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シーン1 <月夜の朧亭> ※ヒロイン視点


「あら。バルドさん。スカンオルさん。そこで何をしているの?」

バルド・ブールアとスカンオルに出会ってから、1週間過ぎた、とある日。

昼間にEランク冒険者向けの依頼を速攻で終わらせて、酒場兼仕事螺旋所<月夜の朧亭>に行ってみたら。

ここに寄せられる依頼を書き込んだ羊皮紙を張り出した掲示板。その前でバルドとスカンオルの2人組を見つけた。

「あっ。ティアさん。どうかしたの?」

リュックを背負っている、バルドはあたしを気につくと、軽快な声で答える。

スカンオルは一礼する。

1週間も男女3人で一緒に依頼を解決したり、夕食を共にしたら。

自然と仲良くなった。

その為、お互いに失礼に当たらない程度の挨拶を交わしている。

ひっとしたら、仲良くになるには1週間は早すぎるかもしれない。

ただ、嫌な感じはしない。

「別に。皆を見掛けて、呼んでみただけ。そうだ。夕食は<月夜の朧亭>、ここで皆と一緒に食べましょう」

「それはいいね。僕も予定が無いし。ただ、依頼探しをしたいから、待ってくれるかな?」

あたしは頷き、「ええ。分かったわ」と答える。

「うーん。どうしようかな?」

バルドはいつも見ても凄い量の羊皮紙が貼ってある、掲示板を眺める。

たまに紙を手に取っては離す。。

ふと、気になったことを訊いてみる。

「バルドさん、スカンオルさん。今のランクって」

「私とバルド・ブールアさんはCランクですよ。ゴブリン程度なら、狩れますよ。群れなら痛い目に遭いますが」

あたしの隣に立つ、スカンオルが答えてくれる。丁寧な口調は相変わらずだ。

「まぁ、たまに運が悪く、魔物と戦って、タダ働きになってしまいますが」

「そうなの」

スカンオルも少しは苦労しているんだ。

素っ気ない返事をしておく。

「よし。これにしようか」

バルドが1枚の羊皮紙を持ってきた。やっと決めたらしい。

「内容は?」

首を傾げて尋ねると、彼は羊皮紙を見せてくれる。

内容は単純だ。

『瘴気に侵された、でっかい蛇を倒して欲しい』

報酬額はそこそこいい。

あ。注意書きがある。『Cランク以下不可』

「じゃ、あたしは無理ね」

肩を竦めて、そっと目を逸らした。

「悪いね。これはスカンオルさんと2人でやるから」

バルドは少し困った表情を見せた。

スカンオルは何にも言わない。もう慣れているようだ。

バルドは<月夜の朧亭>の受付嬢の所に行く。他の冒険者の間に良く話題に上がるほど、綺麗な女性だ。スタイル良いし、たぶん看板娘を背負っても良いぐらい。確か、前に受付カウンターの前に座るだけの簡単な仕事をバルドに頼んだ人だったような。

しかし、<月夜の朧亭>の美しい容姿の女性でも動揺を見せず、堂々と依頼について話し合う。

そんなバルドを見て、嬉しくも悲しい気分になる。

「バルドって人を特別扱いとかしないのね」

「いえ、マサリ様には流石に特別扱いしますよ。周りがドン引きするぐらい・・・・」

「そういうことじゃなくて。他の女性を特別扱いしないってこと。前に酷い火傷を負った女性と普通に話していた所を見たの。ブスと言われそうな太ったおばさんに会っても、皆同じような扱いをしていたわ」

相手が男であっても、老人であっても扱いはあんまり変わらない。

バルドは皆ほぼ同じ態度で向き合っているのだ。

「そういうところがバルドの良い所よね。・・・・・ほんと、何でマサリを好きになっちゃったんだろう?」

不意に湧いた疑問。

それは誰かに答えて欲しいと思った。

でも、すぐに返答が来るわけが無く。

ただ、スカンオルは、そっと目を逸らし、「サアドウナンデショウネー」という棒読み。

「ほんと、バルドとマサリに何が有ったの・・・・?」

腕を組んで考え込む。

ふと、周囲を見る。

「良かった。今日もあいつらが居ないわ・・・・」

その時、人気が高い<月夜の朧亭>の受付嬢と話し終わったバルドが戻ってくる。

その表情はどこか、うれしいそうだ。

マサリ大好きで自ら問題を起こすバルドもやっぱり男・・・・<月夜の朧亭>の受付嬢の美貌に惹かれたのだろうか?

