表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

初めての出会い

今日、その茶屋には奇妙な客人が訪れた。

傘を被り、着崩した着物、大きな刀を携えている。その容姿だけを見れば、放浪の武人だろう。


「いらっしゃい、何にしま…」


注文を取りに来た店主の言葉が途切れる。

その服装にはあまりにも見合わない小さな身体に、背丈の割にはとても長く綺麗な黒髪。その茶屋を訪れたのはあどけない一人の少女だった。


「お茶とお団子を下さいな。」


「へ…へえ…毎度。」


他の客も彼女に気付くと、ヒソヒソと噂話を始めた。迷子では無さそうだとか、妖怪の類ではとか。

少女は周囲のその様子を見ると、赤らめた顔を傘で隠してしまう。


「もし、其方、一人か?」


「?」


少女の肩を叩きながら、痩せた男が声を掛けた。


「…はい」


不思議に思いながら、少女、蓮はポツリと答えた。


「…そうか…」


痩せた男はそれだけを聴くと、ふらりふらりと茶屋を後にした。

蓮は不思議そうにその様子を見ていたが、すぐにその興味は、運ばれてきた盆の上の茶と団子に移った。



ーー 蓮 ーー


「…はーるーのー…」


ふと頭によぎった子守唄を歌ってみたけれど、その先が思い出せずにやめた。

おかしいな…昔よく歌ってもらった筈なのにな…


『ガサガサガサ…』


…囲まれてる…


「へへへ…こいつは高く売れそうだ…」


ひいふうみい…10人くらいかな。


「………」


そっと刀を抜くと、その瞬間に十数人の山賊が藪から現れた。

これは嫌でも発動しちゃうかな。


「抜刀ってのは、命賭けるって言う合図なんだぜ?お嬢さん。」


「そんな事知ってるよ…」


山賊達は、薙刀や鎖鎌を構える。

と、その内の一人が飛びかかってきた所で、刀を握る手のひらに激痛が走った。

目を開けてみると、その林道に私を中心とした円形の広場が出来上がってて、山賊達の姿はどこにも見当たらなかった。

少し歩いた所に、軽く煙を上げる焦げた布きれのような物が落ちていたが、すぐに風に飛ばされてしまった。

私は少しため息をつくと、またゆっくりと歩き始めた。


こんな呪いじみた力と長く付き合ってくるうちに、だんだんとこのスキルの事が分かってきた気がする。

まずスキルの開放度には3段階くらいある。


自分の意識でどうにか出来る物。うさぎりんごを作ったりしてる時がそうだと思う。


次に意識はあるけど身体が言うことを聞かない状態。1対1の時とか、決闘みたいな場面の時。ここから手が痛くなったり、身体中の筋肉を傷めたりする。


最後に、意識も無くす状態。今みたいに、何人にも囲まれて、普通の人だったらどうしよも無い状態の時にこうなる。この状態が、一番嫌い。

自分自身がどうなっているのか分からないのがたまらなく怖い。一度なんて、目が覚めたら腕が切断されていた事だってあった。治療が遅ければ今頃…考えただけでゾッとしてしまう。


「......ふう」


平和に自由に生きたいのもそうだけど、先ずは私の能力を何とかしなきゃ....


そうだ!

剣の師匠を見つけよう!


