シーン3 邂逅(1)
野営拠点一番奥のテントの前で立ち止め、叫ぶ。
「ザロン様! バルド・ブールアです。ただ今参りました!」
「よし。入れ」
声を聞こえてから入る。
テントの中には、個性ある冒険者達をまとめ上げる野営拠点の長、ザロン様が腰深く座って構えている。彼は50代過ぎの男性であるが、かつて一流の冒険者として大陸全土に名を知れ渡っている。
ザロン様の側に、美しくも傷だらけの僧侶が居た。
肩掛けマントを纏い、瞼を閉じた左眼に古傷がある。左脚は義足を付けていて、右脚は白色のタイツを履いている。
どこか幼さを残しながらも、神々しい雰囲気を醸し出している。
「こいつはバルド・ブールア。冒険者だ」
ザロンさんが自分を紹介してくれる。
僧侶が微笑み、語り掛けてくる。
「あぁ、貴方がバルド・ブールアさんですね。私はセイラです。まずは貴方宛の手紙を読んで頂きたく…」
「手紙…?」
疑問を持ちながら、傷だらけの僧侶から羊革紙を恐る恐る受け取る。
「ここで読んでも…」
「構いません」
「では」
早速羊革紙を広げ、読み込む。
『バルド、聖女の護衛を頼む。偏愛ストーカーならやってれると信じるぜ。あんなに愛を語ったんだからな。あと、生きて帰ってくるな。そろそろくばたれや。 byマサリ』
丁寧に羊革紙を畳み、拳を握りしめる。
「生きて良かったッッ…!あの”邪神泣かせのバランスブレイカー“の異名を持つ、マサリから直々に書いてくれるなんでっ…! 僕、モーレツに感動ッッ…!!」
涙を流し、思いに浸る僕。それを見た周囲はドン引きする。
古傷が目立つ僧侶はやや半眼で声を潜める。
「は、はぁ…。そんなに嬉しかったんですか…。私、手紙には見てないから内容は分かりませんが…。まぁいいです。ザロンさん、この人を連れて行きます」
「確かにそこそこ強いが、この偏愛ストーカーでいいもんかね…?」
「ええ。要望の通りでした」
「そっか、なら安心しろ。この状態のバルドなら、お嬢が目指す目的地まで守ってくれるし、気が済むまで付き合ってくれるさ」
傷が気にならない程の美しい僧侶は僕に向き、落ち着いた様子で話す。
改めて見られると緊張してしまう。
「今から貴方を雇います。かつて騎士団に入っていたというバルドさんに護衛を頼みたいんです。目的は色んな所に行く事です。それなりの金は用意してあるし、条件があればできる限り聞きましょう」
僕は黙り込んで自分の現状を考える。
やがて、はっきり頷いた。
「護衛は分かりました。他は有りません」
「それじゃ、出発しましょうか」
そう言い放つと、僧侶ーーセイラはテントの外へ出て行った。
「えっ、ちょ」
慌てて追いかけていく。
「頑張れよ、バルド!」
背後からのんびりとしたザロン様の声を受けながら。