「いやぁ、これで僕に対するマサリ様の評価を大きく上げる事が出来るよ。これはいろいろと話題になっている<月夜の朧亭>の受付嬢、フィルナさんに感謝しないとね」

違った。

評価だけ気にしていたようだ。

話にも出てきた<月夜の朧亭>の受付嬢フィルナさんは言うと・・・・受付カウンターで両手で身体を支え、鬱オーラを噴き出している。かなり落ち込んでいる。

「バルド、その・・・・フィルナさんのこと、美しいとは思わないの?」

「え? 何のこと?」

「えっ」

首を傾げる、マサリ大好き男、バルド。

どうやら本当に彼に対するマサリの評価を上げる事しか頭に無かったようだ。

「そういえば、ティアさん。最近、周りを気にしているね。どうかしたの? 何かを恐れているように見えたよ」

バルドに言われ、慌てて否定する。

「あ。ううん。何でも無いの」

「そう?」

バルドは軽く頷いてから、羊皮紙に視線を移す。

彼の表情に普段あたし達に見せたことが無い笑顔が浮かぶ。

気が重くなる。

心の中に、何とも言えない感情が渦巻く。

スカンオルがあたしを不思議そうに眺める。

しかし、このまま居ても答えが出るわけが無く。

あっという間に陽が暮れ、夕食の時間になった。





「ねぇ、どんな女に興味が有るの? 無いの?」

<月夜の朧亭>の客席の一角にて、バルド、スカンオル、あたしで美味しい食事を囲んでいた時。

何気なく疑問を発言した。

バルドとスカンオルが硬直する。

そのまま、しばらく無言の間が続いた。

(あれ? 何この雰囲気。もしかして、あたしやっちゃった?)

そんなあたしに、自らの椅子のそばにリュックを置いた、バルドが苦笑しながら、口を開く。

「まぁ、興味は・・・・無いね。僕、マサリ様が大好きだから」

バルドは予想通りだ。

次に、やや暗い表情を浮かべた、スカンオルが呟く。

「そうですね。私に恋愛なんて、縁が遠いです。私は子供の笑顔を守る為、戦っているので」

そんな言葉に感心するあたし。

「へぇ、そんな目的が有ったんだ」

そんな我々に気を留めず、話を続ける、スカンオル。

「だからでしょうね。大人の女性を見ても、何かこう・・・・ふうん、としか感想が出てこないというか・・・・。やっぱり『お兄ちゃん』と言ってくれる幼女を守りたくなるんで。こうして、騎士になりたくて頑張って蒼天騎士団に入ってーーー」

彼に何のスイッチが入ったのか、半ばポーッとしている。

あたしは無言で椅子を動かした。

「って、待って下さい。何故椅子を向こうへ動かしているんですか。ティアさん!? ちょ、バルドさんも、何で冷めた視線で私を見ているんですか!」

スカンオルの叫びが<月夜の朧亭>に響き渡ったーーー。





しばらくスカンオルの熱弁が続き、ようやく彼があと一歩で犯罪者になりそうな人ではない事を理解する。

<月夜の朧亭>の店員が森から採れた様々な果物を混ぜて煮込んだスープを運んでくる。

目の前に、男2人が居るが、どうも気持ちが落ち着かない。

フィルナさんの事を目の当たりにしたせいだろうか?

とにかく、そろそろ言いたいことが有る。

それを打ち明けよう。

「ねぇ。あたし、まだ言っていない事が有るの」

スープを飲み切った、あたしが恐る恐る話題を切り出した。

「何でしょう?」

スカンオルがあたしを見て、訊ねてくる。

「二つ、隠し事をしているの。あたし、魔法を使えるの。いつもの魔矢じゃなくて」

バルドが目を大きく開き、感心する。

「へぇ、それは驚いた。てっきり魔矢しか撃てないかと」

あたしは頷く。

いつもは魔矢を使っている。

けど、それは魔力マナを固めた、単なる攻撃手段だ。

本当の使い方は自らの身体に宿る魔力マナを吸い上げ、練り、意図的に超現象を引き起こす。

それが、魔法だ。

普通なら、あたしでも魔法を行使できるが、とある理由により、それは封印している。

「で、もう一つはーー」

そう言い掛けたとき。

後ろから爆発音が響く。

あまりにも大きな音に身を縮め、振り返る。

そこは<月夜の朧亭>の入り口が何らかの攻撃によって、大きく開けられていた。

そこから、影が飛び出してきた。

赤色の神官服を纏った男と、その人が乗っている、大きな馬だ。

馬の唸り声が<月夜の朧亭>に響き渡る。かなり大声だ。


「え”」「あ”?」「は?」


いきなりの登場に、誰も頭に理解が追いつかない。

あたし達が固まっている間。

赤色の神官服を纏った男が馬から降りて、あたしに近づいてきた。


「紅の魔女様! 探しましたぞ! ささっ、馬に乗りなされ! 偉大なる我が白亜竜様がお待ちしておりますぞ!!」


「えっ。えええええ?」


赤色の神官服を纏った男は周囲の視線を気にしせず、あたしの手を握り、引っ張れてゆく。

スルスルと、赤色の神官服を纏った男によって、馬に乗られて。


「いざ、参るぞ! どうっ!」


赤色の神官服を纏った男が馬の手綱を操り、<月夜の朧亭>から飛び出していく。

あたしは唖然としたまま。抵抗しようせず。

思考停止していた。

(え? 何? 何が起こっているの? 誰か、この状況を説明してえぇぇぇ!!)。


馬の勢いは衰えることなく。

赤色の神官服を纏った男とあたしは中央都市デアンから出て行ってしまったーーーー。


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