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今回はアレン視点もありです。
分かりにくかったらすみません。
泥合戦をした私たちはみんな顔も服も無惨に泥だらけだった。お互いの姿に笑い合い、そして健闘を称えあった。
私たちは子供たちに、必ずまた遊びに来ることを約束して帰路へとついた。
帰りはアレンと私は馬車に乗り込み、カイルが馬で城へと向かう。
馬車が出発し、リズムよく揺れる車内で私は手元にある小さな白い花を眺めた。
これは、ヨリが帰り際にプレゼントしてくれたものだ。
その時のヨリは本当に可愛くて弟にしたいとさえ思った。
それにしても、あの時は焦ったな
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『これ、カエデにやる!』
『私に?』
『ん!』
照れ臭そうに私とは反対側を向きながらヨリは花だけ差し出した。顔を真っ赤にして。
『ありがとう!ヨリ!』
『今日助けてもらったからその礼だ。いつかアレン兄ちゃんみたいに強くなって、カエデが困ったときには今度は俺が助けてやるからな!』
『うん。その時はよろしくね。』
『まかせて!』
そう言って笑うヨリにつられて笑っていると、ヨリがいきなり真面目な顔つきになった。どうかしたのかと首を傾ける。
" カエデの目って黒いんだな。女神様と同じだ "
ヨリの言葉に目が見開く。
女神様が黒目黒髪は子供でも知っている。今日はユリウス王と約束した通りに髪の毛は茶色にしていたが、目はどうしようもない為、そのままだった。フードを被って子供たちと遊ぶなんて野暮なことはしたくなかったし、子供だからと私は侮っていた。
『もう、ヨリって目悪いんだね!これは黒じゃなくて茶色よ。』
『茶色?』
わざと、太陽の日射しの方へ顔を向けた。光が当たれば、多少は色素が薄く見えるだらう。
『ほら、よく見て!女神様の証である"黒"を持った一般人がいるわけないじゃない。』
『んー、それもそうだけど。それだけ、濃い色を見たのは初めてだ。まぁ、茶色に見えなくもないけど。』
『でしょ?』
私は焦りに気付かれないように、出来るだけ自然に受け答えた。
ヨリは、そういうことにしとく!また来いよ!
と元気よく友達の輪の中へと戻って行った。
女神様と同じ"黒"を持っていることを周りに知られてはいけない。もし、私が誰かの手によって召喚されていたのであれば、私の情報を持つ者に危険が及ぶかもしれない。
"私=黒"になってはいけないのだ。
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「それにしても、今日は久しぶりにはしゃいだな。」
「うん。アレンさん、今日はありがとうございました。」
私は感謝を述べると軽く頭を下げる。
ただでさえアレンとカイルの二人は職務が忙しく、休日もなかなかとれないと聞いていたのに、こうして私の為に時間を割いてくれているのだ。後でカイルにもお礼を言おう。
「いや、俺も本当に楽しかった。あと、"さん"はいらねーよ。
アレンでいい。」
少し照れているアレンは本当に目の毒だわ!!!
「うん。。えっと、アレン。ありがと。」
いつも心の中では呼捨てで呼んでたくせに、いざ本人を目の前にして名前を呼ぶって、意外と恥ずかしいかも。
「実は、院長が子供たちに元気がなくて悩んでいたんだ。あんなに楽しそうに遊んでいるのを久しぶりに見たと喜んでいた。」
そうだったんだ。私からすると元気がないようには見えなかったけれど、今は世界全体で民の心は沈みがちだとエリーが前に言っていた。4年前にさくらちゃんが召喚されてやっと平和な世界になったのに、ここ最近穢れを纏った地が発見されたのだ。こんなに早いスパンで穢れが発生することは過去になかったそうだ。今はまだ世界で3ヶ所程の為、各国の魔術師が白魔法で対処しているらしいが、この先も増え続けてしまったらどうなってしまうのだろう、、、。
魔術師の白魔法でも穢れの浄化は可能だが、やはり膨大な魔力と時間がかかる。その点、女神の聖なる力による浄化だと数秒で浄化が可能で、尚且つ使用している力は魔力ではない為、渇望することがないのだ。
孤児院には穢れた土地から発生した魔獣によって親を亡くした子も多いと聞いた。子供たちもさぞ不安だろう。
「カエデからしたからさ、せっかく外出できる機会だったわけだし。孤児院で子供のお守りじゃなくて街で買い物とか美味しいもの食べたりとかしたかったよな?この前、資金の受け渡しに院長が登城された時に話を聞いて、様子を見に行きたいと提案したのは俺なんだ。ごめんな。でも、子供たちに元気が戻ったのはカエデのおかげだ。だから、その、ありがとうな!」
アレン、、、。
やっぱりアレンはいい男だと感心する。
それに、私は子供たちを元気にしたなんて大層なことはしてない。私はふるふると首を振った。
違う。むしろ元気をもらったのは私ーーーーーーーーーー。
「アレン。違うよ、、。元気をもらったのはむしろ私の方だよ。私ったら、年甲斐もなく落ち込んじゃっててさ!あははっ!
