消えないメモリー
タイトルとかあらすじも更新していくつもりです。
神様のオートプレイ
和泉 ハルカゼ
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「綺麗だね──」
「あぁ、そうだな」
「そこはさ、もっと、ほら。あるじゃん。定番のさ♪」
「あぁ。未優の方がきれいだよ」
「あはは。嬉しいな」
「未優の方が、こんなところで蠢いてる地球外生命体の何倍も綺麗だ」
「うっ……やっぱりいい気分はしないかも」
「非現実」を見つめていた。
二人で手を繋いで、見つめていた。
昔の話。
この佐波神社がやけに話題になったのは、この光る生命体が現れたせいだ。
ミミズの様な形をしていて、地面を這いずり回ったり、多彩な色に発光したりするだけの単細胞生物に毛が生えた程度の生き物。
とにかく、蠢いているという表現をするのが正しい。
蛍の様に気まぐれに動く「美」はない。
その生命体は同じところをグルグル回って光るだけ。
どちらかというと蛍よりも、イルミネーションに近い。
それも、たまたま見つかった新種の生物というには、あまりにも数が多い。
そんな未知が、突如湧いて出たんだ。
それぞれの個体が意味を持ったように、同じ場所をグルグル回っている。
「これはある種の暗号だ」
「いえいえ、最新式の玩具を用いた誰かの悪ふざけでは?」
「普通に新種の生物だと認識していいと思います。ミミズの亜種と考えていいのではないでしょうか。発光することで地中でコミュニケーションをとっているのです。ミミズは目がないですが光の方向は感知できると言われていますし……」
とあるテレビ番組では、専門家が三人ほど集まって、その生物について、不毛な言い争いをしていた。
「ミミズのような単純な構造をした生物にコミュニケーションはありえないでしょうって……。玩具の可能性の方が高そうなのでは?」
「確かに。見た目は生物のようではあるが、プログラム化されたような動き方もしておる。わしは最新式の玩具だと見ていいと思う。その上で、悪ふざけか、意図した暗号かを議論するべきだろうな」
真剣な顔で玩具だ、暗号だ、などと言い放つ大人たちを、バカだなぁと思いながら見ていた。
このテレビ番組で挙がった説が全て不十分だったと判明したのは、それから一カ月後だった。
アメリカと日本の共同研究グループが、件の生物を一部だけ持ち帰って必死に研究したらしい。そしてこんな結論を出した。
「地球外にルーツを持つ生命です」
研究をして、真相を追求して。ようやく見えたのが、新たな謎だった。
どうしてあんなところに。なぜあんな大量に。なぜ地球外から。
そんな疑問が溢れ、それから十年が経った。
「ずっと見たかったんだー。スレマー達の群れ」
そして、俺は、俺たちは、そんな地球外生命体の前に立っている。
彼女は、奇怪に動く、地球外生命体に恐怖を感じることすらしていなかった。
スレマー。それがこの謎生物に与えられた名前。
十年前には、ついにこの世界に現れた地球外生命体として空前のブームを起こした。
スレマーは増え続けて、今となってはちょっとしたイルミネーションショーでも出来そうなくらいになっている。
実際に、ここはデートスポットの定番にもなっていた。
それも五年前くらいまでは、だけど。
「せっかくこの神社の近所に住んでたのにな。中々来れないもんだ」
俺は、私立の名門、渡月高校に入学すると同時に、一人暮らしを始めた。
そしてこの神社の近所に越してきた。学校とバイトだけの日々。そんな中で、未優という彼女が出来た。
「しょーがないよ。深夜の間にしか光らないんだもん」
「そうだな。なんか、この神秘空間が家から徒歩15分って意識するとさ、色気ないなぁって思って」
「もぅ、たけるくんって本当に夢がないよね~」
「ごめんって。でもさ──」
この地球外生命体もこの場所に十年以上も存在し続けているのだから、もはや光るミミズ程度の価値しかなくなっている。国籍取得ならぬ、惑星取得という感じ。研究も大して進まないから、一層、影が薄れていく。
研究結果も、スレマーに対する俺たちの知識にも、これと言った変化はなく。ただ、人の心だけが変わっていく。
「でも?」
「未優と見れて良かったなって」
「ふふ。あたしも同じ気持ちだよ」
現在は、未優と俺の二人きりだった。連日、鳥居前に行列を作っていた過去が嘘の様に。ただの、深夜の神社だった。そこに、光る地球外生命体がいるだけで。
「未優──」
「……んっ」
未優と、唇を交わす。
発光する物体は、地球の外から来た未知の存在と言えど、生命で。
ナニカに見られている中でのファーストキス。
ちっぽけな背徳感と多大な多幸感に包まれていた。
「ん……んふぅ……」
「んん──」
「……ぷはぁ、はぁ」
短いキスをした。
彼女を連れて、深夜に外を出歩いて、キスまでする。
明らかに今の俺は学校にいる時の俺とは違う。不良だった。
「あ! ねぇ、たけるくん。アレ見て!」
「え、なに? って、うわっ……」
「えへへ。増えてるね」
「増えてるな」
地面には数十匹のスレマーが増えていた。先ほどまでは、目線の少し先にだけいたはずのスレマーが、今は足元にもいる。スレマーは、気が付けば増殖している。
その理由は分からないし、増殖する瞬間を見たことがある者はいないとされている。
「見逃しちゃったね」
「そうだな。増える瞬間を動画にでもしてたら、宇宙研究の参考資料として、無茶苦茶貴重だっただろうな」
アメーバのように分裂して増えたのだろうか。
俺が未優とキスしてる間に。なんて破廉恥な奴らだ。
スレマーの生体は、全く持って解明されない。
探れば探るほど、謎が深まる。
俺は、奴らは宇宙から地球に叩きつけられた挑戦状だと思っている。
「宇宙の秘密を掴み損ねちゃったね。あたしたち、すっごい有名人にもなれたかもなのに」
「有名人になったら色々面倒だしな。まぁ、いずれ、誰かが暴いてくれるんじゃないか? 科学ってすげぇし」
「その『いずれ』を『イマ』にするチャンスだったんだよ?」
「『いま』、未優とキスしたかったし」
「……もぅ、やめてよ。恥ずかしいよ」
「うっ、すまん。浮かれてた」
二人して顔が真っ赤だ。事あるごとに思い出しては悶えるレベルにクサいことを言った。
「謝らないでよ……私だって、嬉しいんだから」
でも、やっぱり未優が愛しくてしょうがない。
「未優……」
「えへへ」
「ははっ」
恥ずかしさを笑って胡麻化す。
この時間、この場所に、大人の雰囲気はあれど。
こういうところが俺たちがまだまだ子供じみているところだなと、痛感する。
「さ、帰ろうか、たけるくん」
「そうだな」
でも、きっと。
──俺たちは同じ未来を見ていた。
色んな問題を抱えた俺たちだったけど。
その全てを解決して、二人で幸せになる未来。
そんな未来を、夢見ていた。
夢を、見続けていた。
──それが幻影だと、思い知らされるまで。