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俺シリーズ

大凶Ⅱ

作者: 天神大河

前作『大凶(http://ncode.syosetu.com/n1845db)』の続編です。前作を読めばより楽しめるかと思います。

 午前零時。新年が始まったまさにその瞬間、俺は近所の神社に赴いていた。いつも初詣のシーズンは人でごった返しているそこには、案の定、大勢の人が群がっている。

 雪が降る夜中にも関わらず出来上がっていた長い行列を、俺は全身を震わせながら進んだ。手早く初詣を済ませたところで、俺は真っ先にあの場所へと向かう。そう、『絶対当たる一年の運命おみくじ』を売っている社務所だ。


 俺は昨年、この『絶対当たる一年の運命おみくじ』で大凶を引いた。その結果、元旦当日から昨日の大晦日に至るまで、ずっと不幸な日々が続いた。大きな不幸から、小さい不幸までその中身はピンからキリまでさまざまだったが、とにかくいやな一年だったことには違いない。

 そして今、俺は再びすべての元凶たるこの神社へとやって来た。昨年の大凶で狂わされた一年を取り戻すべく、俺は今度は大吉を引く。そう息巻きながら、俺は周囲にいるカップルやリア充、家族連れに構うことなく例のアレを購入する。


 五百円お納めください、と中年の巫女さんがニワトリのように甲高い声で鳴くのを聞きながら、俺は事前に用意していた五百円玉を無言で差し出す。巫女さんに聞こえないよう、厚化粧濃すぎて妖怪みたいになってるぞババア、と心の中で毒づいた。やはりこの神社の神主は、若い巫女さんから熟女へ路線変更したらしい。社務所には五十、六十代のババアが勢揃いしていたからだ。高齢化が進んでいるとはいえ、目の毒としか言いようがない。


 そして俺は、再び手にした『絶対当たる一年の運命おみくじ』の袋をガン見する。まさか二年連続で大凶はあり得ないと思うが、しかし……そう思いながら、俺は一縷の望みに賭けた。五百円を払って買ったおみくじを、ゆっくりと開封する。そして、その中に入っている長いみくじ箋を、そっと取り出す。


 みくじ箋に書かれた文字が、俺の目に映る。






『大』


 おおっ、これは。まさかまさかの大吉! しめた! そう思った俺は、口元に笑みを浮かべながら勢いよくみくじ箋を取り出す。右腕を目いっぱい天に伸ばして取り出したので、周囲の目が痛いほど刺さったが、こんなものこれから訪れる幸福の前では些細なものだ。そう思いながら、俺はみくじ箋を再度確認する。










『大凶』






 ……は?






『大凶』






 …………は? え?


 俺は訳が分からず困惑しながらも、みくじ箋のど真ん中に大きく書かれた二文字を凝視する。社務所の灯りでほんのりと照らし出されたそれは、やはり大凶だった。大吉ではなく、大凶。何度見ても、凶が吉になることはない。俺はその場で立ち尽くしながら、みくじ箋に書かれている文字へと目を移す。寒さが身に染みてきたのを堪え、かじかんだ指をそっと動かした。




『まーた大凶引いちゃったんすかwwwwwwwwww懲りないねえwwwwwwwwwwwwwwwww』




「ふざけるなああああああああああああああああああああああ!!!!」




 俺は思わず、境内の中心で叫ぶ。周囲の連中が俺を見てすぐに目を逸らしたが、そんなことはどうでもいい。問題は、どうして俺が二年連続で大凶を引いてしまったかだ。世の中には、大吉、中吉、小吉、末吉、吉、凶、そして大凶の七種類がある。最近の神社では大凶を入れる数は少ないと聞いたから、大凶を引く確率は、大雑把に言えば七分の一以下だ。その七分の一以下を二年連続で引くことを予期していたおみくじの内容に、俺はどうにも納得がいかなかったが、一応中身を読んでみる。



『仕事・取引 職に就く事叶わず。例年通り家に籠るが吉』

『恋愛・縁談 男を探ればよし』

『怪我・疾病 異常なし』

『出産 は?』

『受験・学問 察せよ』

『商売・金運 親を頼るべし。過度の出費は控えよ』




 みくじ箋の内容は、昨年に比べて中身もへったくれもなかった。全体的に諦めムード満載かつ昨年の使い回し感が酷い、酷すぎる。神主は熟女一本だけに焦点を当て、おみくじは完全に手を抜いている。そう確信した瞬間だった。

 俺だけをピンポイントに狙ったおみくじを手にしながら、俺は一歩前へと進んだ。その瞬間、俺の頭に何かが落ちてきた。うわっ。小さく声を上げながらも、頭に付着した黒っぽい液体を手に取った。


 臭い。


 液体の正体は、どう考えても鳥の糞だった。周囲の人間どもが俺を見てひそひそ話を展開する。うわっ、あいつクサッ。臭すぎー。そう声に出すDQNをよそに、俺は顔を俯けたまま歩を進めた。

 俺を避けるべく開かれた参道を、モーセのごとく進んでいた俺の身体に、突如何かがぶつかった。石畳に腰を打ち、痛みにあえぐ俺の前に立っていたのは、中学生ぐらいと思しき美少女だった。あっ、すみません。俺がそう言いかけたところで、赤い振袖がよく似合っていた彼女は俺を見て、両目を潤ませる。一気に顔を紅潮させると、美少女は神社全体に響くほどの大声で叫んだ。



「助けてー! この人、痴漢ですー!!」



「えええええええええええええええええええええええええええええっ!!!?」



 またこのパターンかよ! 俺はそう思いながら、その場から立ち上がる。腰の痛みに耐えつつ、逃げる。

 もう冤罪はごめんだ。心の中でそう呟き、人混みの中へと逃げた。既に夜の一時を回っていたが、初詣の行列は衰えることなく、神社の入口まで続いていた。

 幸いにも今度は、ギャラリーに取り囲まれることなく逃げられそうだ。ほっと一息吐いた俺は、何かがぶつかる。ふと顔を上げると、そこには振袖を着た三十代ぐらいの細身の男と、力士のごとき体型をした厚化粧のオッサンが立っていた。男たちは俺を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。



「アラ~、あなたさっき向こうで騒がれてた痴漢ね? いたいけな女子中学生に手を出そうだなんて、イ、ケ、ナ、イ、子」


 振袖を着た男はそう言いながら、俺の唇に細く白い指をあてがう。その様子を見ていた厚化粧のオッサンは、一度小さく頷き、男の耳に顔を近づけて提案する。


「そうね。こうなったら、アタシたち二人でとことんオシオキしなきゃね」

「まったくね~。まぁ、中学生に手を出したら犯罪だし? 年頃の男のコと言っても、分別はつけなきゃね。代わりにぃ、大人のアタシたちがいろんなことを教えて、ア、ゲ、ル」


 振袖の男は、今度は俺の唇に自分のそれを重ねてきた。その瞬間、俺の全身に鳥肌が音もなく立った。


「そうと決まれば、善は急げね。今すぐアタシたちの車に乗せちゃいましょう」


 厚化粧のオッサンが一度ウインクをして、俺を見る。俺は、どこかで感じたデジャヴを頭の中で感じながらも、男たちから逃げようとした。だが、男たちはそんな俺の両肩をあっさり捕まえ、強く押さえこんだ。そのまま、俺はオネエ二人に連れ出される。



「いやだーっ! もう大凶はこりごりだ、誰か助けてくれーっ!」




 こうして俺の今年最初の不幸は、予期せぬハッテンを迎えたのである。




大凶Ⅱ/完

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