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シーン4 無響声 ※ヒロイン視点



ーーティア・ラッセル視点ーー




あたし、ティア・ラッセルは宿屋の2階の部屋で目覚ました。

まだ陽が現れてない深夜だ。

ついさっき変な気配を感じたのだ。

ふと、今日に起きた事を思い出す。

『月夜の朧亭』で歌を唄ったり。

スカンオル・インティさんと出会ったり。

少し安い宿屋『潜め海』の主人である婆さんが出てきて、遅くやってきたバルド達をあっさり受け入れたり。理由は客さんが少なかったから。

野菜スープがとびっきり旨いと思ったり。

寝る時の部屋は「嫌な予感するから、皆と一緒にしたい」と言ったとき、バルドとスバティに猛反対されたり。

色々と有ったが、忙しい一日はこうして終わるんだろうなと達観する。

ため息する。

エンドウォールに来る前、嫌な思い出が有った。

何故か、白いロープを着た、謎の集団に狙われ、追われて、エンドウォールに来たのに、まだまだ安心できない。

(やっぱり、金を貯めて強い傭兵に護って貰おう)

そう決意した時ーーーペットの周りが暗闇に暗転する。

例えではない。言葉の通りである。

目に映す景色の全色が黒い。

あまりにもいきなりなので、硬直する。



「何これ!?」



驚き、周囲を確認すると、私の隣に見知らぬ女性が立っていた。

白い。髪も瞳も服も。何かも純白に染めている。

短髪。小さな瞳。身長は同じぐらいだろうか。視線が合う。


だが、その容姿と気配によって、これまで私が出会ってきた人とは異質なる存在だと本能が語る。


「あんたは・・・・!」


(無響声:字幕):「私はラ・ギュリア。幾つか言いたいことが有ります。良く聞いて下さい。まず、狂気が忍び寄っています。気を付けて下さい。次に、貴女自身の力を高めたいならば、”魔法の国”グリアルドへ向かいなさい。あそこは手話によって魔法が使える所。きっと良い経験になるでしょう。では、また出会いましょう」


それっぽい台詞で身が構えてしまう。

(何この人。いかにも、大物感がする・・・・)

ふと、宿屋に向かう途中でバルド、スバティから神様の話を聞いていた事を反芻する。

もし、この話が本当ならばーー。


そう思い至ったのと同時に、周囲の世界に”色”が戻る。ラ・ギュリアと名乗る女性も消えた。


「な・・・・何よ・・・・」


突然の出来事に頭が沸騰しそうになる。

ぽーっとして、理解が追いつかず。

眠気に襲われるまで、あたしは周囲をただ眺めるだけだったーーー。





朝になり、目覚ましたバルドとスカンオルに深夜の出来事を知らせる。

彼らは腕を組み唸る。

バルドが呟く。


「夢・・・・じゃないよね?」


「そう思うにはリアルティがあり過ぎたわ。で、手話って何よ?」


「ああ、手話は耳が聞こえない人、すなわち聾者という人達が使う言語だよ。このエンドウォールにも、聾者はいっぱい居るんだ。向こうグリアルドは手話で魔法を使える為に研究している所だよ」


「へー。いつか行ってみたいかも」


「それにしても、ラ・ギュリア様かぁ・・・・・」


彼もどう対応したらいいのか分からないようだ。

普通は信じれないと言われるものだが。


「ちょっといいですか? 話は分かりました。ですが、今は目先の事を考えましょう。昨日宿屋に行った時、話し合った通り、私はニューケル図書館に向かいます。皆さんはいつものように冒険者として行動をお願いします」


