シーン1 夜空
ーー彼らは”特別な存在”ではない。
己の欲望と狂気に生きる冒険者であり、美しくも残酷な世界を旅する者達だ。
“運命に選ばれた誇り高き勇敢なる英雄”という言葉には縁遠い。
されど、自分の道を、身に降り注ぐ不運をを見下すことはしない。
彼らはそういう冒険者である。
私の、彼らに対する想いは永遠に変わらないだろう。
代筆者 冥府の女神 ローカァルド
(『エンドウォールの白亜竜ー』本文より)
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手の感触が未だに良く伝わってきて気持ち悪い。
ぬちゃとした感じ。
しっかり質量を持っている短剣。
それを使って死体の狼から解体し、望むものを取っていく。
『取れる物は何でも取れ』
今、僕は師匠の教えを実行していた。
愛用の武器はショートソード。
真っ先からぶつかって斬る、脳筋突撃戦闘スタイルのボクに合う剣だ。
フード付きマントを身に纏い、腰にショートソードを装備している。
たまに左腕に取り付けているバックラーも併せて戦う。
夕方の山にて、フラフラと歩いたら、いつの間にか朽ちた教会の前で狼と戦っていた。
もちろん、怪我もする。
せっかく金を貯めて買った軽装鎧が少しへこんだ。
まぁそんなことで落ち込んでも仕方ない。
腹が鳴る。
先ほど落ち葉を集めて火を付けて、採れた骨付き肉を燃え上がる炎の傍に置いた。
本日二度目の腹鳴り。あぁ、早く食いたい。
そうだ。【異次元バック】の中身を確認しながら待つことにしよう。すぐに寝れるように寝袋を出しておこう。それと磁石でショートソードの斬れ味を回復しよう。
陽が落ち、暗くなる。だんだん寒くなってきた。
そろそろ焼いた肉を食える頃かな?
漂う匂いが腹を刺激する。
おっと、だよれが出てきた。
よし、もういいかな。
熱くなった肉付き骨を慎重に持ち上げて、豪快に喰らう。
おお、予想はしたけど、おいしい。
あっという間に肉が腹に消えてしまった。
まだ朝が来ないので、いつもの素振りで時間を潰す。
毎日の積み重ねが大切だと思うと、素振りに余計な力が入ってしまう。
ふと、空を見上げると、無数の輝く星が見えた。
幸いにも彗星に遭遇した。
だが、彼方に飛んでいき、消えてゆく。
呆然と眺めてた後、彼方の空から朝日の光が差し込む。
燃え盛る火は既に消えており、僕は再び移動し始めた。
しばらく歩き回ると、探していた『それ』を見つけた。
立派な木に向かって走り続ける子犬である。
「居た居た。ここにイベントを放置していたのか」
ずっと走りまくる子犬に手の裏を示し、静かに呟く。
「チート発動。【イベント回収】」
走りまくっていた子犬は淡い光に包まれて、【異次元バック】に吸い込まれる。
すぐにメニュー表示画面を開き、子犬のイベントを回収した事を確認する。
次にチャット画面にて現状を書き込む。
『子犬を見つけて回収しました』
すると、チャット画面に様々な反応が書き込まれる。
『おっ、見つけたのか』『やっとログアウトできる〜』『子犬探し乙』
一通り確認、満足していると。
<念話>の着信ベルが鳴った。