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1話1話が短いため、全然進まず、、、
孤児院から戻ったアレンはカイルを呼び出した。
もちろん、話の内容はカエデのことについてだ。
「カエデは俺たちのどちからが一緒ではないと外出すらできないからな。俺も出来るだけ時間を作るようにするから、カイルもあいつのこと、気にかけてやってくれないか?」
アレンから話があると呼び出されて来てみれば、カエデのこととは、、、
カエデはアレンの身内でも何でもない。何故、アレンにお願いされないといけないのかと柄にもなく苛立った。
「どうしたんですか?いきなりそんなことを言ってくるなんて。」
「俺は、あいつの気持ちなんてまるで分かってなかった。カエデは辛いことがあっても一人で溜め込んでしまうから、こっちから気にかけてやらないといけないと思ってな。」
何を言うかと思えばそんなことか。
彼女が寂しさや辛さを隠して過ごしていたなんて、最初から分かっていた。だから、今後やらなければならないだろう仕事を部下に任せても大丈夫なように、この1週間睡眠を削って私は処理をしていたんだ。アレンはカエデに全く興味がなさそうだったが、勘違いだったのか。まぁ、そんなことはどうでもいい。これからは、彼女の側に居られるのだから。
「それは、心配には及びませんよ。カエデさんと過ごす時間をつくるたに私は仕事を片付けてきましたから。」
「!!」
「彼女は私にお任せください。むしろ、あなたはご自身のことだけ考えてくださってかまいません。しばらくは、緊急の事がない限り、一緒に居れますので。。。では、失礼します。」
驚きに立ち尽くすアレンを置き去りにして、カイルはその場を去った。
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アレンは小さくなるカイルの後ろ姿が見えなくなるまで、動けずにいた。
どうしたんだ??カイルのヤツ。
珍しく機嫌が悪そうだった。アイツがあんなに感情を表にだすことは珍しい。いや、初めてだろうか。
日頃から他人と距離をおきたがるカイルが進んで一緒に過ごすなんて考えられなかったが、カエデは別ということなのだろうか。
確かに媚びたりせずに裏表の無さそうな彼女はカイルに受け入れてもおかしくないし、興味を持つのもわからなくはない。
ここは権力と金が全てのつまらない世界だからな。
アレンはあまり良い人生を送ってきたとは言いづらい友人の変化に嬉しく思いつつも、何故かモヤモヤと曇りがかっているような気持ちが沸き上がってくることに戸惑った。
この感情は気のせいだと考えないようにして、やっと1歩踏み出して騎士舎へと向かったのだった。
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アレンと別れたカイルはその足で城の中庭まで来ていた。
今まで、感情を隠すことに関しては長けていると思っていたが、そうでもないらしい。確かに普段であればどんなに非道なことを言われようと、この笑顔が崩れることもないし、逆にこちらが相手を騙す時でさえ、見破られたこともなかった。
カエデに関係していることだと、こうも容易く長年作り上げてきた仮面も剥がれ落ちてしまうものなのかと驚いていた。
気づかない内に、自身で思ってたいた以上に彼女のことが気になっているらしい。
カイルは近場のベンチに腰かけると目を閉じた。
今日は天気が良い。昼前ということもあり、暖かな日の光と時折柔らかな風が身体を包み込んでくれる。
とても心地よいーーーー
しばらくそうしていると、ふいに目の前が暗くなった。
誰かが顔をのぞきこんでいるようだ。そして、次の瞬間、肩に柔らかい布の感触と近づいた気配に瞑っていた目を開く。
そこに居たのは目を真ん丸にしたカエデだった。
「あっ、起こしちゃいました?気持ち良さそうにされてたので起こすのは忍びなくて、、でも、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃいますよ?」
そう言ってハニカム彼女の手には身につけていたのであろう、ピンク色のストールがあった。半分は既に私の肩にかかっている。
彼女の優しさに自然と笑顔がこぼれた。
「カイルさんも、そんな風に笑うんですね!いつもの嘘っぽい笑顔よりそっちの方がずっと良いです。」
今度はカイルが驚く番だった。
本当に、カエデさんには敵わないですね。
