シーン3 スカンオル・インティ
酒場を出て、少し安い宿に向かおうとした時。
「お待ち下さい。バルド・ブールア様」
声を掛けられ、振り返ると、そこには1人の男が立っていた。
2m近く程の身長。太い腕。短い髪。きりっとしたイケメン顔。
幾つもの戦場を潜り抜けたようなオーラが漂う。
装備を見て、防御に特化した戦い方をしているだろうと判断する。
身体が、籠手や脚甲などを除いたラットスーツアーマーに包まれている。
背中にショードスピア、右腕にラウンドシールドを隠さず、堂々と持っていた。
腰に小物を入れる小さなバックが付いてある。
「何の用だい?」
さりげなく、ティアを後ろに隠しながら、見知らぬ男に尋ねる。
「バルド・ブールア様ですね。私は大司教マサリ様の特命を受けて、やってきた者です。元部下でもあります。スカンオル・インティと申します。ここに許可証と命令状と伝言紙があります。 勿論、貴方の判断に任せます。どうか、この私を貴方達のPTに入れて下さい。よろしくお願いします」
彼はそう言い、命令状と許可証と伝言紙を差し出し、深く頭を下げた。
丁寧な口調と、相手に対する腰が低い態度。
本当にマサリ様の部下なのかと疑う程だ。
「躾が行き届いている・・・・・」
スカンオルの礼儀に口を開いて、立ち尽くす、ディアが呟く。
「ちょっと! 失礼すぎる」
ティアに肘で軽く突く。
「いえ、これぐらい態度で示せ、とマサリ様から言われております。特にバルド・ブールア様の噂も聞き及んでいます・・・・」
スカンオルは何かを怯えるように慎重に語る。
ふと、自分バルドに対して、熱い視線を浴びていることを気づく。
「あっ、あー。そんなに怯えてなくてもいいよ」
そう言いながら、受け取った許可証と命令状と伝言紙を確認する。
「確かに、マサリ様の字だね。何度も見掛けているから、間違いない。ええと、伝言紙は・・・・『スカンオル・インティは蒼天騎士団にて経験を積んでいる。好きに扱ってやれ』・・・・・っと。ふむ。君の職業は? 特技は?」
「結界を貼ったり、付加魔法でヘイトを集める事ができます。戦闘に関しては肉壁タイプです。仲間を庇います」
「むぅ・・・・。分かった。僕らのPTに入ってもいい。・・・・彼女が許したらね」
ティアに横目で見る。
「あたし? いいわよ。新しい戦力は歓迎するわ」
彼女が素っ気なく呟くと、スカンオルは再び頭を下げた。
「ありがとうございます」
*
「ねぇ。スカンオルはどんな神様を信仰しているの?」
改めて少し安い宿に向かう。リュックを背負っている自分、ティア、未だ武器を手離していないスカンオルの順に横に並んで歩いていた。
その道中、ティアが突如に尋ねてきた。
エルフっぽい彼女に、スカンオルが静かに早すぎない口調で答える。
「”情報の女神”ラ・ギュリア様ですね。」
「女神・・・・ねぇ。ふぅん。さぞ、美しい人でしょうね。で、どんな神様?」
何故か、ちょっと怒っているティアが半ば棘が有る言葉を言い放つ。
ここで自分から長い説明を始めた。
ティアと隣に並んで歩きながら、手振りも交わして話す。
「あ。そうか。ティアは知らないんだった。ええと、エンドウォールという一国を取り仕切る組織がジャンダー教団だよ。因みに、今僕らが居る所は中央都市デアン。つまり、宗教国家エンドウォールの領地のど真ん中に街を造られているんだ。ここまでは分かるかい?」
「ええ」
「それでね、そのジャンダー教団が信仰している神様の名前がーーー」
バルドの説明をスカンオルが継いで語る。
「先ほど言った、ラ・ギュリア様。”情報の女神”の二つ名を持った神様です。主に周囲に正しい情報を届ける事を良しとするジャンダー教団の象徴です。事実、エンドウォールの冒険者ギルドーー『月夜の朧亭』、ジャンダー教団を中心に情報共有しています。伝達速度も早いんです」
「へぇ」
「説明は以上です。理解頂けましたか?」
「な・・・・何となく・・・・」
スカンオルの問いに、ティアは頬を搔いて曖昧な返答する。
内容が専門的だったし、色々聞き慣れないだろう。
敢えて、しつこく迫る事をせず、一旦話を終わらせる。
代わりに、明日からの予定について話し合った。
そうやって話し込んでいると、いつの間にか、少し安い宿屋に到着した。
*
宿屋に入っていく、バルド達を建物の影から覗く人達が居た。
数は2人。
捜し物を探すように、バルド達を見て、ティアに注目する。
やがて、「見つけた」と微笑む。
しかし、それは、笑いから来るものでは無く、欲望による邪悪な微笑みであったーーー。




