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 さて、スピカの目標であるあの人についてきちんと説明しておこう。

 セイサガの物語中盤、王国でクーデターが起きる。そのクーデターの首謀者こそ、当時王国騎士団団長にして、平民の希望の星ロイ・フランシール。

 彼は平民生まれでありながら、そのカリスマ性と剣の腕だけで騎士団長に上り詰め、王国騎士団の改革を行った。それまで貴族しかなれなかった王国騎士の門を平民にも開き、結果、平民生まれの主人公オリオンも王国騎士になれたというわけである。

 そもそもそれまで貴族しかなれなかった王国騎士にどうして平民生まれのロイがなれたかというと、彼は没落貴族と養子縁組を組んで、一応貴族になったからだそうだ。だが貴族たちはそんなロイを認めず、ゲームにおいても彼は平民として扱われていた。

 彼がクーデターを起こした理由もこの身分制度にあった。

 彼は人々に平等を求め、まずは王国を変えようとしたのだ。そして彼の理想にそぐわない存在、女神に選ばれし乙女シャーリィにもその矛先が向かう。

 彼の理想は立派であるが、これは実に愚かな行為であった。シャーリィの命を狙ったことで、神殿と王国、そして人々すべてを敵に回してしまったのだ。これを機に、彼は崖から転がるように落ちていった。

 自らの部下である王国騎士に捕らえられ、国王直々に裁きを下し、彼は流刑となった。

 国王が直々に裁く裁判は国王裁判と呼ばれ、10年に1回あるかないか。聖女を殺そうとした、元王国騎士団団長の裁判は国民全員が関心を持ち、このことは17年経った今でも人々は憤りを持ってこのことを話す。

 まずは王都に行き、このときの裁判資料を探そう。

 そこになら、彼の流刑先が記されていることだろう。

 もしかしたら密かに殺されているかもしれないけれど、まずは流刑先を目指す。

 スピカはひとまずに行き先を王都に定めた。

 そして、朝、日が昇るよりも早く屋敷を後にして、その日の日が暮れる頃にはアルシュティナーを出たのだった。

 今日は野宿だな。

 街道を沿ってゆけば宿場町などがあるが、スピカは街道をそれ、森や荒地など道でないところを進んでいた。と、いうのもスピカはこのアルシュティナーの地のことをよく知っている。だからこの地にある採取ポイントのこともすべて把握していた。採取ポイントは街道沿いには少なく、人の足が入りにくいところに多い。素材を回収しながらアルシュティナーを出ようとしていたのだ。

 そして念じれば目の前に現れるマップには、周辺地図というのもある。これは王国全体の地図ではなくて、実際にスピカが歩いて自動的に記されていく地図だ。こちらには採取ポイントを見つけたら自動的に記録される。そのエリアの採取ポイントをすべて見つけ終えると全体地図にも記載されるという優れもの。

 スピカはこういう地道な作業が大好きだった。

 日が暮れきる前にテントを建てる。

 野宿用テントというアイテムを取り出して、ワンタッチで目の前の小さな空間にテントが広げられた。これは広げてから丸一日、モンスターに襲われずに休むことができるというものだ。モンスターを倒すと、骨や皮、羽毛などが手に入り、森などの採取ポイントからは石や鉄鉱石などが手に入る。これらを製造システムの中で加工し、野宿用テントを作るのだ。

 野宿用テントはこのような野宿アイテムの中でもかなりいい物で、スピカはすでに500ちかくストックしてある。

 そしてテントの中にもぐりこむと、夕食作りをはじめた。

 採取ポイントは村の畑にもあった。初め見たときは信じられなかったが、恐る恐る採取してみると、なんと野菜が手に入るではないか。しかも畑の持ち主も何も言わない。これまで何度見られていても、何も言われないので、スピカは気にせず採取ポイントを見つけたら回収していた。

