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新米からの昇格

「あ…ああの、これ…え?」


「どうかしたの?あ、もしかして[こんなにすんなりなれる物なの!?]て思ってる?」


「は…はい。まさにその通り…です。」


「まあ新米仕事人の絵馬なんてそんな物だよ。半分お土産みたいなものだし。だから、ここからどんどん功績を積んでいくの!」


「へ…へえ…」


まあ、そんな事だろうとは思ったけれど…

と、私は絵馬の裏に墨汁で、[零]と書かれているのを見つけた。


「?」


「功績を積み上げていくと、そこの文字が変わっていくの。最終的に[百]になれば次の階に行けるの。」


「へえ…」


きっと、その数字の絵馬に交換していくのかな。


「…冒険者に当たるもの…」


…ならきっと、いつかまた、エインツィアさんとまた出会うかもしれない…

その時は…あの…エインツィアさんの頭を…必ず切り落としてせる…!力を持っているのに…シカラさんを見殺しにした…エインツィアさんを…必ず!


『キチキチ…』


「蓮ちゃん?大丈夫?震えてるけど…」


「あ…ごめんなさい…その、一刻も早く強くなりたいです…!どうすればいいですか?」


「依頼をこなせば、名声は上がっていくけれど…あ、折角だし一緒に依頼に行きましょう!」


「はい。強くなる理由を…また一つ見つけました。」


すると、何人かの武士達がこちらにやって来る。


「そろそろ行くぞ。む?その子供は何だ?」


「街で拾ったの。仕事屋になりたいんだって。」


その内の一人が私の事をまじまじと見つめる。

私は…なんだか恥ずかしくなって来る…


「………」


「ふうむ…まあ、足手纏いになる様なら容赦なく見捨てるぞ。」



「…へ?」


ここって…合戦場?


