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砂漠の蝶  作者: Akka
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その意味を

R15指定がしてありますので大丈夫だとは思いますが、一応ご注意ください。

「……っーーー!」」

 剣術も体術の鍛錬も、怠ってきたつもりは無かった。

 守られるだけの人間ではいたくなくて、いることは出来なくて、努力を積み重ねてきた。

 しかしそんなものは何の役にも立たない。必死の抵抗さえやすやすと封じ込められて、不本意な唇を甘受するしかないなんて。二人の間に距離をとろうと、わずかにしか動かない身体をよじる。

 見開いた目から、涙がこぼれた。

 息が苦しくて、頭に酸素が回らない。それなのに拘束は少しも緩むことが無くて、出来ることといえば硬く唇を閉じていることだけ。

 こんな屈辱を受ける謂れは無い。

 それなのに拒否することが出来ないなんて。

 

 もう立っていることが出来ない、そう感じた瞬間に硬い拘束がわずかに緩み唇が開放された。

 反射的に空気を求めて口を開くと、目の前に端整な顔立ちが飛び込んできた。一連の行為の真意を質そうと瞳を覗き込んだ瞬間に、再度唇が塞がれる。

「ん―――っ!!」

 先ほどの口づけとは明らかに違う。更に深く口腔内を犯される。差し込まれた舌を押し返そうと反射的に差し出した舌が絡めとられ、蹂躙される。

 経験のない感覚に、本能的な恐れを感じた。

 

 怖い。怖い。

 コレは、何――――?


 角度を変えて、何度も、深く深く。

 いつしか拘束は緩くなり抱きしめるようなものに変わっていたが、もはやそれに気付く余裕はなかった。気付いたとしても、抵抗する力は残されていなかっただろう。

 





 終わりは突然。

 解放された直後に、強く肩を押された。後ろに突き飛ばされ、こらえきれずに飾り棚に倒れこんだ。派手な音を立てて、飾られていた壷や置物が崩れ落ちた。

「間違うな」

 低い声が、静かに響く。

「変わるのは対外的な立ち位置だけだ」

「……へい、か…」

 肩や背中が痛む。けれど何か言わなければいけないと思った。

 顔を上げると、乱れた髪の間から何の感情も伺うことの出来ない二色の瞳が冷徹に見下ろしてきた。

 

 この口づけはただの制裁と牽制。

 立場の違いを認めさせるためだけの行為。

 何よりも能弁に、その瞳が告げている。


「私は貴女に干渉するつもりは無い。そちらにも無用な干渉は控えてもらおうか」

 立ち上がって対等な目線で話をしなければならない。このまますれ違ってはいけないと思う。しかし身体の痛みがそれを許さないのが歯がゆい。

「陛下…!」





 

「失礼します!いかがなされました、ショウコ様?!」

 先ほどの物音を聞いて耐え切れずに入ってきたらしい。ケンが座り込んだショウコを見て駆け寄ってきた。

 その様子を皇帝が無感情に眺める。

「お前が、ケン・ショートか?」

「失礼ですが、陛下!ショウコ様に何を!」

「……なるほど」

 皇帝の顔に笑みが刻まれる。それは間違いなく、軽蔑が混ざった嘲笑。

「オースキュリテの姫、貴女が何をしようと私には関係の無いことだ。この者との関係も一切詮索するつもりは無い。但し」

 皇帝はショウコに背を向けて、歩き出した。

「そちらの行動しだいで、対応が変わることを十分にご理解いただこう」







 動くことが出来ず、去っていく皇帝の背中を見守った。その姿が見えなくなると同時に、強い疲労感と自責の念が襲ってきた。

「いかがなされたのですか、ショウコ様……!」

「私が悪いのよ。何とも無いわ」

「何をおっしゃいますか!医師を呼びますのでお部屋にお連れします。皇帝陛下にもにもお聞きしなければならないことがあります」 

 立ち上がろうとするケンを押しとどめて、ゆるく首を振る。

「大事にしないで、私のことを思うのなら。今から本格的に両国の友好を築こうとしているこの時期に、こんな些細なことで台無しにしたくない」

「オースキュリテという国の威信はどうなりますか。このような扱いを受けて、何もしないなど!」

「お願いよ、ケン。貴方さえ黙っていてくれれば分からない。お願、い……!」

 意識が遠のき始める。でもこれだけは我侭を押し通さなければならない。痛みのせいではなく、緊張の糸が切れたせいだとどこか冷静な頭で分析した。

「ショウコ様…。分かりました、大事にはいたしません。ですが医師の診察は受けてください。堅く口止めいたします」

 それに頷くと、ショウコは意識を手放した。

 





 あんなにも感情的になるなんて、自分でも思っていなかった。大抵のことには感情を押し隠して対応する自信があった。

 しかし淡々と紡がれる言葉に、静かな瞳に、感情を乱された。

 それでもまだ冷静だったはずだ、あの涙を見るまでは。

 ただの牽制なのだから、あの時解放すればよかったのだ。好きでもない男の口づけを受け入れなければいけないというだけで、十分屈辱的なことだろう。変に拗ねられても厄介だ。

 しかし、ただ呆然と見上げてきた漆黒の瞳と流れる涙に、制御しきれない感情が渦巻いた。

 

 それはきっと、本能的な支配欲。

 折れそうなほどに華奢な身体。理性的な思考のわりに、幼い感情表現。


 それらに一瞬でも感情が揺さぶられたからこそ、感情をあらわに姫を心配し自分に詰め寄ってきた男との様子に荒立ったのだ。自分を立て直そうとしていたときだからこそ、余計に。

 ひどい言葉を投げつけた自覚はある。

 

 制御しきれない感情は危険だ。長年の経験で嫌というほど分かっている。

 だからこれは、一時の気の迷い。

 感情が制御できないのなら、切り捨てるまで。

 

 





拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。

読んでくださった方に感謝を。


感想などいただけると嬉しいです。よろしければお願いします。

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