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そして1時間後、2人は重装備をまとって、町外れの廃屋の近くに身を潜めていた。
時間がかかったのはここまで距離があったのと、アースレイ用の重装備に様々なスキルをつけていたからだ。スピカ用の装備は以前のものをそのまま使えるが、アースレイが使うのは新しく用意しなければならなかった。
アースレイはとにかく要求が多い。
「闇属性の耐性をつけてください」
彼はスピカの製造レベルを知っているので容赦なく要求を突きつけた。素材も十分にあることも知っている。
素材の中に闇の信者からしか採れないものもあったので、彼はやはり噂の白騎士がスピカだと気付いていたのだろう。口でどうこう言っていても、持ち物でばれてしまうとは間抜けな話である。
後衛となるアースレイの重装備はスピカの前衛装備に比べて布の部分が多かった。防御力が低いわけではなく、装飾が多いということだ。銀と白布。二人が並ぶとアースレイのほうがよっぽど白騎士という言葉にふさわしい。
スピカはアースレイの要望通りに白銀の杖に光魔法の威力を上げるスキルを付与した。
「これでいいかしら?」
杖を受け取ったアースレイは手の中で杖を転がし、感触を確かめる。
「結構です。さすがですね」
「伊達にやっていないからね」
そんなやり取りが半刻ほど前。
アースレイには解呪士への口利きを理由に言いようにこき使われている気がする。
「大きいのを放ちましょう」
声を潜めたアースレイの言葉で意識が目の前の廃屋に引き戻される。
「何、廃屋ごと吹き飛ばすとでも?」
「そんなことをすれば私たちだって怪我するかもしれませんよ。そこまでしませんけど、魔法を放ちます」
「分かったわ」
アースレイは杖を構える。そして女神を称える言葉を紡ぎ始めた。
光属性の魔法は女神を愛し、尊敬する心から生み出される。よって、光魔法の呪文というのは女神への祈りそのものだ。
アースレイは光魔法をぽっかりと開いた廃墟の窓に投げ込んだ。
魔法は廃墟の中で破裂して、廃墟の内側で閃光が噴出した。同時に廃墟の中で悲鳴が響き渡る。
先制攻撃を加えたことによって廃墟の中の敵の数が判明する。中には10人近い闇の信者がいた。そのうち8人は先の魔法で戦闘不能となり、残る2人は体力がギリギリながら残っていた。
「片付けるわ」
スピカはクレイモアを片手に廃墟の中に身を滑らせた。
夜の戦闘ということで、暗いところでも見えるようにする暗視スキルが付いたアクセサリーを身につけてある。難なく残り2人を見つけると、素早くクレイモアを振り下ろして闇に帰した。
「終わりですかね」
アースレイは悠々と廃墟の中に入ってきて、辺りに敵がいないことを魔法で確認した。どうやらいないようだ。
「これなら装備を変えなくとも良かったのでは?」
「万が一に備えているのよ」
「レベルが高いのですから気にしすぎではないのですか?」
「レベルが高いからって油断は禁物よ。それに、無理に敵を作ることはないもの」
「敵って……。闇の信者は悪ですよ? それを裁くのは人として当然です」
「触らぬ神にたたりなしって言うじゃない」
アースレイは首を捻る。
「何ですか、その言葉。女神はたたりませんよ?」
しまった。スピカはうっかり前世の言葉を口にしていた。
「あー、なんでもないわ。気にしないで」
慌てて笑って誤魔化し、廃墟の中を家捜しする。何かいいものが落ちていないか。廃墟の中は狭くて、すぐに終わる。結局何もなかった。手に入ったのは闇の信者が落とした素材とわずかなお金だけ。何だか割りに合わない気がした。
「この町もしばらく大丈夫でしょう」
この町にも神殿があり、常駐の神官もいる。新たな闇の信者を出さないように、彼らに頑張って貰うしかない。神官、神殿があっても闇の信者は生まれる。闇とは人の心の隙間に付け入るものだからだという。
「神殿すべてに神殿騎士を配属できればいいのですが……」
「できないの?」
「難しいですね」
神殿騎士と神官では神官の方が多い。だからこそ各地の神殿に配属できるが、神殿騎士はそうはいかない。大多数はホーリーセレスの守護に当たっていた。
ただ、このときアースレイの言った神殿騎士の配属というのは神殿に騎士を配属し、闇の信者の発生を抑制させるためのものではなく、闇の信者が発生したらすぐに片付けられるように、という意味だった。
「いたら便利よね」
スピカは適当に相槌を打っておいた。
それから朝まで宿で休み、町長に闇の信者を片付けたことを報告し、二人は王都へ向かった。
「そういえば町長の秘書がいませんでした」
「秘書?」
昨日町長の話を聞いたのはアースレイだけ。スピカは何のことだかさっぱり分からなかった。
「昨日、話を聞いていたときに町長の傍にいたんです。若い男の人が。でも今日はいませんでした」
「たまたまじゃない?」
「だといいのですけれど」
スピカはあえてもう一つの可能性を口にしなかった。
夜に倒した信者の中に、その秘書がいたかもしれないということ。もしそうなら、闇の信者の襲撃も納得が行くのだ。




