シーン7 さあ、やるぞ
マサリ様の説教が意外にも早く終わり、宿屋に戻る。
しかし、既に閉まっており、「あちゃー」と頭を抱える。
火の精霊の集団は既に姿が無い。
近くの【魔除けランタン】が煌めいている。
「そんなことだろうと思ったわ」
何故か、声が聞こえ、内向きに宿屋の扉が開き、その向こうにティアが待ち構えていた、
隣にはスカンオルが控えていた。
「話はスカンオルから聞いたわ。どうせ、遅くなるからと思って待っていたわ」
「どうして」
「一人で寝るには不安だし、一緒にいた方がいいでしょ。それにあたしの腕について話したい事があるの」
ーーーー
宿屋の二階の小さな部屋に移動する。
何とか3人ギリギリ入れる広さだ。
空気を察した、スカンオルは部屋の前に立つ。逃げたな。
ティアと僕が座ると、彼女はこれまでの経緯を語り始める。
攫われた直後の記憶がない事。
真っ暗な空間で真っ白な竜ウォルランに出会った事。
その際、両腕が喰われた事。
バルドの過去らしき情報を聞いた事ーーー。
「でね、ここからはあたしの昔話になるんだけど・・・・」
ティアの昔話は真面目に書くとダラダラ続きそうなので、簡潔に説明する。
・かつては有名な、魔術師一家だった。
・今は、その面影がない程、貧乏になった。
・何とか立て直ししようと奔走した矢先に、異人になった。
・激しい差別を受けて、故郷から飛び出した。
・地味な魔法だけを頼りにエンドウォールにたどり着いた。目立たない魔法ばっかりなので、気を使われるのが大嫌いだった。これがもう一つの隠したい秘密。
「ーー以上。これがあたしが話せる事よ。あたしの腕なら気にしなくてもいいから。真に恨むべきはウォルランよ」
一区切りをつけて、ティアは無言になる。
黙って傾聴していた僕の表情が険しくなる。
「君の事は分かった。ーー実は先程、マサリ様に出会ってね。しばらくティア・ラッセルの側に居ろって命令されたんだ」
「それって・・・!」
はあっ、とティアの表情が明るくなる。
タイミングを見計らって、ある案を切り出す、
「それと思い付いた事が有ってね」
ーーーー
「ギルドを作る!?」
ティアの叫び声が耳に響く。
「うん。ギルド。いわゆる<月夜の朧亭>に属する”小さな組織ギルド”。これを僕と、もうずく闘人証のDランクに上がるティアさんで結成するんだ。ギルド向けクエストも有るし、危険が有る分、稼いでいく事が出来るよ。余裕が有れば、スカンオルも入って貰おうかな・・・・」
「ななな、なんで」
「だって、金を払うよりも、一緒にクエストをやっていく方が良いでしょ。気が知れた仲だとクエストの難易度が下がるし・・・・」
僕の説明に、ティアは段々無口になっていく。彼女の短くなった両腕がひくひくと動いていた。
「でも、いつ危険が来るのか、分からないし」
「そんなの、日常にあり得る事だよ」
「うっ・・・・」
僕の返事に言葉を詰まらせる、ティア。
そこに、スカンオルがやってきた。
「終わりましたか?」
ーーーーー
ティアはエンドウォールに来た時着たマントを出し着込む。喰われた腕がマントの裏に隠れ、気にしなくなった。
「そうだ、赤神官服の男達の対策を話し合おうよ」
これ以上被害が出ないように、僕からどんどん発言する、
他にもやる事はいっぱいある。
座り込んだスカンオルが賛同する。
「そうですね。それが良いと思います」
何か言いたげなティアが皆を見回す。
「それは分かるけど、そろそろ自分も皆と一緒に冒険と行きたいなぁ〜・・・って駄目?」
彼女の提案に僕らは微笑む。
「そうだね。焦らずゆっくりやろうか。もちろん無理しない範囲でね。よし、明日からの予定を決めよう。さあ、やるぞ」




