表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のオートプレイ  作者: 和泉ハルカゼ
A memory of this world
6/9

予期せぬエピローグ


 ──やけに凍てつく日だった。

 

 世間は冬。ついでに言うと俺の心模様もからっからの銀世界である。

 

 半年経っただろうか。俺の彼女の未優(みゆ)と、俺の妹の(あかり)が出会って、それから灯が未優に懐いた日から。

 灯が俺たちのことを応援してくれた。

 秘密を握る人がもう一人増えた。もちろんそれは嘘に覆われた秘密だけど、灯は約束を守って両親に黙っていてくれた。

 

 結局、俺たちは逃げ切った、といっていいのだろうか。

 

 半年間、何の動きもなかった。

 不思議でならなかった。あまりにも動きがないのだ。俺たちの環境に。


 ある程度の偽装工作をしていたけど、俺がやったことは(れっき)とした犯罪だ。どこかでボロが生じると腹を(くく)っていた。

 

 でも俺たちの間には、ただただ平凡な日常が流れていた。

 ただの同棲している彼氏と彼女の関係だ。そこに、加害者と被害者の間柄はまるで存在しなかった。

 

 未優の両親はそもそも、捜索願すら出していなかったと推測している。

 多分、諦めていたんだ、未優のことを。

 

 未優は、大量のお金を持って家出をした。

 それこそ、ドラマでよく見るような銀色の現金輸送用アタッシェケースだけを持って俺の前に現れた。

 

 後で数えたらピッタシ1億あった。

 アタッシェケースって本当に1億円がぴったり入るんだなって感心したのを覚えている。

 

 そのお金は緊急時以外に使わないと決めていた。

 だから、今、俺は1億以上持っていたりする。1億以上持っていながらバイトなんてしていた。

 

 まぁ、つまりだ。

 未優は本物のお嬢様である。

 お嬢様故に、親が決めた婚約者なんてものがいて、それが嫌で逃げ出したなんていう背景がある。

 

 逆に考えてみれば、未優が両親のもとに連れ戻された場合、未優は結婚をさせられる。

 それは未優の望みではない。お金をもって逃げ出すくらいには、未優にとって嫌な事だったんだ。それは、未優の両親も重々承知している。

 

 未優の両親も、葛藤(かっとう)したのだろう。

 超がつくくらいのお金持ちだ。本気を出せば、ただの高校生である俺なんか、数分で特定して俺と未優を引き離すことも可能だったのだろう。

 

 だが、両親として、娘の意思を尊重したかったのではなかろうか。

 未優は十分すぎるほどのお金を持っている。加えて、それなりの常識もある。

 

 無理に連れ戻さなくても、生きていける状態だなんてことは、考えれば分かる。

 だから、未優の自由にさせることを選んだ。

 

 結婚を強制させるくらいなら、家出をさせて好きなように生きてもらおう。

 

 あくまで俺の想像だけど、そんな理由がなければ、俺と未優が平穏無事に暮らしていた2年と半年の説明がつかない。

 

 もっと、怯えることなく、外でデートとかしとけばよかったなぁという後悔もする。

 それこそ、日本中旅をする勢いで。なにせもう出来ないんだから。

 

 今更ながら、海外進学なんてする必要はないんだろうなぁとは思う。

 

 でもまぁ、より高い教育を受けたいという気持ちも持っていたし、新しい挑戦としては悪くなかったのかもしれない。

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「というわけで、そろそろ出発する」


「そう」


「……お前は俺に付いてくるものだと思ったけどな」


「私の使命は、ここで終わりだから」


 有栖川銀河とは、生まれながらの腐れ縁にして、ストーキングされ続けた関係性。

 

 俺は今からここを飛び立つ。

 

 有栖川 銀河(ありすがわ ぎんが)の使命は俺を見守ること。

 銀河自身がそう言っていた。

 