嬉しそうに笑う彼女をカイルは普段見せない穏やかな表情でみつめていた。
「実は、カイルさんのこと探してたんです!」
「私を?ですか?」
「はい。昨日は一緒に孤児院に行ってくださってありがとうございました。お礼、まだ言ってなかったから。」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。あなたの色んな姿が見れて楽しかったですよ。」
「色んな姿って、昨日はカイルさんがネタにできそうな変な行動はしてないはずなんだけどな。」
小声で何やら独り言を言っているが、内容はしっかりとカイルの耳に届いていた。
「ふふっ、違いますよ。子供たちと戯れていたあなたが"素敵だった"ということです。」
「もう!またそうやってすぐからかうんですから!泥だらけの姿が素敵だなんて。。。」
不機嫌な様子の彼女の髪を、一際強い風が揺らした。
「嘘ではありませんよ。ーーー私が子供の頃にもあなたみたいな方が近くにいたら、、、私も変わっていたのかもしれませんね。」
「えっ!?何か言いました??」
「いえ、泥だらけの姿が可愛かったなと思い出していたんです。」
「ちょ、それはもう記憶から削除でお願いします。」
「あなたのお願いであれば、叶えてあげたいのですが、それはきけませんね。」
「もう、本当に意地悪ですね。そこは、"わかった"って言うところですよ。でも、そんなところもカイルさんらしいですけどね。」
「私、らしい、ですか?」
「はい。カイルさんは、すぐ人のことをからかって楽しむ意地悪男です。」
「意地悪男、ですか。」
彼女の私への評価に珍しく落胆するも、これまでの態度を考えればそれもそうだと納得した。彼女の次の言葉を聞くまでは。
「でも、本当は、とても"優しい人"。こちらに来てからいつも気にかけてくれたのはカイルさんでした。これからもよろしくお願いしますね。意地悪カイルさん。」
温かい。まるで彼女の言葉は冷えきったカイルの心を溶かしているようだった。
「一つ、カイルさんに聞きたいことがあるんです。」
「何でしょうか?」
「何故、得体の知れない私を最初から優遇してくださったのでしょうか。与えられた部屋もとても豪華ですし。」
そう、居候の身では気後れしてしまう程に豪華な部屋に楓は初日から過ごしている。隣接されている風呂場も豪華絢爛だ。
通常なら、すぐさま牢に入れられてもおかしくないし、殺される可能性だってあった。
「あなたからは魔力を一切感じませんでした。不可侵区域の結界も綻びはなかった。それなのに、突然現れた黒目黒髪の、女性。どのような経緯で連れてこられたかは分かりませんが、"召喚されてやってきた"ということはすぐに推測できました。これが一番の理由です。あなたはどう思うか分かりませんが、私はあなたが"女神"ではないかと思っています。」
・・・
女神って、あの女神だよね?サクラちゃんが担っていた。
「いやいやいや、それはありえないですって!!女神様の聖なる力もありませんし。それに、誰かが勝手に召喚術を使った可能性もあるんですよね?」
「その可能性ももちろんあります。只、気脈が乱れ始め、このままでは新に聖女を召喚することも近いかもしれません。何らかの神の力が働いて、あなたはこの世界に降り立ったのではないかと私は思っています。聖なる力に関しては今後、覚醒するかもしれません。歴代の女神は皆最初から備わったいたそうですが、あなたはどこか抜けているところもありますし、考えられなくはないかと。」
人のことを面と向かって"抜けてる"だなんてまたわざと意地悪で言っているのかと思えば、いつもはニコニコしている彼からは想像できない程真面目な顔つきに、楓も真面目に返事をしなければと思い至る。まさか、カイルがこんなことを思っていたなんて想像もつかなかった。
「そ、そうですかね。でも、私は女神様だなんて柄じゃなくて、、、本当に女神様ではないと思います。自分のことは自分が一番分かるというか。なんか、そんなふうに思っていただいていたなんて逆に申し訳ないです。」
「すみません。あなたを困らせたかったわけではないんです。これは私の単なる我が儘なんです。」
「我が儘?」
「はい。カエデさんが女神だったらどんなに良いか、というね。」
何故、カイルはそこまで楓に女神であってほしいのだろうか。今後多発することが予想される穢れを楓が祓うことができれば都合が良いからだろうか。しかし、カイルの様子からしてそんな単純な理由ではなさそうだ。ない頭で考えてみたが結局結論はでなかった。




