シーン6 エンドウォールの事情(1)
既に陽が暮れたものの、まだ眠たくならないので、ふと呟き始める。
「僕、数年前まではエンドウォールという都市に居いてさ。あそこは魔物との戦いで怪我した戦線負傷者も多く居るからね。例えば、戦場で両手両足を切断されたり。そういう人は見慣れているんだ」
セイラは首を傾げ、不思議そうにバルドを眺める。
「そういえば、マサリさんと知り合いでしたね。どうやって会ったんですか?」
セイラがそう言った途端、空気が急激に冷え始めた。
「そうか。うん、そうだね。マサリ様のこと知らないだもんね。今の僕は気分が良いし、教えてあげるよ。たっぷりねっとりしっとり…」
「そ、そんなに語らないでもいいです!」
「おっと、ごめん。話を戻すね。僕、終末都市エンドウォールに居た時、そこを中心に活動しているマサリ様を追いかけたんだよね…。それはもう周りから飽きられたぐらい。他にマサリ様との絡みで色々とやって、“偏愛ストーカー”の二つ名を貰うぐらいにはやらしているし」
「そういえば、噂で聞いたことあります。あなたの事だったの…」
「あっ、知っていたんだ。だよねぇ。マサリ様、世界的にも有名だし、そのついでに僕の事も悪い意味で広まったんだよねぇ」
石に囲まれた小枝が燃え、月光が周りを照らし、セイラの髪が風に流れていた。
こんな時に月を見れたら最高だが、運悪く雲に隠れていた。
「偏愛ストーカー…って何をやらしたんですか?」
セイラにそう訊かれると僕は苦笑いをする。
「いろいろあったんだよ。マサリさんにに土下座して愛の告白したり。もちろんフラれたけどね。でも、可愛いし、結構好きだったんだよ。三つ編みの髪結びが特徴的でね。そんで、薄い衣服とショートパンツも目立っていたし。何よりも、どんな誘惑も負けず、喧嘩強い! そして、立場がフリーの最強冒険者! そこに惚れたね! 今でもあんな人は今後会える事は無いなと思っているよ」
「あっうん…。あなたにとっては素敵な人だったんですね…」
「そうだよ! ただ愛しているから追いかけているだけだよ」
「えぇ…」
僕の発言に、セイラ、ドン引きである。そんなに変な事を言っただろうか?
「そんな訳で周りから”偏愛ストーカー“という二つ名を貰いました」
「へ、へぇ。ふ、ふぅん…。もう夜が深いし、そろそろ寝ましょうか」
「うん。そうしよう」
そろそろ火が消えかけていた。小枝を集めて、火が盛り返すようにした。
「こんなもんか」と適当な量を補充できた後、セイラは木の上の小屋に浮遊魔法で行った。
僕はリュックから布を取り出し、体を包んで大木の根元に転がる。
10秒も持たず、眠りに落ちた。