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文章にするって本当に難しい。。。
王宮内にある転送魔法陣の広間で吐いてしまったあと、私はカイルに呼ばれてやってきた侍女二人に連れていかれその場を後にした。
そして押し込められた先は、豪華な室内にあるとにかく広い風呂場だった。浴槽なんてまるで温水プールじゃないか。
あのまま汚い状態でいるわけにはいかないし、それに色々頭使って疲れたし、お風呂に浸かれるなんて嬉しいかも。ありがたいことに石鹸等のアメニティーもちゃんと用意されていた。簡単に身体を洗うと、すぐさま湯船に入る。少し熱めの湯が冷めた身体を一気に温めてくれた。
あぁ~本当癒される~。
こんな素敵なお風呂を不審人物な私に使わせるって、腹黒魔術師は何を考えているんだろう。
しかも、この部屋自体をしばらく使用して良いとのことだった。
この“アナルド”をプレイしていたときはもっぱらアレン贔屓だったため、アレン狙いで何回もプレイをしてたけれど、魔術師カイルともう一人の攻略対象である王子のルートは特に興味がなくて一度もクリアしていない。
ぶっちゃけカイルがどんな人物なのかよく知らないんだよね。
失礼なこと言ってたけど、アレンに剣を向けられた時も結果的には助けてくれたわけだし、お風呂にも入れてもらえたし、案外イイやつなのかな。
一瞬そう思ったがすぐにその考えを打ち消した。
思い出したのだ。私に吐かれて引き攣った顔のまま体が停止していたアレンと、人生の終わりのように愕然とうな垂れていた私を眺めて笑っていた腹黒魔術師を。
口を手で覆い、顔を背けて一生懸命笑いをこらえているようだったけど、ヤツの肩が上下に動いていたのをしっかりと確認している。
思い出したら沸々と怒りが沸き起こってきた。
あいつはぜったーい根っからの性悪に決まってる!
人の醜態見て笑って、慰めの言葉ひとつもかけれないような男がよく乙女ゲームの攻略キャラなんてやってられるのか。顔!?結局顔ですか!?イケメンなら性格悪くても許されるんですか!?
バシャンっ
脳裏に映るあいつの顔をかき消すように思いっきり湯船の中に頭まで沈みこんだ。
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「あいつ、黒目黒髪だったな。」
「そうですね。外では暗くて確証がもてませんでしたが、
確かに黒目黒髪の女性でした。色々と調べないといけないことができましたね。」
黒目黒髪、、、女神、、、
アレンは何年も会っていないある人を思い出していた。
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お風呂から上がると脱衣所の籠の中にはシンプルな白いワンピースが用意されていた。
手に取って広げて見てみる。スカート部分がAラインになっていてかわいい。
これに着替えろってことよね。私が着ていたジャガードピケコの部屋着上下と下着はすでになくなっていた。ちょっと高かったけど奮発して先月買ったばかりだったジャガードピケコの部屋着。勝手にもっていかれたけど、洗って返してくれるよね。
ワンピースが入っていた籠の中にチューブトップのような綿素材の胸あてとショーツも入っているのに気がづく。
ゲームプレイ中に下着の描写なんて一切ないから(当たり前だ)、心配していたけど女性用の下着も
ちゃんとしたものがあって一安心。Aカップしかない私からするとこのワイヤーなし厚手のパットなしのブラジャーじゃ物足りないけど、この際贅沢は言ってられない。
そそくさと急いで着替えてから廊下に出ると、カイルとすっかり身綺麗になったアレンが待ち構えていた。
アレンとカイルに連れられて大理石の廊下をどんどん進んでいく。
二人にとって私は怪しい人物なわけで、会話が弾むはずもなく、無機質な靴の音だけが歩く速度に合わせてやけに響いて聞こえた。
