先輩と後輩と自分
「ところで後輩。名前はなんていうんだ?」
「え?知らなかったんですか?まあ俺も名乗ってないですから別にいいですけど。」
「そうか。まあ名前などどうでもいいな。自分が自分であるためには名前など必要ない。」
「まあ俺は先輩の名前は知っていますけど。」
「何?なぜ知っているんだ?僕も名乗らなかったはずだが。」
「先輩は、校内一の有名人ですからね。」
「む?そうだったのか。」
「宇宙人と名乗る子供みたいなかわいい生徒がいるってね。」
「なんだそれは!僕は子供じゃない!僕の星ではもうすでに僕は成人なんだぞ!」
「はいはい。それで今日は何の話ですか?」
「後輩は何をもって自分を自分だと思っている?」
「アイデンティティですか?特にないですが。」
「アイデンティティとはズバリなんだ?」
「自分にしかないものですか?」
「そうだな。自分にしかないから自分であれる。しかし後輩はそれがないという。それはなぜだ?」
「自分は皆と同じだと思ってますからね。」
「では皆と同じ髪を持ち皮膚を持ち思想や思考を持っているのか?」
「、、、いやそうではないですね。」
「なればそのようなものがアイデンティティかもしれないな。」
「じゃあコンプレックスもアイデンティティと言えそうですね。」
「確かに。では、なぜ後輩は自分のアイデンティティがわからなかった?」
「、、、自分が見えてないからですかね。鏡を見ないと自分は見えませんから。」
「そうだな。ではなぜ後輩は僕が僕だと分かった?」
「それは、うわさで先輩の事を聞いていましたから。」
「でも僕はそのことを知らなかったし自分からこれがアイデンティティだなんてことも言わなかった。つまり自分が自分だと決定しているには他人だという事かも知れないな。」
「、、、うーんでも俺の事は俺で決めたいし他人にお前はそういう人間だなんて決めつけられたくないですね。」
「それは僕たちには自分はこうでありたいという理想があるからかもしれないな。まあだけど自分の決定は他人じゃなくても出来ると思うがな。」
「どうやってですか?」
「他人を見て自分を客観視するんだ。いろんな人を見て大体の人が持っていなくて自分が持っているもの、それがアイデンティティになるはずだ。」
「なるほど、他人は自分の鏡とも言いますしね。」
「じゃあなんで自分は自分でないとダメなんだ?」
「それは、、、自分である必要がなくなると社会で求められなくなっちゃうからですかね。」
「求められないと嫌なわけだ。じゃあ逆に言えば求められることは幸福であるわけだ。」
「そうですね、だれしも選ばれし勇者になりたいですからね。」
「あはは、選ばれし勇者か。面白い表現だな。」
「それにしても俺にしかできない事ってあるんですかね?」
「絶対あるさ。日本になかったら外国にあるさ。地球になかったら宇宙に。自分は自分にしかなれないからな。少なくとも僕は後輩は後輩がいいし後輩でなくちゃ嫌だ。」
「なんだか愛の告白みたいですね。」
「、、、。それで後輩の名前はなんていうんだ?」
「俺の名前ですか?俺の名前は――。」