「今回、我が靭唯軍に協力することになった仕事人達だ。皆、挨拶は忘れるな。」


当然、視線は私に集まって来る。


「よ…ろしく…おねがいします…」


刀の後ろから様子を伺う。

当然、兵士さん達の視線は私に集まって来る。


「ひう……」


刀の後ろに隠れて様子を伺う。

兵士さん達は案の定、困惑しているみたい…


「あの童は何だ…?」


「殿…負けると踏んで依頼金すらけちり出したのか…」


ひぃ…こっち見ないでぇ…


「とにかく、今夜には合戦さ。間違いなく敗戦だがな…」


「?」


取り敢えず、私は紅元さんの元に行く事にした。

今まで、お城の上でしか観たことの無かった合戦場…こんなに緊迫した雰囲気だったなんて…息が詰まりそう…


「く…紅元さん…一体どうすれば…」


「あ、蓮ちゃん。簡単だよ。向かって来る兵士は切り伏せてといて、あとは適当にやり過ごしていればいいよ。多分負けるだろうし、自分の身だけ大事にすれば良いよ。」


「ええ…?」



「すう…すう…」


『ブオオオオオオオオン!!!』


「ひゃあ!?」


開戦を告げる笛が鳴って、私は慌てて目が覚める。

伏兵…って言う名目で、この岩陰に隠れている事にした。


蠱惑に負けなかった兵士さん達はみんな気付いているんだと思う。

敵はこっちの十倍の兵力を持ってるって。…いくら働いても貰える名声は同じだから…


「わあああああ!」


「おおおおおおお!」


『ドオオオオン!』


「ぎゃああああああ!」


…もういい。こんなんじゃ居眠りも出来ない。


『チャキ…キイイン!』


「早く…剣のお師匠様…見つけないとね…」



ーー 戦場に咲く華 ーー


その少女は不意に現れた。

戦いに来たと言うには余りにも緊張感が無く、迷って来たと言うには余りにも堂々としていた。

敵軍からは笑い声が聞こえる。集まる視線に少し恥ずかしがりながら、少女は敵軍の大隊の前で剣を構えた。


「ヘッヘッヘ」


兵士の中から一人の武士が現れる。

豪華な甲冑に身を包み、厳しい仮面をつけていた。

武士は刀を振り上げ、思い切りよく少女に振り下ろした。


『キン…』


次の瞬間、武士の頭は首の上では無く、少女の持つ刀の上にあった。


『ドサ!』


少女は武士の頭をほろい、次の敵を品定めする。

先程まで軍隊を包んでいた笑い声は消え、動揺が見え始めた。

そこで軍は初めて、少女の首からかけている絵馬に気が付いた。


「か…構えよー!」


『ガチャガチャガチャ!』


軍師の一人が号令をかけ、一斉に火縄銃が少女に向けられる。


「撃てー!」


『ドドドドドン!』


ただ、その銃弾は一つとして少女に当たる事は無かった。

少女の周囲には、真っ二つに斬られた銃弾が散乱していた。


「か…構えよ!」


「…黙って下さい…」


少女は敵軍の本隊に突っ込んで行く。

敵を切り伏せ続けながら、少女は必死に第三段階に至らぬ様に耐え抜いていた。

ここで学ぶ為だ。敵軍の刀の構え方、引き方、刺し方。ただスキルに任せて振り回すだけの自分を少しでも変えるために。


「な…何事だ!?」


「支援要請だ!行くぞ!」


少女の自軍を攻めていた隊も、本隊に合流する。

自軍の兵士達や、同行した仕事人も困惑する。


「一体どう言う…」


敵軍はもう混乱状態であった。

突然年端も行かぬ少女が乗り込んできたかと思えば、文字通り“無双”を始めたのだ。


少女は一見普通の子供であったが、本人も気づかぬ場所で、その内面はすでに歪んでしまっていたのだ。

かつては虫すら避けて歩いた筈が、今は人を斬る感覚に何の感情も抱かない。

少女の今抱く物…平和を願いながら、殺戮を楽しみ、慕う恩人に心からの殺意を向ける。

少女は矛盾していた。混沌としていた。誰にも、本人にさえ気づかれずに、少女はあの日から変貌を遂げてしまっていた。


「あ…妖だ…」


「安心して良いですよ…ただの人ですよ…」


少女は少し恥ずかしがりながら、最後の一人を斬り伏せた。



ーー 蓮 ーー


自分の身なりを少し眺めてみる。

返り血は無し。刀も刃こぼれ無し。よし…帰ろっか。


「あ…ああ…」


私は自分の軍の拠点に戻る。

ただみんな、へんな目で私のことを見てくる…怖い…


「あ…あの…もし何か私が…」


紅元さんが私の元に歩いてくる。


「ねえ…貴女…何者なの…?」


「…ただ、ちょっとだけ刀に自信があるだけです…でも、剣術はまだまだ未熟で…紅元さん?」


「ひ!ちょ…ちょっとだけ離れて欲しいなっ!ね?」


「あ…はい…」


…怖がられちゃったかな?


「うわ…あわわわ!」


『ドシン!』


後ずさりしようとしたら、裾を足で踏んでしまい、思いっきり尻餅をついてしまった。

…あれ?空気が変わった気が…


「はっはっは、なんだ、やっぱりただの子供じゃないか。」


紅元さんが、私に手を差し伸べる。


「ふふふ。ごめんね。ちょっとびっくりしちゃったんだ。まさか300万人をたった一人でやっつけちゃうなんてね。」


やっぱり紅元さんが向こうを見るときの表情は少し強張っていた。


「あの…ちょっと傭兵をやってた時期があったんです…。それで…その…」


「もう良いんだよ。きっとそのスキルで色々苦労したんだね。大丈夫。絵馬を見てみて。」


「?」


私は、首から掛けていた絵馬を見てみる。


「絵が…」


絵馬に描かれたお米の絵が、次々と変わっていく。

猪とか、雷とか、色々。


「と…止まった…」


最終的に龍の絵になった…

これ…どう言う仕組みなんだろう…


「ああ、やっぱりそうなるよね〜あれだけ強かったら。」


「これって、えっと…」


「“天ノ龍”…たった一回の依頼で最高階級に行ったなんて…歴史上初めてじゃない?」

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