シーン5 火の精霊の集団
ーーバルド・ブールア視点ーー
側面から腹に鋭い牙が迫り来る。
紙一重で避け、ショートソードを振るい、反撃する。
黄色の毛皮が真っ二つに分かれ、新鮮な血が飛び散る。
一角狼の死に様を見届け、次のターゲットに視線を移す。
バルドの周囲を囲んだ、魔物達が吠え、鳴き声を上げる。
さほど離れていない所にスカンオル・インティが槍を突き、魔物を倒していた。
十数分前、サバギン集団を撃退した後、中央都市デアンのあちこちに魔物達が現れた。
他の冒険者も騎士団も出張っているが、流石に見逃す事はできず、魔物達を倒し回っていた。
空は既に暗くなっており、【魔除けランタン】の灯りが輝く。
視界も狭く、やりにくい。
この瞬間も住人に危険が及んでいるかもしれない。
だが、魔物達のせいで思うように動けなかったのだ。
一から鍛え直した剣技で最後の魔物を斬り伏せる。
「ふぅ・・・・・」
もはや敵の気配は無い。
安堵の息を吐く。
眼を閉じ、頷き、気持ちを切り替える。
瞼を開けたバルドの所に。
騎士としての武技で敵を倒し終わったスカンオルが帰ってくる。
「終わりました。そちらは?」
「うん。もう大丈夫。ただ・・・・・」
足元に視線を落とす。
踏み荒らされたが、ティアを連れ去った、赤色の神官服の男が乗った馬の足跡がうっすら残っている。
「このまま、追いたい。けど、暗いし、ランタンを持って行かないとね」
「リュックは?」
「<月夜の朧亭>に置き忘れたよ。もう遅いし、閉まっているかもね」
「では・・・・」
言葉を詰まり、自然と沈黙が訪れる。
夜の追跡はランタンなどの明かりが無いと難しい。それに、魔物が寄ってくるなど危険性が高まる。
顎を摘まみ、考え込む。
『なーなー』
聞き慣れない声が聞こえた。
いつの間にか、周囲に50cmぐらいの半透明の子供達が浮かんでいた。服は着ておらず、大切な所を炎で隠している。
火の精霊の集団だ。
『なんか、こまっているね~』
『マサリにいけっていわれたけど~』
『どうやってやるの~?』
わいわいと楽しくお喋りしながら、色々と教えてくれる。
それは精霊の集団の特徴であり、周知の事実だ。
なお、彼らは小さくても火の精霊なので、居るだけで周りを照らす。
この特性だけでも、僕らにとっては充分喜ぶべき事だ。
「マサリ様・・・・!」
中央都市デアンの大教会に居るだろう、大好きな人の姿を思い出し、感動する。
「じゃ、僕らの隣に居てくれるかな? それだけでいいから」
簡単なお願いを火の精霊の集団にすると、彼らは頷いた。
『うん。わかった~』
その言葉を聞いた瞬間、拳に力を込める。
ーーこれでティアを助けに向かう事が出来る!
すると、スカンオルが恐る恐る火の精霊の集団に呼び掛ける。
「あの、できれば、私に『お兄ちゃん』って言って欲しいのですが・・・・。特に女の子の皆さんに」
「おい」
ちっぼけな要求にツッコミを入れた。
火の精霊の集団はお互いに目を合わせ。
『『『お兄ちゃん』』』
珍しくこっちの要求を応えてくれた。
スカンオルは瞼を閉じ、拳を振るわせ、心底から感動していた。
次に、ゆっくり瞼を開け、僕を見る。
「バルド・ブールアさん」
「なっ、何?」
「確か、フリィーング王国に、精霊神教という宗教が有りますよね。そこに入信します」
「スカンオル・インティ。悪い事は言わない。けど、周りにドン引きされるから、やめた方がいいよ」