新米からの昇格
「あ…ああの、これ…え?」
「どうかしたの?あ、もしかして[こんなにすんなりなれる物なの!?]て思ってる?」
「は…はい。まさにその通り…です。」
「まあ新米仕事人の絵馬なんてそんな物だよ。半分お土産みたいなものだし。だから、ここからどんどん功績を積んでいくの!」
「へ…へえ…」
まあ、そんな事だろうとは思ったけれど…
と、私は絵馬の裏に墨汁で、[零]と書かれているのを見つけた。
「?」
「功績を積み上げていくと、そこの文字が変わっていくの。最終的に[百]になれば次の階に行けるの。」
「へえ…」
きっと、その数字の絵馬に交換していくのかな。
「…冒険者に当たるもの…」
…ならきっと、いつかまた、エインツィアさんとまた出会うかもしれない…
その時は…あの…エインツィアさんの頭を…必ず切り落としてせる…!力を持っているのに…シカラさんを見殺しにした…エインツィアさんを…必ず!
『キチキチ…』
「蓮ちゃん?大丈夫?震えてるけど…」
「あ…ごめんなさい…その、一刻も早く強くなりたいです…!どうすればいいですか?」
「依頼をこなせば、名声は上がっていくけれど…あ、折角だし一緒に依頼に行きましょう!」
「はい。強くなる理由を…また一つ見つけました。」
すると、何人かの武士達がこちらにやって来る。
「そろそろ行くぞ。む?その子供は何だ?」
「街で拾ったの。仕事屋になりたいんだって。」
その内の一人が私の事をまじまじと見つめる。
私は…なんだか恥ずかしくなって来る…
「………」
「ふうむ…まあ、足手纏いになる様なら容赦なく見捨てるぞ。」
◇
「…へ?」
ここって…合戦場?
「今回、我が靭唯軍に協力することになった仕事人達だ。皆、挨拶は忘れるな。」
当然、視線は私に集まって来る。
「よ…ろしく…おねがいします…」
刀の後ろから様子を伺う。
当然、兵士さん達の視線は私に集まって来る。
「ひう……」
刀の後ろに隠れて様子を伺う。
兵士さん達は案の定、困惑しているみたい…
「あの童は何だ…?」
「殿…負けると踏んで依頼金すらけちり出したのか…」
ひぃ…こっち見ないでぇ…
「とにかく、今夜には合戦さ。間違いなく敗戦だがな…」
「?」
取り敢えず、私は紅元さんの元に行く事にした。
今まで、お城の上でしか観たことの無かった合戦場…こんなに緊迫した雰囲気だったなんて…息が詰まりそう…
「く…紅元さん…一体どうすれば…」
「あ、蓮ちゃん。簡単だよ。向かって来る兵士は切り伏せてといて、あとは適当にやり過ごしていればいいよ。多分負けるだろうし、自分の身だけ大事にすれば良いよ。」
「ええ…?」
◇
「すう…すう…」
『ブオオオオオオオオン!!!』
「ひゃあ!?」
開戦を告げる笛が鳴って、私は慌てて目が覚める。
伏兵…って言う名目で、この岩陰に隠れている事にした。
蠱惑に負けなかった兵士さん達はみんな気付いているんだと思う。
敵はこっちの十倍の兵力を持ってるって。…いくら働いても貰える名声は同じだから…
「わあああああ!」
「おおおおおおお!」
『ドオオオオン!』
「ぎゃああああああ!」
…もういい。こんなんじゃ居眠りも出来ない。
『チャキ…キイイン!』
「早く…剣のお師匠様…見つけないとね…」
ーー 戦場に咲く華 ーー
その少女は不意に現れた。
戦いに来たと言うには余りにも緊張感が無く、迷って来たと言うには余りにも堂々としていた。
敵軍からは笑い声が聞こえる。集まる視線に少し恥ずかしがりながら、少女は敵軍の大隊の前で剣を構えた。
「ヘッヘッヘ」
兵士の中から一人の武士が現れる。
