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シーン2 バルド・ブールアの噂



月夜の朧亭。

酒場兼仕事螺旋所という特殊な立場に置かれている、ここはいつも人が賑わっている。

元々は『冒険者ギルド』として建立されたが、今やその面影は薄くなっている。

時々、様々な事情で障害者となった存在をよく見掛ける。

それは歌姫に付き添う笛吹きだったり、月夜の朧亭の店員だったりする。たまにそのような冒険者も居るが、全体的に見ても少ない。

月夜の朧亭の構造は至って単純で、色々な機能が有る。

店内はただっ広い。

様々な紙が張った掲示版を冒険者が睨んで、自分に似合った依頼を探している。

また、酒場に癒やし薬など、冒険者専用の消費品もある程度は揃っている。

酒場の隅に旅芸人が唄う小さな専用ステージも有る。


今そこに、ティアが『月夜の朧亭』から借りたリュートを弾いて、唄っていた。神秘な雰囲気を維持しつつ、英雄驒を謳う。

お客さん全員、黙って静かに聴いていた。


月夜の朧亭の店員は仕事螺旋と酒場仕事にはっきり分かれている。たまに手が空いた時、どちらかの仕事に手伝う事も有る。

時に臨時捕集し、腕の良い人に働いて貰う事も有る。

店員がテキバキ手順良くこなす姿は格好いい。


そんな感じだ。

これ以上、僕には詳しく言えない。

とりあえず、月夜の朧亭のカウンターのすぐ隣に、椅子に座っている1人の男が居た。

金色の髪。腰の背中に横置きのショートソード。瞳に光が消えており、明らかに体調が悪そうだ。

そう、僕だ。

因みに、椅子の下にリュックを置かれている。

受付嬢がちょっとドン引きした顔のまま、横目で見てくる。

そして、その受付嬢に寄ってくる人はーー非常に少なかった。

それでも、受付嬢に言う内容は冒険者向けの依頼だったり、食事の注文だったりする。

その中で一番多い言い分は。



『もし、バルド・ブールアが暴れたら、私が貴女を護ります』



口説きである。・・・・明らかに、バルド・ブールアをチラ見で気にして、脚が震えながら。

当然の如く、<月夜の朧亭>の受付嬢、困惑した様子であった。





「受付嬢に『座るだけの簡単な仕事』って言われたけど、やっぱり疲れるよ。たまたま知り合った修道女シスターから薬を貰って飲んで、少しは調子が良くなったけど」


昼の山場が過ぎ、ようやくティア・ラッセルと食事をする時間を取れた。

くったりとテーブルに倒れ込む。

文句もついでに言う。

既に演奏が終わった、ティアから呆れた表情で冷めた視線を送られてくる。


「バルド・・・・。アンタ、何をしたの・・・・・。皆、受付嬢に会う時、バルドを避けるような変なアクションをしていたわよ。あいつは悪魔だの、実は人焼きが好きだの、いろいろ酷い噂もちらほら聞こえたし・・・・。ここに来る前、色々な噂を聞いていたとはいえ、正直引いたわ」


周囲を見回す。ふと、目が合った人が逃げるように、逸らされた。

気のせいか、半径1m以上離されているような気がする。

もはや、いつもの出来事に変わり果ているので、気にせず、質素な料理にフォークを突く。

ただ、食べてみたが、吐き気もあり、あんまり旨くなかった。


「別に。ただ、マサリ様を裏切った奴を探し追い詰めたり。捕らえて心を徹底的にへし折って、廃人同然まで追い込んだり。そんな事ぐらい。あと、調査中に、とある建物の屋上で極悪人にうっかり燃やして、そのまま都市の真ん中に落ちたんだ。そんで見ちゃった国民に大混乱が起きて、都市機能がしばらく麻痺になったとか。心当たりはいっぱい有るよ」


ティアが『うげっ』と言いたげな表情をする。


「充分酷いわよ、そんなもんだから、”変態野郎”の二つ名が付けられるのよ」

「そうかい? まぁ。マサリ様に褒められたくて真面目にやった結果だよ。フフフッ」


ティアの言葉に、バルドが邪悪な微笑みで答える。

眼に光が消えており、周囲に取り巻く不気味な空気が一層増した。


「私、本当に、この人と仕事できるの・・・・? 今なら辞められるかも・・・・・」


頭を抱える異人の少女ティア。

その震える声はバルドに届くことは無かった。




夕方になり、あれだけ多く居たお客さんが少なくなる。

料理を載せた皿も片付けられ、至る所に掃除された。

少しは調子が良くなった自分に、受付嬢ーーつまり、カウンターの前に、座って欲しいと依頼してきた人ーーが来た。

すっしりと重みが有りそうな袋と小さな羊皮紙を持ってきた。

そして、その人は超早口で喋り出す。


「バルド・ブールアさん、ありがとうございます。おかげでスムーズに営業する事ができました。私達、毎回何かと文句にくる人に悩んでいたんですよ。でも、今日はすっきりできました。やってみたら、逆効果でしたが。おかげに受け付ける依頼も減りましたし、店長には叱られるし。まぁ、あの人は来ないですし、これぐらいは・・・・良くないですね。その、ありがとうございます。あ、これ、今回の依頼の報酬です。1人ずつ、200Gです。因みに、この羊皮紙に書いてある内容を見せたら、少し安い宿屋で朝昼夜3食付きで、何と! ベットにも寝れるんですよ! お得ですね! 納得頂けましたね。納得しましたね!? 今回の報酬には破格ですよ! 文句は聞きませんからね!! 

それじゃ、私、今日の後処理があるので、失礼します。あ、ティア・ラッセルさん。また機会が有れば、呼びますね。素敵な歌でしたよ! もう、貴女の歌声に惚れちゃいました。

では、これにて、バルド・ブールアさん、ティア・ラッセルさん。ありがとうございましたぁあぁあああああああああああ!!!!!!」


こちらに言い返す隙を与えず、受付嬢に羊皮紙を押し付けされ、果てには酒場の奥に逃げ込むように駆けていった。

残された僕ら、唖然である。


「ねぇ、バルド・ブールア・・・・」


軽く引いているティアが、ここに我あらずといった様子で僕を呼ぶ。


「これでいいの・・・・・?」


「あ、あはは・・・・・。対価は受け取ったし、帰ろうか・・・・・」


背中に寒気を感じながら、そう答えた。



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