シーン1 幕開けは悪天候から
雲一面の空から雨がぼつぼつと小降り始める。
悪天候に気づいた観光客は素早く店内に駆け込む。
それまで切り盛りしていた露店も早めの閉店する。
人足が減った、エンドウォールの中央都市デナンの商人通り。
その一角に一際目立つ建物。その名は<月夜の朧亭>。
仕事螺旋所であり、酒場だ。
外はじめじめとした空気になっているのに、店内は愉快な人の笑顔で賑わっていた。
未だに冒険者協会の面影が残っている店員。その人達が忙しく駆け回っていた。
雨天候の為、客足が増え、席がほぼ埋まっていたからだ。
あちこちで呼び出しを叫び、注文が受け付ける。
一旦雰囲気が落ち着いた頃に、歌声が<月夜の朧亭>に響き渡る。
最近目立つようになった、三つ編みの緑髪で、鎧を着用している、うら若き乙女だ。
わあっ、と歓声が湧く。
それなりの美貌を持つ乙女に歌声は男達のハートを射抜いたかもしれない。
注目が集まり、歌い切るまで誰も立ち上がろうとはしなかった。
うら若き乙女が頭を下げて、一礼する。
ちらぼら拍手が起こる。
だが、すぐに歌手が交代し、別の男性が出た時。<月夜の朧亭>に集まった人達が一斉に舌打ちを盛大に鳴らした。
*
雨が降る音。
果物汁を飲みながら、窓際の席にて、外の音に耳を傾ける。
ため息を何度も吐いた頃に、見慣れた男性がやってきた。
スカンオル・インティ。鎧を付けており、槍を所持していた。
最近一緒に依頼を引き受ける事が多い。
「やあ。調子はどうだい?」
軽く挨拶を交わし、問いかける。
「平気ですよ。それよりも、ティアさんは?」
彼は周囲を見回し、人を探す。
「ティアさんなら、さほど離れていない所の席で、僕の知り合いと話をしているよ。盛り上がってきたから、ここでのんびりしているんだ」
ギルドのメンバーは3人。
バルド・ブールア。スカンオル・インティ。
そして、ここには居ない、ティア・ラッセル。
この3人だ。
常に一緒に行動するように気を配っているが、バラバラに行動する事も有る。
「なるほど。では、掲示板へ見に行ってきますね」
「僕も行こうかな。のんびりするのも、そろそろ飽きて来たんだ」
「この悪天候ですから、冒険者もここに集まっていますが。さてどうなるか」
「んー。まぁ、深く考えないで行こうよ」
肩を竦め、冒険者達の間を潜り抜けて、掲示板へ向かう。
*
依頼板には様々な内容の羊皮紙が張り出している。
その内で一際目立つ依頼紙を剥がす。
「何ですか?」
掲示板から少し離れてから、スカンオルが訊いてくる。
依頼紙を眺めながら説明する。
「幽霊が出るんだって。そのせいで村の評価が下がっているらしい。こんな案件だからこそ、日頃から祈っているスカンオルの信仰心が役に立てるかなって」
「何故知っているんですか・・・・。それよりも、残念ながら、期待に応える事は出来ませんよ。確かに信仰心は有りますが、技は持ち合わせておりません。幽霊を祓うには、それなりの技が要ります」
スカンオルの説明を耳を傾けて、依頼紙を読み直す。
「うん。僧侶を連れて行こうかな。説得が大変だけど」
「バルドの誘いならば、賛同する人はいるのでは。例えば、シャンダー教団とか」
「あそこ、僕のことを一番嫌っているから無理。マサリ様の事も有るし」
「ならば、旅に出てる僧侶を探すという方法が有りますが」
「その道の人にいい思い出が無いんだよね・・・」
バルドの表情が暗くなり、空元気の笑い声が僅かに震えた。