豪華な甲冑に身を包み、厳しい仮面をつけていた。
武士は刀を振り上げ、思い切りよく少女に振り下ろした。
『キン…』
次の瞬間、武士の頭は首の上では無く、少女の持つ刀の上にあった。
『ドサ!』
少女は武士の頭をほろい、次の敵を品定めする。
先程まで軍隊を包んでいた笑い声は消え、動揺が見え始めた。
そこで軍は初めて、少女の首からかけている絵馬に気が付いた。
「か…構えよー!」
『ガチャガチャガチャ!』
軍師の一人が号令をかけ、一斉に火縄銃が少女に向けられる。
「撃てー!」
『ドドドドドン!』
ただ、その銃弾は一つとして少女に当たる事は無かった。
少女の周囲には、真っ二つに斬られた銃弾が散乱していた。
「か…構えよ!」
「…黙って下さい…」
少女は敵軍の本隊に突っ込んで行く。
敵を切り伏せ続けながら、少女は必死に第三段階に至らぬ様に耐え抜いていた。
ここで学ぶ為だ。敵軍の刀の構え方、引き方、刺し方。ただスキルに任せて振り回すだけの自分を少しでも変えるために。
「な…何事だ!?」
「支援要請だ!行くぞ!」
少女の自軍を攻めていた隊も、本隊に合流する。
自軍の兵士達や、同行した仕事人も困惑する。
「一体どう言う…」
敵軍はもう混乱状態であった。
突然年端も行かぬ少女が乗り込んできたかと思えば、文字通り“無双”を始めたのだ。
少女は一見普通の子供であったが、本人も気づかぬ場所で、その内面はすでに歪んでしまっていたのだ。
かつては虫すら避けて歩いた筈が、今は人を斬る感覚に何の感情も抱かない。
少女の今抱く物…平和を願いながら、殺戮を楽しみ、慕う恩人に心からの殺意を向ける。
少女は矛盾していた。混沌としていた。誰にも、本人にさえ気づかれずに、少女はあの日から変貌を遂げてしまっていた。
「あ…妖だ…」
「安心して良いですよ…ただの人ですよ…」
少女は少し恥ずかしがりながら、最後の一人を斬り伏せた。
ーー 蓮 ーー
自分の身なりを少し眺めてみる。
返り血は無し。刀も刃こぼれ無し。よし…帰ろっか。
「あ…ああ…」
私は自分の軍の拠点に戻る。
ただみんな、へんな目で私のことを見てくる…怖い…
「あ…あの…もし何か私が…」
紅元さんが私の元に歩いてくる。
「ねえ…貴女…何者なの…?」
「…ただ、ちょっとだけ刀に自信があるだけです…でも、剣術はまだまだ未熟で…紅元さん?」
「ひ!ちょ…ちょっとだけ離れて欲しいなっ!ね?」
「あ…はい…」
…怖がられちゃったかな?
「うわ…あわわわ!」
『ドシン!』
後ずさりしようとしたら、裾を足で踏んでしまい、思いっきり尻餅をついてしまった。
…あれ?空気が変わった気が…
「はっはっは、なんだ、やっぱりただの子供じゃないか。」
紅元さんが、私に手を差し伸べる。
「ふふふ。ごめんね。ちょっとびっくりしちゃったんだ。まさか300万人をたった一人でやっつけちゃうなんてね。」
やっぱり紅元さんが向こうを見るときの表情は少し強張っていた。
「あの…ちょっと傭兵をやってた時期があったんです…。それで…その…」
「もう良いんだよ。きっとそのスキルで色々苦労したんだね。大丈夫。絵馬を見てみて。」
「?」
私は、首から掛けていた絵馬を見てみる。
!
「絵が…」
絵馬に描かれたお米の絵が、次々と変わっていく。
猪とか、雷とか、色々。
「と…止まった…」
最終的に龍の絵になった…
これ…どう言う仕組みなんだろう…
「ああ、やっぱりそうなるよね〜あれだけ強かったら。」
「これって、えっと…」
「“天ノ龍”…たった一回の依頼で最高階級に行ったなんて…歴史上初めてじゃない?」