シーン2 降ってくる脅威
ーー全体視点ーー
<月夜の朧亭>は妙な騒ぎに包まれていた。
ティア・ラッセルが変な神官に誘拐されたのだ。
それも馬に乗って、唐突に現れて、去って行った。
誰も理解できない。
頭が現実をなかなか受け入れない。
だが、現実に漂う匂いと周囲の気配が本物であると教えてくれる。
波が引いていくような感覚を覚える。
最初に動いたのは、バルド・ブールア。
ついさっきまでティアと一緒に食事を囲み、食べていた人だ。
「た・・・・大変だ!」
立ち上がると堪らず、叫ぶ。
「僕に対するマサリ様の評価が下がる!」
「「「「 待てコラ!! 」」」
<月夜の朧亭>に居る全員から総ツッコミを受けてしまった。
当然の反応だ。
バルド当本人は思いもなかった反応に首を傾げる。
が、すぐに心を切り替える。
「まぁいいか。マサリ様の評価を上げる為に頑張ろう」
しれっと吐き捨てるゲスな言動。
焦るスカンオル・インティが叫ぶ。
「早く追いましょう!!」
冷静なバルドとは違って、スカンオルは立ち上がり、明らかにうろだえている。
スカンオルが慌てるのはそれなりの理由が有った。
バルドの事をマサリ様に厳しく言われている為である。
『頼むから、あいつにトラブルは起こらないようにしてほしい。できゃ、厳罰だ』
というわけで、今まさにトラブル発生。
マサリ様に如何に報告すべきか。
スカンオルの頭にはそればかり、自問自答する。
そんな仲間の心を知らないバルドが、
「あ、助けたティアさんにこの出来事の証人になって貰って、マサリ様の高い評価を頂こう!」
拳を握り、声高らかに宣言する。
すると、<月夜の朧亭>の全員から心底から呆れた冷たい視線を送られる。
スカンオルの低い声が聞こえる。
「この人は・・・・」
バルドは自分に浴びる暴言を無視して、店員に金を払って。
<月夜の朧亭>から飛び出した。
*
ーーバルド視点ーー
ーーーエンドウォール 中央都市デアン 商人大通り
連れ去ったティア・ラッセルを追い、中央都市デアンの出入り口である、南門へ向けて走る中。
嫌な予感がした。
瘴気の気配を感じ取ったのだ。
来る。
魔物が。
「どこから・・・・・!」
立ち止まり、状況を確認しようとする。
その時、頭上に黒い霧ーー瘴気ーーが集まり、形を造り、魔物となって地に堕ちてきた。
敵の数は多い。
10体は居る。
砂風が吹き荒れ、瘴気が撒き散らされる。
その魔物の姿は、魚に手足が生えたような存在であった。
三又槍を持っており、凶悪な殺意を隠そうとはしない。
その名前はーー。
「サハギン・・・・・」
半魚人の中でも有名な魔物だ。
「ぐ・・・・急いでいるのに」
そう呟いたとき。
見た目とは裏腹に素早い動きで攻撃を仕掛けてきた。
かなり訓練された、連携を取れた集団攻撃。
三又槍を持つサハギンによる、突きの嵐が襲い掛かってきた。
反応が遅れたものの、何とかギリギリで避ける。
もはや心の余裕は無い。
背中に回していて、腰辺りに有るショードソードを抜き、サハギンを斬りかかる。
しかし、サハギンは三又槍で上手く受け流す。
それところか、別のサハギンに横から蹴りによる攻撃を食らう。
衝撃で吹っ飛ばれ、地面に転がる。
「くそっ」
受け身を取り、立ち上がる。
サハギン集団が距離を詰めてくる。
僕もチャンスを見計らって、構える。
先に動いたのはーーーサハギン集団だ。
幾つもの三又槍の刃先が僕を襲い掛かる!
避けようとしてーー盾にぶつかる音が響く。
いつの間にか、目の前にスカンオルが居り、サハギン集団の攻撃を受け止めていた。
「遅れました! さあ、反撃しましょう!!」
スカンオルの言葉に、僕は頷いて応える。