カイルの話によると、この廊下の先にこの国の王がいるらしい。
王が私の処遇を決めるのだとか。
王ってことは、攻略対象の一人、ユリアス王子のお父さん…ゲーム内でもオープニングとエンディングだけ少し登場してたけど、確か王子とは年がかなり離れていて御年80歳ぐらいだったような。
ぽすっ
うっ、鼻痛い。地味に痛い。
考えごとをしてたら前を歩くアレンが止まったことに気づかず、彼の背中に顔面からつっこんでしまった。
「ったく、ちゃんと前向いて歩けよ。」
「す、すみません…」
どうやら目的地に着いたようだ。
なんか、アレンの態度がまた冷たくなっている気がする。
もしかしなくても、先程の嬉しくないプレゼントが原因だよね。
そういえば…気持ち悪いときに背中擦ってくれて、尚且つひどい目に合わせたのに、私、アレンに謝罪もお礼もまだ言えてなかった。口調は強めで冷たく感じるけど誰よりも優しいこと、私はゲームをとおして知っている。
アレンの顔をこっそり覗き見る。短めの茶髪にくりっとした大きな目。そして鍛えられた身。
【ずっと大好きだったアレンが手を伸ばせば触れられる距離にいる】
改めてその事実に私は胸がいっぱいになった。
「騎士団 アレン・フィールド並びに、魔術師団カイル・アルシタイン只今戻りました。」
アレンの高らかな声とともに、目の前の2メートルはありそうな扉が一気に開き、今までの人工的な光とは違う綺麗なエンジ色の日の光が目の前に広がった。
いつの間にか夜が明けていたようだ。
見渡すと部屋の両サイドがガラス張りになっている。
そして、中央の台座にはいかにも王が座りますっていうきらびやかな椅子に腰掛けこちらを見下ろす男性がいた。
歩き出した二人に恐る恐るついていく。
ん?あれ?明らかにおじいちゃんではない若い男性が王座にすわっているように見える。
長いストレートの銀髪に切れ長の目、年上系イケメンなこの顔!
間違いない!!攻略キャラ最後の一人、ユリウス王子だ!!
どういうこと?
おじいちゃん王は?
お年だから体調でも崩したのかな?
王子の前で膝まずいた二人に習って私も両膝をついて頭を下げてみる。
「アレン、カイル、偵察ご苦労だった。謎の侵入者というのがそこの女か?」
「はい。どのように侵入したのかは不明。カイルに確認してもらいましたが、結界に綻びもありませんでした。
ご覧のとおり魔力も持たない普通の女ですが、不可侵の結界内に侵入したのは事実。王に処遇を決めていただきたく連れて参りました。黒目黒髪というのも気になりますが。」
王子が王?代替わりしたってこと?
ゲーム内では、最初から最後まで王子は王子のままだったはず。
もしかして今は既にゲームのストーリーが終った後になるの?
確かに、ゲーム内より3人とも少し大人びてるような気がしたけど。
芸能人が画面越しでみるより実際に会った方がかっこいい!っていうあるあるだと思って考えもしていなかった。
じゃあ、女神様はこの3人のうちの誰かとエンディングを迎えたのか?それとも誰も攻略せずにノーマルエンドを迎えたのか?
「名は何と言う?」
王子が私に問いかけた。あ、王様だった。
「橘 楓と申します。あっ、えっと、カエデ、タチバナです。カエデが名前です。」
「カエデ…カエデとやら顔を上げよ。
単刀直入に聞こう。お前はどこから来たのだ。」
顔を上げると王と目が合った。すべて見破られてしまいそうな鋭い眼差し。
王の迫力に当てられた私は緊張で口が渇いて、上手く話せるだろうか。
でも、怯んではダメだ!
この場で私の今後が決まるんだから!
ふぅ…
一回息を吐き心を落ちつかせる。
そして、王を負けじと見つめた。
「私はこことは違う世界から来ました!」
前方からカイルの探るような視線とアレンの驚きに見開かれた目を向けられた気配を感じながらも、私は一切王から目を反らさなかった。