 ストーカーというとその通りなんだけど、最後まで、不思議な奴だ。

 まず、こいつは俺のことを好きなのかどうか分からない。

 

 まるで、仕事人の様に俺に付き添い、たまには尾行をして。

 渡月高校(こっち)に来てからは、バイトなんてもんも初めていたけど、こと俺の人生のターニングポイントは必ず見落とすことなく、どこかで見届けていた。

 

 未優とキスしたり、海外進学を決めたことを教師に告げたり、未優を保護することを決めたり。

 どこかで必ず、俺の決断を見守っていた。

 

 その中には、人として誤っている選択もあったけど、絶対に銀河は口出しをしなかったのだ。

 ただ、見ているだけ。

 

 だがこれで最後だ。

 銀河とはこれでお別れになる。

 

 未優と二人で、誰にも邪魔されない場所へと、逃げることにしたのだ。

 要するに、この場所から離れる選択をした。

 

 理由が合って、俺のほうが未優より先に目的地に行くことになったけど。

 未優も後から付いてくることが確定しているし、いらない心配をする必要はないだろう。

 

「ねぇ、建留(たける)


「ん? なんだ?」


「──さよなら」


「あぁ。さよならだ」


 少しだけ泣けてきた。

 これで、俺をストーキングする人物がいなくなる。

 そこに喜びは欠片もなくて、寂しさと侘しさだけが募るばかり。

 

 銀河のことが好きだった。

 不気味だけど、銀河との関係性がこの上なく心地よかった。

 

 もちろん。それ以上に未優のことが好きだったわけで、こんな結末になってしまったわけだけど。

 

 

 立ち止まって、俺の人生を振り返る。

 

 自分が、幸せを追い求めて、こんな選択をするとは思わなかった。

 

 昔から、クソがつくほど真面目で。

 小中の間は、ガリ勉すぎて、銀河以外に親しい奴が出来なかった。

 

 渡月高校(ここ)に来て、色々変わった。

 バイトなんかをしてコミュ力の大切さを学んだ。

 十和野 未来(とわの みらい)という自分より頭の良い奴の存在を見ていると、勉強が全てじゃないということにも気付けた。

 教師が自分の味方だということも知れたし、家族のありがたさも身に染みて分かった。

 恋なんてものは、とんでもなく人生を変えた。

 

 未優に会って、法に背く日が来たんだ。

 あのクソ真面目でガリ勉の俺が。そんなことをするんだ。


 そして、俺は、未優への想い故に。

 人生で最大の決断をしたんだ。

 家族も、高校で出来た友達も。そして銀河も、置き去りにするような究極の選択。

 

「ねぇ、建留」


「はいはい、なに?」


 ねぇ、建留。

 これはもはや銀河の口癖だ。これに続く言葉は常に意味不明だったり、しょうもなかったり。厄介なことが多い。正直言って、こうやって話しかけられるのは嫌いだ。

 

「──次はうまくいくといいね」


「あぁ。だといいな」


 イマイチ、「次」の意味が分からない。

 

 18年間生きてきて、ずっと一緒にいたわけだけど、やはり有栖川銀河は意味不明な女だ。

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 手には一封の封筒。

 中には、旅をするのに必要な(チケット)と、未優と恋人になった日に2人で撮った写真が入っている。

 

 銀河とお別れを済ませた後、銀河に背中を向けてから、その封筒を大切に握りしめる。

 

 やけに身体が軽くなった気がする。

 それと同時に、もう銀河は俺のことを見ていない。そんな気がした。

 

 覚悟を決めて、歩き出してみると、未練やら不安やらが一気に吹っ飛んだような気がする。

 

 確かに視線を感じない。プレッシャーも期待も。何もかかっていない。

 

 ただただフラットで、独りぼっちな俺を実感する。

 封筒をもう一度だけ見る。

 

 寒空の下。

 『遺書』とだけ書かれた封筒は、これでもかというくらいキツく封をされていた。

 

 

 

 ──Unexpected Error

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