うさみみな師匠と麻布な友達
「これが…神器同士の戦争…」
「そうじゃ…これが、人の業と欲望の果て…戦争じゃ。」
二人の騎士の持つ武器が打つかり合い、炎と氷によって、辺りは地獄の様な惨状と化していた。
熱湯が戦場を浸し、辺りには凍てついた兵士と焼け焦げた兵士が混在。次第に濃霧も出現し、豪雨まで降り始めた。
「…え?」
「解ったな?どちらが優勢か。」
炎の大剣の炎が次第に弱り出し、辺りに冷気が立ち込めていく。
そうか…炎は水には…
「ぐ…あ…!」
「…忌まわしき焦土の神器と共に…凍てつけ…レオ。我が友よ…」
光を失った大剣はボロボロと崩れ落ちる。
最後、戦場は氷河と化した。
「この日じゃ。この日に、大剣と共に全てが崩れて行ったのじゃ。」
風景が目まぐるしく変わっていく。
炎の国が氷の国に征服されていく。氷の国が力を増して行き、次第に緑の国の草木に手を出し始めた。緑の国は抵抗するも、増強された氷の国には歯が立たず、森のマナを失った【ユグドラシアーマー】は枯れ消えてしまう。
【アダマンタイトアーマー】を持つ鋼の国は、天の国と結託し、氷の国への全面戦争を持ちかける。この戦争が、歴史上で一番長く、凄惨な戦いだったらしい。
敗北が見え始めた時、天の国がとうとう、鋼の国に無断で【転輪宝珠】を戦場で破壊。大陸一つを飲み込む大爆発と共に、二つの国が神器ごと消し飛んだ。
「そして…最後に残ったのは辺境の島国に隠された、【宝刀・祟封風御霊】ただ一つじゃ。お主が持っている、それじゃ。」
私は自分の持っている刀に目をやる。
とても、さっき見たとてつもない力が宿っているとは思えない、馴染みのある刀だった。
「…あ、そうじゃ。せっかく帯刀しておるのじゃ。妾が稽古をつけてやろうぞ。」
「え!?…で…でも…それじゃあ…」
「心配要らぬ。妾はもうお化けみたいな者じゃし、勿論主の実力に見合った手加減を施してやろうぞ。」
「…はい…い…行きますよ…?」
私は少し距離をとって、天平さんの目をじっと見る。
抜刀した瞬間、さっきまで離れていた天平さんの顔が目の前に来ていた。
“キチ…キチキチ…”
「…止めた!?」
「成る程のぉ…【剣術強化】か。これなら、久々に身体を動かせそうじゃ…の!」
天平さんは木刀で私を払うと、すぐに斬り掛かって来た。
“キン!”
「このままじゃ…第三段階が…」
「なんじゃ?そりゃ。」
私はキツツキの様な速さで天平さんに刀を振るが、全て木刀で防がれてしまう。
木刀の筈なのに…なんでこんなに…
「硬いじゃと?」
「!?」
“キイイイン!”
