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 スピカは野営テントの中で目を覚まし、ゆっくりと体の伸ばした。

 テントの幕は朝日の爽やかな光で透け、小鳥のさえずりが響いた。

 オスカーや、エスターたちの前から姿を消すと、遺跡から離れたところに野宿テントを張って、夜を明かした。このままオスカーを連れて行った村を避けて王都に向かうつもりだ。それと、出自を明らかにする服もやめないと。

 ただの旅人を装えば、きっと面倒に巻き込まれずに王都に着けるだろう。

 王都に行くには王国南部と王都の間を分断する大河を渡らなければならない。橋のかけられないほど大きな河で、この季節は特に流れが激しいという。渡るには船しかないのだが、この流れで果たして船は出ているだろうか。不安だ。


 そして、嫌な予感は的中した。

 渡り船の波止場町はにぎやかだが、船はどれ一つ河を渡っていない。ここに至るまで、大河に沿って歩いてきたから、もしかして、とは思っていた。

 そして念のために波止場の男に聞いてみると、苦笑しながら首を振った。

「いやー、ごめんね。この流れじゃ船を出せないんだ。それに上流で大雨が続いたっていうからしばらくは無理だね」

「そうですか。ありがとうございます」

 ならば、待つしかない。王都に至る道はこの河を越えるしかないのだから。

 そういえばセイサガでもそうだったな。あのときは確かそう、水の精霊王の力を借りたんだ。聖女は女神に力を託された後、女神の力を使いこなすための修行に励む。そして力を使いこなす修行の一つに各属性の精霊王に認めてもらう、というものがあった。一番はじめに向かったのが、人好きで温厚として知られる水の精霊王というわけだ。

 スピカがいくら強いとは言え、聖女ではないし、ましてや精霊魔法なんて使えない。当然、精霊とは全く縁がなかった。

 いつ出られるか分からない船のチケットを買って、波止場町にある宿で部屋を借りた。スピカと同じく船を待つ人で小さな町は賑わい、騒々しい。スピカは適当に入った食堂でお腹を満たすことにした。

 ふと、隣の机についていた男たちの会話が耳に入ってきた。

「おい、聞いたか。白騎士のこと」

「白騎士? 何だそれ」

 日は高いが、彼らはすでにお酒が入っている。呂律が怪しく、声が大きかった。

「何でもトーンの村の近くで闇の信者どもが集まっていたらしい。そこにその白騎士ってのが現れて、んで闇の信者どもを全員片付けて、捕らえられていた子どもを助けたってよ」

「神殿騎士か?」

「いや、違うらしい」

「じゃあ王国騎士か」

「そうでもないらしい」

「どういうことだ?」

「何でも話じゃあ、全身白銀の鎧で固めて、顔も性別も分からんらしい。所属を示す紋章もなくてよ、最後はふいっと消えちまったらしい。トーン村の奴らは女神様の御使いだーなんて、騒いでるよ」

「へー、面白い話だな」

 スピカはお代を卓上に残し、食堂を後にした。

 先ほどの話、もしかしなくてもスピカのことだ。面倒臭がって消えたことがまさかこんなことになっているなんて……。

 あの白騎士とやらがスピカだとばれたらもっと面倒になる。しばらくは闇の信者などと関わるのは絶対にやめておこう。


 渡り船がなかなか出ないので、しばらく波止場町周辺を探索していた。

 ここはアルシュティナーから歩いて四日ほどのところで、この波止場町を南に行けば、南部の中心都市ウェステリアだ。大河を越え、街道に沿って北に行けば王都だ。

 結局一週間ほど探索をすると、このエリアを隅々まで回ることが出来た。

 周辺地図はすべて書き込まれ、採取ポイントは発見済み。中にはレア採取ポイントもあって、思わぬ収穫を得た。この辺りのモンスターはそんなに強くなくてぬるかったけれど、確率で手に入るレアアイテムをたまたま手に入れた。

 そうすると途端にやる気がみなぎって、モンスターを絶滅させる勢いで狩ってしまった。

 レアアイテムを多数手に入れてホクホク顔のスピカを波止場町の警備のお偉いさんが出迎えた。

「え、と。何でしょうか?」

 スキンヘッドに太い眉毛、厳つい顔。

 体格も良くて、身長も2mはありそうだ。

 スピカは気圧されながら、尋ねた。

 すると警備のお偉いさんは岩のような唇を割った。

「あなたにお礼を言いたい」

「へ?」

「あなたがリバーサイドファングを狩ってくれたので、この町が安全になったのです。そのことをお礼を言いたい」

 何でも、スピカがレアアイテムのために狩りまくっていたモンスターをリバーサイドファングという名前で、近年大量発生し、餌を求めて町に入り込んでくるということが多発していたらしい。警備隊も見つけ次第駆除したり、周辺を巡回して対応していたのだが、いかんせん自分たちはそこまで強くない。死者こそ出ないものの、少なくない被害を受けていたとか。それでもリバーサイドファングは町に入り込み続け、警備のお偉いさんであるこのスキンヘッドは頭を悩ませていたのだとか。

「ぜひ、町長の下へいらしてください。町長も直々にあなたにお礼が言いたいと申しておりました」

 スピカはそれを慌てて断り、逃げるように宿に戻った。

 何だよ。何でこうなるんだ。

 スピカは王都に着くまで目立たないように、ただの旅人であるように心がけようと誓った。

 結局無駄だったけど。


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