考えてみれば、今まで一度だって剣術を教わった事が無い。

すぐ制御出来なくなっちゃうのは、私自身が下手くそだからだけかも。

だから、私自身が上達すれば三段階目まで行く頻度が少なくなるかも。


「よし...」


私は踵を返して、暗句の都に向かった。

私の国を堕としたところだけど、別に嫌悪感とかは無かった。

確かに一瞬で日常が壊されて、死が目の前まで来て、怖かった。家族を失ってしまったのも、悲しかった。

でも、先に仕掛けたのはお父様の方。あちらに罪は無いと思ってる。


森を抜けて、都に入る。


「ん…?」


「なんだ…あの子供…?」


やっぱり、街行く人の目が恥ずかしい。

こういう時ってどうすれば…


「……?」


私とおんなじくらいの(若干年上かな?)女の子が通り過ぎて行ったけど、周りは何の反応もしない。


「あ…あの…!」


「?」


気付いたら、私はその女の子に声を掛けていた。

髪を短く切って、椿の花の髪飾りをしている、綺麗な女の子。


「どうかしました?」


「ひう!」


次の瞬間には、初対面の人と話すと言う緊張が押し寄せてきた。


「あの〜…」


「あ…貴女は…その…この街の人ですか?もしよかったら…その…案内して欲しいと言うか…」


その女の子は首を横に振った。


「ごめんなさい。わたくしも初めて来たので…」


「え?」


と、周りから声がしてきた。


「なんだ、あの子も仕事屋か。」


仕事屋?


「それでは、わたくしはそろそろ…」


「あの!仕事屋ってなんですか!?」


「……へ?」


女の子は不思議そうに首を傾げた。


「貴女…違うの…?」


「はい…仕事屋と言う単語も初めて聞きました…」


「それで、そんな格好なの?」


「…はい…そろそろ…自分で生きていかないといけないと思って…」


「へえ。え?でも仕事屋を初めて聞く?」


すると、女の子は私のかんざしを見る。


「…可哀想に…去年の乱で独りぼっちになっちゃったのね…お姫様…」


「?ど…どうしてそれを?」


「立ち話も無粋だし、一緒に武集館に来ない?」


「ぶ…ぶしゅうやかた…?」


初めて聞く言葉ばかりで、まるで別な国…そうだ、ここは別な国だった。



武集館…お酒の匂いが立ち込める、とっても広いお屋敷だった。


「本国の方で言うところの、冒険者に近いもの。ただ冒険者とは違って、戦において国に雇われたり、個人同士の決闘も認められているよ。」


「は…初めて聞きました…」


「うん…貴女の国って岐然の国でしょ?どう言うわけかな…そこは仕事屋になる事、雇うこと、国に入れる事を固く禁じてたの。きっとそれで負けてしまったんでしょう…」


確か、岐然への忠誠心厚い武士こそ我が国の誇りって、昔父上がよく言っていた気がする。


「…そうだったんですね…父上…」


刀の鞘をぎゅっと握りしめる。

すると、その女の子が私の右肩をポンって叩く。


「そうだ、貴女の名前、聞かせてくれない?」


「…あ…その…蓮でいいです。」


「そう、蓮ちゃん。わたくしは紅元(くげん)。仕事屋よ。」


「あの…紅元さん…ごめんなさい…こんなに手を煩わせてしまい…」


「え?いやぁ、丁度暇してたところだし。それに…まさかお詫びが出来るなんて…」


「?」


「な、何でもないよ!それより、蓮ちゃんはどうしてこの仇国なんかに?」


「し…師匠、剣の師匠を探しに来ました。でも…私、まだ子供で…人から怪しまれたり襲われたりして…」


「なら貴女も仕事人になれば良いよ。上物になれば盗賊は怖がって手出し出来ないし、多少身なりが変わってても問題無いからね。」


「そ、そうなんですか…でも、私なんかが成れるかどうか…」


「ふふ…おいで!」


「ふあ…!?」


私は紅元さんに手を引かれて、大きな机の前に連れられた。


「ここに貴女に名前を書いて。」


「こ…こう…ですか?」


父上に、女子は読み書きは要らないって言われてたけど、こっそり勉強してたのが役に立った。


「よし、終わり!そこの絵馬を取って。」


指を指された先には、絵馬が吊るされた板があった。

全部お米の絵が描いてあり、もうご自由にお取り下さい状態だった。


「あ…あの…」


「そうだね〜…これ!」


紅元さんは、そこから適当に一枚取って私の首に掛けてくれた。

え?まさか…


「おめでとう!蓮ちゃん!今日から貴女は仕事屋さんだよ!」


「え?………え〜〜〜〜……?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