シーン3 狂気の始まり ※ヒロイン視点
ーーティア・ラッセル視点ーー
気づけば、真っ暗の空間に立っていた。
でも、自分の身体は視認できるし、辺りの道路も見える。
完全に真っ暗ではないらしい。
ここはどこだろう?
記憶に無い場所だ。
「そうだわ。あたし、赤色の神官服を着た男に連れ去らされて・・・・」
ついさっきまでの出来事を思い出す。
それからの記憶が途切れている。
しばらく考えてみたが、情報が足りない。
とりあえず、歩いてみる。
一歩を踏み出した瞬間。
(無音声:字幕):「気づいたか、紅の魔女よ」
心に”言葉”が伝わってきた。
同時に真っ暗な虚空の空間に、前触れも無く、真っ白な竜が出現する。
いきなりなので、跳び上がり、後退する。
しかし、その後は何にも起こらず、ただ、目の前に真っ白な竜が居るだけ。
「え? 何々?」
怯えながら、恐る恐る声を上げる。
(無音声:字幕):「ーー我が名は、ウォルラン。かつて、この世界で”エンドウォールの白亜竜”の異名を受けし者」
またにしても、”言葉”が伝わってきて、真っ暗な空間に、真っ白な竜の口が動く。
「あ・・・・無響声」
バルドに聞いたことが有る。
無音声・・・・響かない声だけど、心に”言葉”伝わってくるから、無響声。
そんな感じだったような気がする。
「じゃ、あたしに何かを伝えようとしているの?」
唖然し、見上げる。
(無音声:字幕):「否。我は弱くなった。それも、一匹のコボルトを殺せぬ程にな。故に力を求めた。憎むべき敵、ラ・ギュリアの首を斬り刎ねる為に。紅の魔女よ、礼を言おう」
「は? あたしが何をしたって言うの?」
ウォルランの”言葉”に首を傾げる。
これまでの記憶を辿るが、感謝されるような事はしていない。
むしろ、何でここにあたしが連れ来れたのか、その理由が知りたいぐらいだ。
(無音声:字幕):「汝が起きていれば、少々面倒なので、眠らせて貰った・・・・。その内に、汝の脂肉を喰らったが、これはなかなか良かったぞ」
気のせいか、真っ白な竜が嗤ったように見えた。
あたしが疲れているんだろうか?
ただ、ウォルランの”言葉”を理解するのに、時間が掛かった。
「えっーーー」
思考が停止する。
分かりたくなかった。
分かりたくない。
だから、考えるのを止めた。
(この竜、ナニヲイッテイル?)
ふと、自分の足元を見る。
何が有る。
血に染まった肉だ。
それは、何なのか。
すぐに分かった。
指の残骸だ。
何かに喰らわれ散らかしたらしい。
気持ち悪い。
だが、気づいてしまう。
その指、誰の?
周囲を見るが、誰も居ない。
真っ黒な空間に居るのは、あたしと真っ白な竜ウォルランだけ。
じゃあ、あれは?
誰の指?
頬に、脂汗が流れる。
(ま、さ、か)
動揺し、僅かに残った理性に従い。
ゆっくりゆっくり腕に視線を向ける。
そしてーー息を呑んだ。
嫌だ
嫌だ。
認めたくない。
受け入れたくない。
”あたし”が壊れちゃう。
目の当たりにしたくない。
現実を受け入れたくない。
このーーー。
肘からの先が、両腕が。
包帯に巻き包まれて。血が滲み出てて。
切断されていることを。
見てしまった。
知ってしまった。
もう。
元に戻れない。
「いやあぁああああああ!!!!! 何これ! 何で、切断されているの! 何で何で何で!! ねぇ、答えて! バルド! バルド! どこに居るのぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
錯乱した、あたしは当てもなく走り回り、叫び続けたーーー。