私の振り上げた刀を、天平さんの木刀の剣先が留める。
「重心のかけ方でどうにでもなる。スキルに任せて振り回すだけが…っと、それは主も承知か。」
木刀がかすかに私の剣を持ち上げたかと思うと、次の瞬間には、私の首すれすれで…私の刀に止められていた。
「う…ごめんなさ…い…天…ぺ…さ…」
私の、意識と理性の鎖が弾け飛ぶ。
天平さん…どうか…
ーー 天平 ーー
成る程のぉ。
それが主の、第三段階とやらか。
これは…最早戦鬼じゃのぉ。
「………」
蓮の体は蒸気が纏わりつき、右目には赤黒い眼光が、尾を引いて光っておった。
「フシュウウウ…」
「蓮よ、主の持っているスキルは【剣術強化】、それと…可哀想に…【血鬼剣聖】じゃ。」
「ギャアアアア!!」
赤い帯を引きながら、真っ赤な刀が妾目掛けて振り抜かれる。
「ぐうう!?」
先程とは比べ物にならない程の力が木刀にかかる。
数ミリずれておったら、木刀は木っ端微塵じゃったろう。…妾もろともな。
「…しかし、お主の剣の腕そのものは、蓮同様童と変わらぬ!お主を負かさなくては、蓮は永遠に力の制御が効かぬままになってしまう!…妾はそのために、蓮をここに連れて来たのじゃ。」
妾は距離を取ろうとするが、蓮…いや、蓮の中の化け物は目にも留まらぬ速さでこちらに向かってくる。
「【イナシ】」
化け物の剣術の威力を、そのまま化け物に浴びせる。
「グシャアアアア!」
「ふ…【血風桜】。」
木刀が風の様に舞い、化け物の小さな体をなぞる様に斬り伏せた。
勿論、此処は夢の中じゃし、これは木刀じゃ。
蓮が目を覚ました何の傷も残っておらんが…
「シュウウウウウウウウウ……」
化け物の体から蒸気が抜け、素の蓮に戻って行った。
「…うう…そんな…」
「どうした?足でもくじいたか?」
「…え?」
蓮は、妾の顔をまじまじと見ておる。
「主の第三段階とやらを見たぞ。まあ、機動力と火力は上がっておったが、やはり剣術は下の下じゃったの。」
「凄いです…天平さん!」
「はっはっは!そんなに褒めるな!主も、すぐに妾の様になれるぞ。」
蓮は少し困惑しながらも、我の言葉に元気づけられたようじゃ。
良かった良かった。
「さて、妾が初代神器保有者として、主の師匠になろうぞ。さすれば、いずれ主でもその刀と、そなた自身のスキルを使いこなせるようになるからの。」
「はい!」
「さあ、本格的な指南は明日からじゃ。お主はそろそろ目を覚ますぞ。」
妾は、先外した髪留めにたこ糸を通し、蓮の首に掛けてやる。
「これで、この夢を【バク】に食われる事も無いじゃろ。」
「あ…ありがとうございました!」
蓮の体は次第に光を放ち、閃光と共に消え去った。
…あれが、妾の子孫か…可愛いのぉ。
ーー 蓮 ーー
「ふひゃあ!?」
な…何だったんだろう…今の夢…
確か、天平さんって言う綺麗な女の人が居て…
「あ。」
いつのまにか、私の首には天平さんの付けていた髪留めが掛かっていた。
それを見た瞬間に、私は夢の内容を全て思い出した。
「どうしたの?変な声出して…」
「あ…あの、ごめんなさい。何でもありません。」
隣の部屋の人が不思議そうに私を見てきたので、私は多分顔を真っ赤にしながら急いで外に出た。
もう一番上に行ってしまった。私のお仕事がもう無くなっちゃった。
「そろそろ…この街出よっかな…」
私が触れた絵馬は、全て私が持っている間だけ龍の模様になる。
やっぱり、仕事人に生きがいを感じられない…別な職業探そっかな…
「だいじょーぶ?」
「?」
私よりも大分背が小さい女の子が、不安そうに私を見上げていた。
「ちょっと…考え事をね…うん…」
「あ、分かった!ねえねえ!付いてきて!」
私は女の子に手を引かれる。
髪を短く切り揃え、麻布の服を着た少女だ。
腰から何かの種の袋を下げている。お使いに来た農民の子かな。
「ここで待ってて。」
「え…?でもここってお茶屋さん…」
女の子はパタパタと何処かに行く。
しばらくすると、二つのみたらし団子のお皿を持った女の子が戻ってきた。
「はい!」
女の子は、お皿の一つを私に渡してくれる。
「あ…ありがとう…その…君は?」
「え?えっとね…マチは、襠真って名前なの。此処にはお使いに来たんだぁ。」
「そうなんだ。その、襠真ちゃんは何で、私にお団子を?」
「だって、悲しそうにしてる人が居たら、助けてあげるってお友達と約束したんだぁ。」
「そうなんだ。ありがとね。はい。」
私は二文銭を襠真ちゃんの手に握らせた。
「私も、襠真ちゃんのお友達になっても良いかな?」
「本当に!?わぁい!良いよ!」
みすぼらしい格好の、心の豊かな女の子が友達になった。




