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神様のオートプレイ  作者: 和泉ハルカゼ
A memory of this world
4/9

超特急な来訪


 時折思う。

 世界とはなんだろうか。

 

 哲学され尽くしてなお、俺たちはその真理にたどり着けずにいる。

 

 例えば、この世界は、あらゆるストーリーの集合体と唱えることが出来る。

 惑星内にいる人間……全登場キャラが全員主人公のオムニバス作品で、あまりにも上手にマッチしたりする。

 この世界が、予定調和のエンタテイメント……つまり、アニメやゲーム、あるいは漫画だとすると、脚本家だとか演出家はバケモンだと思う。

 

 それでいて、俺は、この上なく幸せな主人公をやらせていただいている。

 たまたま要領が良くて、頭がよかった。両親が優しい人だった。超かわいい彼女がいる。美人のストーカーが付いている。

 ただ、アニメやゲームというのは、えてして、目的があるものだ。

 

 それは、何のために生きているかという、最大規模の哲学の領分の話。

 

 誰もが、何かの目的を見つけ出して、この世界を生きていく必要があるわけだ。

 

 かくいう俺は、すでに見つけている。

 超かわいい彼女を幸せにする事だ。

 

 哲学にまで踏み込んでうだうだ語っているが、言いたいことは一つだ。

 

「……早くお家に帰りたい」


 そういうこと。

 3限目は倫理。教壇では白髪まみれのおじさんがプラトンの名言を説いている。

 

 【愛に触れると、誰でも詩人になる】 のだとか。

 

 まさに今の俺だった。スタンディングオベーションで讃えてやりたい気分だ。

 

 教室内では俺だけが大きく頷いている。

 前方を見れば、ひときわ目立つ金髪が首を傾げているし、右端列の一番前を見やれば、宇宙人が眠っている。

 

 こいつらにプラトンは難しいようだ。

 

 家に帰れば、未優がいる。

 つまり、マイホームに守るべきものがあり、俺は早く家に帰りたいと思いながらも、教育を受けている。二人の未来のために。

 

 新婚生活となんら変わらないのである。

 特に家賃や食費を稼ぐためにバイトをしている時なんて、そりゃもう、家庭を持つリーマンの気分だ。

 

 訳あって、未優と俺は、1Kの6畳間に暮らしている。

 それもおおよそ人には言えない事情があって。

 

 加害者と被害者なのだ。俺たちは。

 俺が未優を誘拐して、自分の家に住まわせている。

 もちろん未優の両親にも、俺の家族にだって言えるわけがない。

 

「まさに、不徳の致すところだよなぁ」


 ボソッとひとりごと。

 実のところ、不徳の致すところの意味は微妙に分かっていない。

 

 ともあれ、背徳感や今後の不安のせいもあってか、未優の事ばかりを考えてしまう。

 

 授業に集中して気持ちを紛らわそうとしても、それが出来ない。

 

 倫理並びに世界史、地理の高校範囲の勉強は済ませてある。

 理系なので、どれか一つでいいのだが、とりあえず選択肢は多い方がいいので全部抑えている。

 

 だから授業中は暇で困る。

 暇なほど、時間が長く感じられてしまう。

 未優に会いたいという禁断症状が抑えられなくなっていく。

 

 突然、電子的な音が鳴る。

 LINQだ。LINQはあの有名な緑アイコンのメッセージアプリだ。

 

 未優かな、と思って、即時スマホを開く。

 

 今の時間、中学校で授業を受けているはずの妹からのLINKだった。

 

『──バカ兄貴へ、今から兄貴のお家に行きます』

 

 思わず、スマホを机に叩きつけた。

 ピンチだ。

 

『来んなバカ』


 即レスは基本。したがって、メッセージを早速返す。

 

『行きます』


『マジでやめてくれ』

 

『行くったら行くの!』


『そもそもお前、中学生だろ? 学校はどうした』


『土曜日、体育祭。今日、代休』


 クソガキめ……。

 親よ、どうしてあの小娘にしっかり首輪していなかったんだ。……と、誘拐犯兼不孝息子は言ってやりたい。

 

