異世界転移なんてしてる暇はねぇ!!
思いついたので書き始めた。反省などしない。
「はあ?! 馬鹿野郎、現実世界に帰るに決まってんだろ!!」
「まあまあ、そうはいっても、使命を果たせば帰れますから、ね、佐藤五郎さん」
「葛城直人と呼べ。その名前は好きじゃない。……ってそれは置いといてだ!!」
佐藤五郎は現実世界では、葛城直人というペンネームで小説を書いている作家だ。
もっとも大きな賞を受賞したとかではなく、インターネットで無料で自分の作品を公開している自称作家である。とはいうものの、読者数も増え、つい昨日出版社から連絡があり、単行本化とコミカライズの打診がきたところであった。
葛城の目の前には、全長35センチ程度のフェアリー(妖精)が舞っている。
「では葛城サマ、自分のステータスをよくみて、ボーナスポイントを割り振ってくださいね」
フェアリーはそう言うと、空中に四角いパネルを表示させて、指をさす。
「いやおい、ちょっと人の話を聞けよ! 勝手に進めんじゃねぇ!! いいか、俺はたしかに底辺暮らしをしていた普通でなんの取り餌もなかったただのひきこもりニートだった。異世界転移できたら楽しいだろうなと思った時もあった。でもそれは空想の世界だ。現実はパソコンにへばりついて自分の妄想をひたすら文章にしていた。ここまではいわゆる異世界モノの主人公にぴったりだとしよう。だがな」
一気にしゃべって、一気に空気を吸い込み、そして次のセリフ。
「俺にはやることができたんだ。俺の妄想小説を好きだと言ってくれるファンがいる。全国に販売しようとしてくれている出版社がいる。漫画化してくれる絵描きさんがいる。俺は充実しているんだ。何が異世界転移だ、何が使命を果たすだ。ふざけんな馬鹿野郎。俺は何がなんでも今すぐ現実世界に帰る!締め切りが待ってるんだよ!!」
「葛城サマの言いたいことはよくわかりました」
フェアリーはフワリと葛城のまわりを一周して正面でピタリと止まる。
「では、ボーナスポイントを割り振ってください」
「わかってねぇだろおおおおお!!」
フェアリーと二人きりの異次元空間で、葛城は思い切り叫んだが、声はどこにも反響することはなく、すぅと消えていった。