような言動をとったかは定かではない。歴史家たちは様々な仮説をたてるも今もって謎に包まれたままであった。