 しかし困った。

 ウチのバカな妹が来てしまう。

 

 それに今から来るということは、大体昼過ぎにはついてしまう。

 確実に、未優と鉢合わせてしまう。

 

 学校をサボって俺が対処してもいいんだけど、それでも、じゃじゃ馬な妹が、ここまで来て引き返すわけもない。かといって、未優を隔離するのもリスクが高い。

 

 そして、未優にLINQを送る。

 

『妹が来る。ヤバい』


『え? そうなの!? 大変だね!』

 

 了解、と書かれたよく分からんスタンプが続いた。

 何を了解したのだろうか。

 

『今から、デートしよう』


 対策を立てなければいけない。

 最悪なパターンは、妹が合鍵で我が家を開けて未優と出会ってしまうことだ。

 

『あれ? 授業はどうするの?』


『今日は気分悪いから早退する』


『気分悪いのに、デートできるの? 無理しないでね』


 アホかわいいな、この子。

 

『未優とデートしたら治るから、大丈夫』


 さすがに今日は銀河の家に預けるしかないかなぁ……。

 いや、それだと女物の私物が家にいる時点でバレるか……。

 

 詰みだ。

 妹が親にバラさないように、上手く立ち回ることに集中しよう。

 

『あ、妹ちゃん来たよ?』


『え?』


 え? 早くない?

 

『すっごい怒ってる』


『……駅前のプリン買って帰るって伝えといてあげて』


『う、うん』


『……デートはまた今度持越しで』


 涙を表現するスタンプを三連打。

 未優も悲しみのスタンプで応戦してくれる。


 さて、妹の方からのメッセージもまたすごいことになってる。

 

『おい』

『バカ兄貴』

『せ・つ・め・い』

『3秒以内』

『パパに言うから』

『おい』

『なんか言え』

『さっさと帰ってこい』

『バカ』

『不浄人』


 どうすればいいんだ、コレ。

 


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「プリン、私も食べたかった」


「自分で買えばよかっただろうが」


 宇宙人と早退する。

 手には、妹と未優の分のプリン。

 妹の好物であるプリンに1つ480円も払っている。

 

 銀河の分はもちろんない。

 

「建留のために、学校、サボってあげてるのに」


「別にお前まで早退する必要はないんだよ」


 保健室で、摩擦力を用いて体温測定の後、早退することにした。

 銀河もそれに付いてきて、こっそり体温測定をして33.5度という、ある意味人間離れした体温を披露していた。

 死後3~6時間ぐらいした人間の体温らしい。

 

 もちろん銀河は生きているので、なんかしらのギミックがあるんだろう。

 

「今日の建留は、なにもしてない」


「……まぁそうだけどさ。ほら、いつもはちゃんと真面目に授業受けてるし」


 遅刻からのサボりからの早退。

 まるで、留年した大学生のような1日だ。

 

 当然のように銀河は全く同じスケジュールを過ごす。

 ストーカー少女たるゆえん。

 

 そんなこんな言い合っている内に、自宅もとい愛の巣に付く。

 

「ただいまー、みゆー! ただいま!」


 いつものように家を開ける。


「兄貴ィ!」


 いつもと違う返事が飛んでくる。もちろん怒号なわけだけど。

 文字面だけ見ると、暴走族の下っ端がリーダー格に泣き付いているようにも見える。


「おかえり、たけるくん。(あかり)ちゃんカワイイね」


 この圧倒的な臨戦態勢の妹をかわいいと言ってのける未優は大物だ。

 

「兄貴! このエロい女、どこで仕入れたの!?」


 まんま下っ端じゃねぇか。


「……路傍(ろぼう)


路傍(ろぼう)?!」


 そう。俺と未優は道端で出会った。

 

 久地(ひさち) (あかり)

 我が妹ながら、知らず知らずに、俺の誘拐事件に巻き込まれている可哀想な中学生でもある。



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