こんなふうに何も考えずに思いっきり遊んで、笑い合って、やっと本当の意味で吹っ切れた気がするんだ!だから、アレン、今日は本当にありがとう。」
そう言ってカエデは俺に微笑んだ。
カエデの目からは涙は流れていなかったが泣き笑いのようなその笑顔に、俺は酷く心が痛んだ。
辛いかなんて、寂しいかなんて、聞かなくてもわかるはずだったのに。
いきなり何も知らない世界へ本人の許可なく連れてこられ、何の為にやってきたのか。本来の場所に戻れるのか。何も分からない状況で不安にならないはずがない。城からも自由に出られずに、彼女にとって1日1日がどんなに長い時間だったのだろうか。そんなカエデの心境を思うと、職務が忙しいからと配慮していなかった自分に嫌気がさした。
"カエデが辛そうな素振りをみせないから"、"こちらに非はないから"、"保護してあげている"と、心のどこかで思っていたのか。
いや、カエデと同じ世界からやってきたサクラは何か辛いことや嫌なことがあるとすぐに教えてくれた。
勝手にカエデも何かあるならば言ってくるだろうと、甘えてくるだろうと思っていたのかもしれない。
こいつは、サクラじゃない!!!!
只でさえ今までの態度からみてもカエデは出来る限り周りに迷惑をかけないようにと城で過ごしていた。自分のことは当たり前のように自分でして、暇だからと侍女の仕事までもとろうとしたと聞いた。居候だからと、とても謙虚な姿勢に侍女の皆からも好かれているそうだ。
同じ世界から来たというのに、サクラとカエデは受ける印象が全く違うなと、アレンはかつての想い人である長い黒髪の美少女を思い浮かべた。
きっと、カエデは辛い思いや寂しい思いも皆に迷惑がかかるだろうと誰にも言わずに一人で溜め込んでいたのだろう。周りにも気づかれないように取り繕って。
思わず自身の拳に力が入る。
カエデは、何て強い女性なのだろうか。
眉間に皺を寄せた俺を見て尚も心配かけないようにと明るく振る舞っている。
「アレン!そんな怖い顔しないで!私は大丈夫。吹っ切れたって言ったでしょ?ユリウス王に頼んで、召喚術に関わる書籍を読ませてもらおうと思うんだ。さっき思い付いた!ダメ元でも私も出来る限りやれることはやりたい。こんなふうに思えたのは子供たちと、それからアレンとカイルさんのお陰だよ。私に頑張る為の勇気をくれてありがとう!」
そう話す彼女からは確かに強い意志が感じられた。
ふぅーっ、一つ息を吐いて落ち着くように努める。
「カエデ、今後、もし辛かったり寂しかったりしたらいつでも俺のところに来い!俺じゃなくたっていい。一人で溜め込むことだけはするな。いいな?」
俺の言葉にみるみる顔が赤くなった彼女が可愛いと、強がってしまう彼女を守らないといけないと最初に思ったのはこの時だった。
きっと俺はこの瞬間からカエデに惹かれ始めていたんだ。




