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ブックマークしてくださった方、ありがとうございます。
とても励みになります。
泣き疲れていつの間にか寝てしまったようだ。
日は沈み、窓からは淡い月明かりが部屋の中を照らしていた。
どうやら半日近くも寝てしまっていたようだ。
随分泣いた為、少しはスッキリしたかと思ったが、一度沸き起こった焦燥感はそう簡単にはぬぐえないようだ。
夜の静寂が更に寂しさを募らせる。
気だるい体をゆっくりと起こし、素足のままベッドから床に降りると、足裏からひんやりとした硬いタイルの感触が伝わり、寝惚け気味の頭を覚ましてくれる。
ベッド脇には脱ぎ捨てた靴も転がっていたがおかまいなしにそのまま歩きテラスへと向かった。
鍵を外し、テラスへ続くガラスの扉を押すと、心地好い風に頬を撫でられ、楓の肩まである黒い髪がなびく。
一歩踏み出してみる。
この城を囲うように存在する庭園の先には街の明かりが一面に広がっていた。城は高台にあり、更に二階にある楓の部屋は見晴らしが良い。
派手ではない温かみのある光。
とても綺麗だが、今の楓にとっては都会のきらびやかなネオンが恋しく思うのだった。
手すりに腕を乗せ街の灯を眺める。
目、重たいな。思いっきり目を開こうとしてもいつもの半分も開けれていない気がする。
久しぶりにこんな泣いたな。29歳のいい大人のくせに。
女神であるさくらちゃんのように元の世界に戻る方法が用意されていたら、きっと私も今の状況を楽しんでいたことだろう。大好きなゲームの世界にトリップして大好きなキャラに会えたのだから。
今まで読み漁ったトリップ小説の主人公たちは皆前向きで、最初から元の世界に戻れない現実を受け入れるパターンが多かった。そんな主人公たちに好感を持ったし、自分自身がトリップできたのならと、妄想した私はいつもポジティブであったはずなのに…
やはり作られた物語と現実は違うのだと思い知った。
私にとってはさくらちゃんが生きる現代も異世界にあたる。
さくらちゃんの先生だなんて嘘ついて、アレンたちはさくらちゃんと同じ場所から私はやって来たのだと思っている。
本当のことなんて言えるはずがない。
説明だって難しいし、何より本当のことを言うということは、
≪あなたたちがゲームの中の登場人物で、作られた“モノ”である≫
ということを告げるということだ。
言えない。
私には言えないよ。
アレンやカイルにユリウス王子もちゃんと今ここで生きているんだから。
この先還ることができるだなんてみじんも思えなかった。
生憎、29年間現実世界で生きてきたのだ。漫画の主人公のように根拠がないのに願えば叶うなどという非現実的な思考は持ち合わせていない。涙がまた楓の頬を濡らした。
テラスにでてまださほど時間はたっていないが、少し肌寒くなり身震いする。
昼間は暖かくて過ごしやすかったが、夜は少し冷えるようだ。
部屋に戻ろう。
身体を翻した際にぶるかる視線。
えっ!?
テラスの下にカイルが立ってこちらを見上げていた。
泣いてるの見られた!?!?
恥ずかしさに顔に熱が集まる。
逃げるように部屋に駆け込み、無意識にカーテンまで閉めてしまった。
いつからいたのだろう?
何でこんな時間にフラフラ歩いてるの!?
もう暗かったし…泣いてたのは気づかれてないよね?
ても目が合ったとたん部屋に逃げこんじゃって、元々良い印象を与えられていないだろうに、更に悪い印象を与えてしまっただろう。
はぁー…。
思わずため息がでた。
また、次会ったときに謝ろう。
とりあえず部屋の灯りでもをつけようと照明に手をかける。
暗い空間にいると余計に気が滅入りそうだ。
この世界での明かりといえば原始的な火と、魔力によって発光する丸い電球のようなものだ。これを“魔力照明”と呼ぶ。
かなり普及が進んでおり、王宮内や民家等、建物内はすべて魔力照明が使われているそうだ。
ただ現代のような広範囲を見渡せるほどの明るさは出せない。
この照明は様々なサイズがあり適材適所で大きさの違うものが配置されている。
充電式な為、定期的に魔力持ちの人に魔力を補充してもらう必要があるが、
魔力量が少ない者でも日常的に使用できるものである為、高い魔力保持者がわんさかいる王宮に住ませてもらっている私の部屋の場合は半年に一度補充してもらうぐらいでこと足りるそう。
ぎゅるるぅ~
明かりをつけたところで、お腹の虫が盛大に鳴った。
そういえば、ご飯食べてないや。
でも、こんな腫れた目じゃ部屋の外に出たくないし。
でも、お腹すいたし。。。
フンフンうなっていると、ノック音が響いた。
この顔ではやっぱり誰にも会いたくないと思った楓は既に寝たことにすると決めた。
もう、ご飯は諦めて明日の朝ごはんをたくさん食べることにしよう!
そう決意したが、またもや扉をノックされる。
コンコンっ
もう、私は寝てますからー。どうぞお引き取りくださいよー。
コンコンっ
コンコンっ
しつこい。。。
コンコンコンコンっ
「だから、もう寝てますからっ!!!!」
そして、最終的には自ら勢いよく扉を開けてあげたのだった。