スカンオルの発言を受け、バルドは頷く。

冒険者としての行動。

曖昧なイメージが脳裏に浮かぶ。

だが、どうしても実感が湧かず、首を傾げる。

戦う術は有る。

魔物の脅威は知っている。

それでも、だ。


「さっ、行こうか?」


そう言って、バルドが私の背を優しく押す。

後押しのつもりだろうか。

嬉しくも嬉しいとは思わない。

私にとって、バルドは冒険者であり、金で雇う傭兵だ。

特別な感情なんて微塵も持ち合わせていない。

スカンオルは冷静に「では、まだ会いましょう」と言う。

でも、心に引っかかる事は有る。

何となく嫌な予感がする。


「えっ、でも。一人で行動する方が危ないんじゃ」

「大丈夫です。慣れています」


毅然と言い返すスカンオルさん、それはそれで嫌な予感がする。

いや、戦いには経験済みだろうし、心配するなど余計な事かもしれない。

もはやスカンオルを心配する事を諦め、月夜の朧亭に行くことにした。

でも、ただ。

スカンオルが向かった方向を眺めながら。

何かが起ころうしている・・・・そんな予感がした。




月夜の朧亭に入ろうすると、人々の熱気に当てられ、軽く腰を引いてしまった。

その間、バルドが先に入っていく。

一瞬気分がへこみ、不死鳥の如く復活し、踏み入れる。

玄関の近く席に座っている、坊主頭のおっさんがこちらを見て、ニヤッと微笑む。

その手元には盛り込んだ男前な料理とリンゴをを使って作った酒が有る。

私はちょっと唸り、眉を潜める。

どうしても月夜の朧亭の光景に慣れない。これを受け入れる気がしない。

「大丈夫?」

バルドが心配そうに私を覗く。

「大丈夫に見える?」

「よく有る事だし、気にしない方が良いよ」

彼は苦笑しながら優しく接してくれる。

考えるな。感じろ。

深考したら負けだ。

そういう事だろうか。

「君が何を思ったのかは知らないけど、多分違う」

「うー」

私は不満そうな顔と何とも言えない声で答えた。



受付カウンターに行くと昨日とは違う人が立っていた。

この事に疑問を持っていたがさらっと流す。

受付カウンターに直行せず、隣の掲示板へ向かう。

今日も多くの依頼紙が貼っている。

「さて、依頼を探すか。ランク制限が有るから注意しないと」

「ランク制限?」

「うん。僕らは闘人証を持っている。でも好き勝手に選ぶ事はできない。できちゃったら身の丈に合わない危険に遭遇しまうからね。それを防ぐ為に、ランク制限を設けられたって事」

「ふうん」

「で、そのランク制限を詳しく説明するとーー」


ーーーー


ランクE:普通人、闘人証を持っていない者、特に危険が無い仕事。


ランクC:下級冒険者。弱い魔物を狩る程度の実力者。


ランクB:中級冒険者。護衛をしたり、そこそこ強い魔物を殴れる実力者。


ランクA:上級冒険者。様々な実績を積み上げた、かなりの実力者。一国の規模なら誰でも知っている。


ランクS:国家級冒険者。伝説的実績を遺した、超・実力者。その気になれば、国家指定危険魔物を倒せる。


ーーー


「ーーという感じ。基本的は自分のランク以上の依頼しか引き受ける事ができないから、気を付けたらいいよ。僕は闘人証を配給されるまでランクEの依頼を選ぶ。君は?」

バルドに問われ、闘人証(仮)を見せる。

「うん。一人で頑張ってね」

「分かったわ。しばらく1人でランクEの依頼を引き受けてみるわ」

「そういう事なら、僕は干渉しないよ。お互い、身体に気を付けて頑張ろう」

「ええ。そうしましょう」

バルドの言葉に頷き、依頼紙に手を伸ばす。


「それじゃ、僕は1人でやるよ」


「え。一緒にやらないの?」


「その方がいっぱい体験できるよ」


「嫌よ。一緒に行きましょう。その方が安全だし・・・・・」


「え? 何で?」


バルドに訊かれて、言葉が曖昧になる。

どう言えば良いんだろう?

私は、自分の為に居て欲しいと言いたいのに。

もし、彼も離れていってしまうのではと不安が心の底からこみ上げてくる。

無意識に彼の服の袖を掴んだ。



「な・・・・何にも聞かないで。ただ、一緒に働きたいの・・・・・」


「ん。んー? 一緒に・・・・? どう見てもそんな雰囲気じゃないね? 君、何を隠しているんだい?」


声が、喉が詰まる。

どうしよう。

強い冒険者に護って貰うには、金が足りない。

圧倒的に足りなさすぎる。

どうすればいい?

彼を引き留めるにはーーー。


「ええと・・・・」


「つまり、仕事に不安が有るんだね?」


「えっ?」


「ティア・ラッセル。君のことだよ。初仕事に緊張するのは、誰も通る道だからね。・・・・・ふむ、一人前になるまでは見守った方が良いかな。いやでも、過保護かも・・・・・」


どうやら、バルドは1人D勘違いし、一緒に行動する方向で考えているらしい。

結果的に助かった。

でも、いつまで隠し通せるだろう。

私は。

周囲に迷惑を掛けるような”あいつら”を知っている。

でも、この事を言えば、きっと高額請求されるだろう。

彼が私を護って貰う為に。


・・・・・いざというときは、身体を売っても・・・・・。


生きたい。

私の故郷を暴力で破壊した”あいつら”を報復するまでは。

何をしても、絶対に死ぬにはいかない。

そう、彼を、バルドを騙しても・・・・・!!


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