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体調不良で遅くなりましたーー・゜・(つД`)・゜・
今回はカイル視点からの主人公視点です!!
しつこく彼女の部屋の扉をノックしていると、
「だからもう寝てるってば!!」
怒りながら彼女が飛び出してきた。
果たして寝ている人間が怒りながら部屋の扉を開けられるのだろうか。
もっと良いセリフはなかったのだろうか。
思わず笑いそうになるが、ここで笑ってしまうとカエデの機嫌を更に悪くしかねないと思いカイルは溢れそうになる声を我慢した。
この世界の女性はお淑やかにあるべきとされ、自分を着飾り、いかに豊かな生活を送るためにはどうするべきかということしか頭にない、したたかで無能な者ばかりだ。
会えば身体をやたらと押し付け、少し冷たくすればすぐに泣く。至極、面倒な生き物。
今年25才を迎え、結婚適齢期であるカイルへの貴族女性達のアプローチは日に日に激しさを増すばかりだった。それまでは一人一人丁重に断っていたカイルだが、以前、体調を悪くしてうずくまっていた女性を救護室まで運んであげたところ、何を勘違いしたのか助けた女性が自分こそがカイルの本命だと周りに言いふらし、しまいには手込めにされたなどと嘘までつかれ結婚するはめになる寸前まで追い詰められるという出来事がおこった。
それからは逆に皆に優しく接することで、まだ特定の相手を作る気はないと周りに知らしめることにしている。
なぜ、このように冷めた感情しか起こらないのか。
若干20歳で魔術師団団長の肩書きを手に入れ、歳をとるにつれ美しく成長した容姿に引き寄せられただけだということをカイルは十分に理解していた。誰もカイル自身を好いての行動ではないと。地位と権力を手に入れるまで、あの忌まわしい出来事の当事者である自分は良い扱いを受けていなかったから。
女性だけではなく周囲の者、皆の態度が魔術師団団長に登り詰める前と後ではあからさまに変わったのだ。
気づいた時には、自ら他者に対して壁をつくり、本心を語ることはなくなっていた。
異世界からやって来たカエデは媚を売るそぶりは一切なく、
身分最高峰の王にもおくすることなく堂々と発言する強さを持った不思議な女性だった。
四年前に帰還した異世界の女神、サクラも芯の強い少女だったが、振る舞いはとても女性的で自分の人目を引く容姿を最大限に利用し周りを虜にしていく姿は好感の持てるものではなかった。
気に入っている男性たちの一番が自分ではないと納得しない性質を早々に感じとったカイルはサクラに気のあるそぶりをよくしたものだ。優しい言葉をかければすぐに満足し別の男の元へとかけていく、そういう女だった。
昔、既に他界した祖父がいつも聞かせてくれた話がある。
異界からやってくる女神樣の力は邪気を消化する癒しの力をもっているがそれだけではない。慈悲深く、優しく、人々の傷ついた心も癒してくれたのだと。
辛い幼少期を過ごし他人に対していつもどこか一線を置くようになったカイルだが、いつしか願うようになった。
異世界からの女神であれば心開けるだろうか。
私を受けとめてくれるのだろうか…。
…会いたい。と…。
だが、実際召喚されたサクラはカイルの思い描いていた女神とはほど遠いものだった。
女神も所詮は周りの女とかわらない。
祖父の言葉は迷信だと思い込みその後も生活してきたが、カエデが現れたときにまた期待してしまったのだ。
不可侵区域に突如現れた変わった服装の女性ーーーカエデこそが言い伝えの女神ではないのかと。
「あっ…。
カイルさん…。すみません、もう寝ようかなって思ってたので…。それよりもさっきはすみません。無視したとか、逃げたとかじゃなくて、ちょっと肌寒くなったので部屋に戻っただけなんです。」
カエデの泣き腫らした目を眺める。
それに気づいたのかカエデは苦笑いを浮かべた。
「これは…目に虫が飛んできてなかなか取れなくて痛くて涙が出ただけなんです!私のいた世界に自転車っていう人が漕ぐことで動く乗り物があるんですけど、それで坂道くだったりするとかなり高い確率で目に虫が入ってくるんですよ!!私って目が大きいから本当困っちゃうなぁー!あははっ」
そう言ってカエデは手で目元を隠した。
女の涙なんて鬱陶しい以外の何物でもない。
あえて関わろうだなんて思えない代物なはずなのに。
月の光に照らされたカエデの泣き顔はなぜか綺麗だとさえ思ってしまった。
泣いてアピールする女どもとは違う。本当は悲しくてしかたがないのに、誰にも言わず泣いていたことさえ隠そうとするカエデにカイルは思わず手を伸ばしていた。
「しつこいかと思ったのですが、先ほどテラスに出ていらしていのを拝見していたので。ご飯の用意ができましたので呼びにきたのですが…。ずいぶんと泣いたようですね。」
突然手首をつかまれた楓は驚きカイルの顔を見上げた。
「突然知らない世界にわけもわからず連れてこられ、さぞ不安でしょう。私も微力ながらあなたが元の世界に戻れるように調査します。ですから、どうかこれ以上泣かないでください。」
手首をつかんでいた手がカエデの頬に触れ、涙の跡を辿った。
って、ちょっと!!??何!?何が起きてるの!?
カイルって、こんなキャラなの!?
いきなり優しくなって、どうなってるの!?
ここ数年男性に触れることなく生きてきたカエデの心臓を高鳴らせるには十分すぎる行動だった。
そして、“にこり”という効果音がつくようなとびきりの笑顔をカイルは楓に向けた。
「これ以上泣くとただでさえ普通な顔が、普通以下になってしまいますよ?」
・・・・・・・・・・・・・・。
こんのやろーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
「…それはそれはご忠告どうもありがとうご・ざ・い・ま・す!!
でも!余計なお世話ですから!!!!さ・よ・う・な・ら!!!!」
カエデはカイルの手を引きはがすと体を翻し思いっきり扉を強く締めて部屋に戻った。
バンっ!!!
もう、本当失礼なヤツ!!自分の顔が平凡なのは28年間この顔と付き合ってきた私が一番よく知ってるつーの!
あんなやつ今後はかかわらないことに限るわね!
「カエデさん、ご飯は後でもってこさせます。今日は部屋で食べると良いでしょう。では、おやすみなさい。よい夢を。」
靴音が段々と遠ざかっていく。
ふんっ!あんたのせいで良い夢なんて見られないわよ!!
離れていくカイルの気配を感じながら心の中で楓は悪態をついた。
その後、約束通り侍女が部屋にご飯を運んできた。
楓は食べずに一度はベッドにもぐりこんだのだが、結局空腹には勝てず不本意ながらもカイルからの夕ご飯をおいしくことにする。
カイルとのやりとりで意気消沈していた楓の心はすっかり元気になっていたが、本人は怒りで全く気がついていなかった。