 もしかしたらスピカがアルシュティナー公爵令嬢ってことがあるからかもしれない。これは外に出たら確かめてみる必要がある。

 牛舎や牧場などの採取ポイントでは牛乳や牛革、牛肉などの素材が手に入る。それまでの加工の過程を一切無視したシステムはなかなか恐ろしいものである。

 製造システムの中には調理というカテゴリがある。そこで手に入れたレシピを用いて様々な料理が作れるようになる、というわけだ。

 気が付くとスピカは、前世で途中挫折していたすべて製造に頼った縛りプレイを地でやっていた。これもすべて、ここまで育ててくれた父と母のおかげである。

 簡単に片付けて、スピカはそのまま眠りについた。


 昨日、日暮れの頃にようやくアルシュティナーを出たので、新しく入ったこの地のことを調べられなかった。

 スピカの周辺マップは未到達を示し、真っ黒に塗りつぶされている。歩いてゆけばこの黒い部分が明かされていく、というわけだ。

 しかし王都までは遠い。

 セイサガでは物語の中盤が過ぎると飛竜を手に入れ、優雅な空の移動が出来た。いいな、飛竜。ぜひ欲しい。

 願ったところで目の前に飛竜が現れることもなく、スピカは渋々この辺りの探索を始めた。

 アルシュティナーの西隣であるこの地は確か小さな領土がひしめき合っていて、小さな小競り合いがよくあると聞いていた。元王女で元聖女の母が領主代行をするアルシュティナーは決してそのような問題に巻き込まれることはなく、対岸の火事であった。

 そうしてその日一日周辺地図の記載と、採取ポイントの確認、出てくるモンスターを狩って、素材と金集めをしていたスピカの前にみすぼらしい少年が現れた。

 スピカはモンスターかと思って、思わずショートソードを抜いた。

「ま、待って。僕は敵じゃありません」

 少年の言う通り、彼は敵ではないようだ。その証拠に彼は武器も持っていないし、敵意も感じられない。よく見ると彼は靴も履いていないし、足には泥や傷で汚れていた。そして、彼はとても疲れた様子で、今にも倒れてしまいそうなほど、衰弱していた。

 スピカはショートソードを鞘に収めると、彼に回復魔法“癒しの光”をかけた。

「あ、ありがとうございます」

 突如白い光が自分を包み、驚いた彼だったが、それが回復魔法だと気付くとほっと胸をなでおろした。

「気にしないで。私はスピカ。あなたは?」

「オスカーと言います。あの、もしかしてアルシュティナー家の方ですか?」

「ええ?」

 スピカはまだ名前しか名乗っていないはずだ。どうして家まで分かるのか。するとオスカーは言った。

「だって、背中にアルシュティナーの紋章が入っていますから……」

 しまった。

 スピカは心の中で大きく舌打ちをした。

 スピカの普段着は背中にアルシュティナー家の紋章が入ったアルシュティナー家の服である。これはスピカの自作である。屋敷の中の採取ポイントで回収できるアルシュティナー家の紋章というアイテムと布の服を製造システムで加工するとその服にアルシュティナー家の紋章をつけることができる。別に家の紋章を見せ付けたいわけじゃなくて、紋章をつけるだけで防御力が上がるのだ。他にアルシュティナー家の人間しか装備できなくなるという弊害もあるが、今まで苦になったことはない。

 スピカは鎧など戦い向きの装備も掃いて捨てるほどアイテムボックスの中に突っ込んでいるが、動きにくくなるのが嫌で、ボックスの肥やしと化していた。普段から布の服を愛用し、その延長で今も着ていたのだ。

「確かにアルシュティナーの人間よ。でも、ここはアルシュティナーじゃないし、ここでは私はただのよそ者よ」

「ええ、そうですけど。えっと」

「用がないなら行くわ。近くの村まで送ったほうがいいかしら?」

「ま、待ってください! 助けて欲しいんです」

 オスカーはその場を後にしようとしたスピカにしがみついた。

「助けてって、何よ……」

 スピカの顔が渋る。

 ここは他所の土地。貴族であるスピカは余計なことが出来なかった。下手すれば内政干渉と貴族同士のいさかいに発展してしまう。

 オスカーは自分が来た方を指差す。まだスピカが行っていない方だ。

「あっちに遺跡があるんです! 僕はそこから逃げてきて……」

「何、捕まってたの?」

「はい。闇の信者に」

 スピカは思わずオスカーを振り返った。

「まだ妹が捕まったままなんです。お願いです。助けてください」

 スピカは渋い顔をして黙り込んだ。

 闇の信者とは、厄介な相手である。

 闇とは、女神と女神が作ったこの世界を憎む心から生まれる。闇に堕ちてしまえば、それはもう世界に仇なす敵である。そして彼らを討つことは絶対の正義であり、女神への忠誠を示す一つの方法でもあった。

 セイサガのストーリー、17年前の聖女の使命とは、この闇との戦いでもあった。

 スピカは仕方ないとオスカーを引き剥がした。

「悪いけど、出来ないわ」

 闇の信者を敵に回すのは良くない。そういうのは専門にやってる人に任せればいいのだ。

「近くに村があるからそこまで案内する」

 そういって、スピカは失望したオスカーを引きずって、森の探索中に見えた村へと連れて行った。


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