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 治療院でバイトをするようになると、母はスピカに領内での自由を許してくれた。

 それまでは屋敷の中、せめて下の中心街までだった。それが領内に広がったのでスピカは早速冒険してみることにした。

 そしてスピカが外に出るその日、玄関で母が見送ってくれた。

「はい、スピカちゃん」

 母は一振りの剣をスピカに差し出した。

 剣といっても刀身は短く、ショートソードという剣だ。

「これは?」

「護身用よ。町から離れるんでしょう? 無理しないでね」

 母はスピカのおでこにキスをして、同時に首にアミュレットをかけた。

 帰還のアミュレットという装備品で、万が一、戦闘不能になったら屋敷に転送されるという効果がある。これで母も安心して送り出せるということだ。

 最も、今のスピカのレベルは33。セイサガの物語で言えば序盤から中盤に差し掛かる辺りで、決して弱くない。外に出てみないとモンスターの強さが分からないが、きっと大丈夫だろう。

 屋敷が見えなくなって、スピカは自分の装備品を確認した。

 これも念じると分かるようになっている。

 武器はショートソード。防具はアルシュティナー家の紋章が入った服だ。布の服であるが、さすがそこは公爵家、良い物を使っていて防御力は通常の4倍だ。防御力は4だけど。そして装飾品。これは先ほど母にかけられた帰還のアミュレットだけ。装備品はもう指輪がまだ2つつけられる。ブレスレットもつけられる。ゲーム内では種類がどうであれ2つまでしかできなかった。だが今はゲームではない、現実で、装備品は自由がきいた。


 そしてアイテムも確認する。これも念じると目の前にアイテムボックスが現れる。

 これまで屋敷の中で、母に教わりながら作った薬、回復アイテムが山のように詰まっていた。素材の欄は屋敷の中にある採取ポイントで回収した素材アイテムが詰まっている。

 スピカは前世の記憶があって、ここが一応ゲーム?の世界だと分かっていたからこのアイテムボックスも納得であるが、他の人はどう思っているのだろう? 手に持たない無限に入れられる入れ物があるのは不思議でならないと思うのだが。

 その疑問はやがて一応の解決をした。

 その疑問を母にぶつけてみたのだ。母なら元聖女としてこの世界の神秘に触れている。もちろん母はその疑問に答えられた。

「すべて女神様の奇跡なのよ」

 な、なるほど。深く考える必要などないのだ。

 スピカはこの頃から世界のいびつさに気付きはじめていた。


 モンスターと人は古来から生存を巡って競ってきた。

 アルシュティナーでも例外ではなく、アルシュティナーではアルシュティナー兵が定期的に人里周辺のモンスターを狩り、獣害に備えていた。人里から離れたところのモンスターは、正直言うと手が回らず、放置気味である。だから狩っても誰も文句を言わない。それどころか喜ばれる。

 それにモンスターを狩れば素材もアイテムも、経験値もお金も手に入るのだから、狩らない理由はない。


 そうして、スピカは広大なアルシュティナー領内を駆け回り、モンスターを狩っては素材を集め、製造を行っては製造レベルを上げ、アイテムボックスの中に作ったアイテムを突っ込んでいったのである。


 そうした日々の中、たまたま家に帰ると珍しい人が屋敷に帰っていた。

「お父様!」

 スピカはその姿を見つけると一直線に駆け寄り、その胸に飛び込んだ。

「おっ、俺の可愛いお姫様のご登場だ!」

 スピカの父にして、セイサガの主人公オリオンは愛娘をぎゅーと力強く抱きしめた。

 オリオンはスピカと同じ紅茶色の髪を風になびかせていた。

「元気だったか、スピカ!」

「もちろん!」

 父オリオンは、前世でもお気に入りのキャラの一人。一番ではないけれど、彼の娘に生まれたことは嬉しくないわけがない。

「オリオン、今ね、スピカちゃん剣を振るようになったのよ」

「何!? そうなのか? それならお父様が鍛えてやるよ!」

 顔一杯に喜びを貼り付け、父オリオンは宣言した。

 そうして、親子三人は屋敷にある稽古場に移った。早速というわけである。そしてこの稽古場はスピカが散々母に回復術を仕込まれた部屋でもある。この部屋に来ると、自然と気が引き締まる。

 スピカと父は剣を持って対峙した。

「よし、それじゃあかかってきな」

 軽く言った父を、こっそりとアイテムを使ってステータスを確認する。きっとこの人のレベルもカンストしているはずだ。そしてそれは当たっていて、普段モンスター狩りで方々を駆けずり回っているからか、レベルはもっとひどいことになっていた。

 レベル287って何よ。化け物には上限がないの?

 そして、レベルがようやく40になったばかりのスピカがモンスターより恐ろしい化け物に勝てるはずもなく、一撃を与える前に軽い一振りで戦闘不能に陥ってしまう。

「ああ、しまったな。耐久の気力を忘れてた」

 父の言葉に母はああ、と手を叩いた。

「そうだったわ。ごめんね、スピカちゃん」

 こうして、化け物級の回復術師である母が付き添って、父との手合わせは夕方まで続いた。

 ひたすら軽くいなされるだけで体力を1まで削られ、回復術をかけたらすぐにまた削られる。スピカも回復術の腕が上がっており、以前より強力な回復術を素早く使えるようになっていた。

「実戦では一瞬一瞬が命取りだからな!」

 と豪語する父は、回復術の素早い詠唱をスピカに求めた。スピカは何とかそれに応え、結果『高速詠唱』というアビリティを習得した。

 確かにセイサガではアビリティというものもあったが、こうして習得するものだったのか。

 ゲームではレベルやその他条件を満たして初めて習得というのが通常のやり方で、イベントなどで手に入れる場合もあった。今回は、おそらく後者のやり方なんだろう。

 父は五日、アルシュティナーにいた。

 その間、毎日スピカの手合わせに付き合い、スピカのレベルもガンガン上がる。あっという間に50になって、父はあることを思いついた。

「そうだ、スピカ。もし俺に一撃でも与えられたらアルシュティナー領の外に出ていいぞ」

「え?」

「シャーリィから聞いてる。今アルシュティナー領の中を駆け回ってるんだって? いくら広いって言ったっていつか飽きるだろ。でもな、可愛い娘をそうそう外には出したくないんだ。だから、お父様に一撃与えたら、アルシュティナーの外に出ていい」

 魅力的な話だった。

 ゲームではアルシュティナー領のところなど何もない平原だった。現実的に考えれば何もないわけがないのだけれど、ゲームと現実は違う。ともかく、アルシュティナーはストーリー上関係のない土地だった。セイサガのファンとしては、ストーリーに関わる地に行きたくないわけがない。だって、聖地じゃないか。

 スピカの心の炎が勢いが増した。


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