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こうしてスピカは1時間ほど製作にのめりこんで、いよいよ出発することにした。時間からして真夜中に入った頃合。この時間なら公文書館にいるものなどいないだろう。
セイサガのゲーム中、この王都地下通路はほぼ一本道だった。
公文書館から王都の中心、王城までだ。他に道らしきものがあっても、柵が下りていたり、瓦礫が山になっていたりと行けないようになっていた。だが、今はそのような障害物はなく、行こうと思えば探索できる。が、やはり時間が惜しい。真っ直ぐ公文書館に向かった。
セイサガでは一度クリアしたダンジョンはショートカットできるようになっていた。
後々素材回収に来たときに手間を省く設計になっているのだ。
そして入りやすい王城からの道から行きやすいようになっている。つまり、今スピカの行程と一致するのだ。
地下通路では高低差を利用して、梯子を下ろしてショートカットを可能にする。そして梯子はさきほどの部屋から先にあり、スピカは梯子を下ろして極力モンスターに遭遇しないように公文書館を目指した。
こうして、数回モンスターに遭遇しつつも、一時間とかからず公文書館への扉にたどり着いた。
記憶にある限り、公文書館の扉は本棚の裏だった。スイッチを押すと扉の前にある本棚も一緒にスライドするという仕掛け。
剣と魔法のファンタジーの癖にずいぶんメカメカしい仕掛けだ。
夜も深まった中、公僕たる公文書館職員がいるはずも無く、難なく忍び込むことに成功した。
公文書館の職員はこの本棚が秘密の地下通路の出入り口とは知らないようで、本棚の前には様々な書類が山になっていた。本棚が動いたことでその積まれた書類もひっくり返ってしまったが、スピカの知ったことではない。職員の管理が悪いのだ。
スピカは目的の裁判記録の場所のあたりをつけていた。
公文書館の資料はすべて保管タグがついている。そして、スピカと同じように閲覧制限のかかった裁判記録を求めた人が受け取った資料を横目で見て、その保管タグを盗み見た。保管タグは保管されている本棚の番号であり、スピカの目の前に並ぶ本棚には、律儀に番号が振ってあった。
あとは裁判記録の棚を探せばいいだけだ。
それにしても公文書館になぜこんなにも多く人が資料閲覧に来るのだろうとスピカは疑問だった。
図書館ならまだ分かるが、ここは公的な書類が保管されているだけのはず。首を捻ったが、資料請求に来た人たちの会話で謎が解ける。
「おっ、これってレリアナ王女の手紙か?」
「ああそうだ。ルイ伯爵に宛てた手紙でよ。閲覧制限かかっていたからなかなか時間かかっちまったよ」
公文書館では王だけでなく、王族が書いた手紙も大体保管されている。手紙だけでなく日記もそうだ。そういう法律があるのだ。つまり、恥ずかしい手紙とか、知られたくないこととか、すべて保管されて、閲覧制限がかかっても王族や高官の許可一つで他人に見られてしまうというわけだ。
しかもこの許可というのは手紙や日記を書いた本人でなくともいいという。だから無関係な王族や高官の許可でも見られるというわけで。
王族や高官がなかなか閲覧制限のかかった資料の閲覧許可を出さないわけである。
スピカはつくづく自分がそういうのと無縁なアルシュティナーに生まれてよかったと胸をなでおろした。
そうこうしているうちに、目的の棚を見つけた。棚5つ分ぐらい国王裁判の資料のようだ。軽くのぞいてみると、古いものが下に置かれているようだ。国王裁判は10年に1回あるかないか。つまり、17年前のロイの裁判は上の方にあるはずだ。
上の方はスピカの頭よりも高く、悩んだが棚によじ登ることにした。
幸い、棚には傾斜がついていて、登りやすかった。探せば梯子でもあるかもしれないが、面倒だし、今は侵入中。大っぴらなことは避けよう。
向かいの棚にも足をかけて、手の届かなかった棚の資料を引っつかむ。一つ一つがヒモで束ねられており、資料の題名にも目を通した。
そして、ついに見つけた。
『王国歴1527年 5月20日 ロイ・フランシール 謀反の裁判』
すかさず床においてじっくりと目を通した。
セイサガのストーリーでは、ロイというボスを倒し、彼の部下だった王国騎士たちに捕らえられて終わりだ。あとは市民が「流刑になったんですって」とか「シャーリィ様が助命を嘆願なさったんですって」とか言う話を聞くぐらいか。
だが、現実はそう簡単にはいかない。
裁判資料をじっくりと読みふけり、彼のことを知ろうとした。
一読したところで、ふと思った。裁判記録でもロイのことは丁寧に扱われていた。謀反人であるならば、あらん限りの罵詈雑言で罵ってあってもおかしくないだろう。しかし、ロイには敬意が払われていて、ただ読んだだけならロイは高貴な人なのかと思ってしまうぐらいだ。だがロイは庶民生まれで没落した貴族の養子だ。丁寧に扱われるにはちと弱いか。
そして資料の最後にきちんと彼の流刑先が記されていた。
『被告をドンオートルの地に追放とす』
スピカは言葉を失った。
ドンオートルという地についてはそこそこ知っていた。行ったことはないけれど、知らない土地でもない。王国南東の原野で、獰猛なモンスターがいるので、とても人の住める土地ではないという。
そして問題はその地が危険とかそういうことではなくて、ドンオートルはアルシュティナーの隣だということ。
スピカは自らロイから遠ざかっていたのだ。




