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 スピカが5歳のときだった。

 ふとした瞬間に前世の記憶が湧き上がり、自分がいるこの世界は、前世でドはまりしていたゲーム・セイクリッド・サーガの舞台そのものだったと気が付いた。

 自分でも信じられなかったけれど、前世の記憶を取り戻し、呆然としている娘を心配して母が顔を覗き込む。

 艶やかで金糸のような髪を編み上げ、湖面のように深い青の瞳。陶器のように白くて滑らかな肌。道を歩けばすれ違った誰もが振り返る美貌。世の女性が求める美を備えた母。毎日見ている母であったが、前世の記憶を取り戻したスピカにはとんでもない事実に気付く。

 スピカの母ことシャーリィ・ロイナ・アルシュティナーはセイクリッド・サーガ(略してセイサガ)のヒロインだったのだ。そしてあまり帰ってこない父の顔を思い浮かべると、何てことだ。セイサガの主人公オリオンではないか。

「どうしたの?」

「ううん、何でもないの」

 何でもなくない。

 とんでもない。自分はセイサガの主人公とヒロインの娘として生まれ変わってしまったのだ。





    ○





 この世界にとって7年前のこと、そしセイサガのストーリーはこうだ。

 この世界を創った女神リオーナル・クルーシアは世界にとある危機が迫るとその力の一部を心清い乙女に託す。女神から力を託された乙女は聖女となり、女神に代わって世界救済を行うのだ。そして7年前に聖女となったのは他ならぬヒロイン・シャーリィだった。

 セイサガとは、簡単にいうと聖女シャーリィによる世界救済の物語なのだ。


 スピカの置かれた状況を確認してみよう。

 世界救済を終え、女神に力を返したシャーリィはそのまま旅を共にした主人公オリオンと結ばれる。

 シャーリィは聖女であったが、同時に王女だった。そんな彼女と結ばれたオリオンは平民生まれであったが公爵となり、広大な領地を与えられる。その領地こそ、今スピカが住んでいるアルシュティナー。王国の南東端にあり、魔境ドンオートルと接していた。

 スピカの父オリオンは、普段領地にはいなかった。

 モンスターを狩る騎士団を作り、今も王国中を駆け回ってモンスターを狩りまくっているらしい。

「お父様、どこにいるかな?」

「昨日届いたお手紙ではイースティアって言っていたわ」

 父は毎日のように母に手紙を送っているようだ。

 その様子だと2人はセイサガのエンディングと変わらずラブラブらしい。娘としても、セイサガのファンとしても嬉しいかぎりだ。母の父への深く激しい愛をつづった手紙を「これどうかしら? まだ物足りない気がするの」と見せられたときはスピカもどん引きだったが。その手紙がどうなったのかは良く覚えていない。


 スピカは鏡の前に立ってみて、自分の容姿を確かめてみた。

 あの美貌のシャーリィの娘なのだから、期待したっていいだろう。そう思っていた。でも、運命とは残酷なもので、スピカは父オリオンにとてもよく似ていた。そりゃあ主人公だからイケメンだし、悪くはないけど、母のほうが綺麗なのだからせめて母に似たかった。

 スピカは父と同じ紅茶色の髪を短く切りそろえてあり、瞳の色だけは母と同じ深い青色をしている。


 元はゲームの世界なのだからステータスを見られないのだろうか。

 そう思ったら、目の前にパッとステータスが現れた。


 スピカ レベル 3


 と、その後に体力と魔力、攻撃力や防御力に魔法攻撃力、魔法防御力、俊敏性、運と続いていた。どれもレベル3にふさわしいステータスであった。

 弱い。こんなの雑魚モンスターに襲われたらイチコロじゃないか。


 それならば、と今度は母を思い浮かべてステータスを知りたいと念じてみせる。すると母のステータスが目の前に現れた。


 シャーリィ レベル 239


 一目見て、顔をしかめた。セイサガではレベル上限があって、100までしか上がらないはずだ。その限界を超えている。そして限界を超えているせいか、他のステータスも化け物のような数字が並んでいた。

 スピカが母のステータスを見られたのは、今現在、二人がパーティを組んでいるからだ。

 パーティリーダーは母で、パーティの仲間はメンバーのステータス、持ち物、状態異常を確認できた。そしてお互いの居場所も何となく分かるのだ。

 今スピカは自分の部屋にいるけれど、母は執務室にいる。

 普段モンスター狩りで駆け回っている父に代わり、母がアルシュティナーを治めていたのだ。


 さて、5歳にして自分の弱さに気付いてしまったスピカはこれからどうしようかと悩んだ。

 生まれた家は公爵家。領地の規模や財政状況を見ても富裕層に属するだろう。そして窓の外を見てみれば、広大な世界がそこに広がっている。前世に憧れ、魅了されたその世界がそこにある。

 ならもう、決まったようなものだった。

 スピカはすぐさま執務室の母の元に飛び込んだ。

「あのね、お母様!」

「まあ、どうしたの?」

 母の執務室にはアルシュティナーの文官たちもいて、公爵令嬢の登場に目を丸くしていた。

「私、回復術を習いたいの!」

 娘の願いに母ははじめハッとした。そして見る見る顔をほころばせ、ついには力強く娘を抱きしめた。

「いいわ! 私が教えてあげるわ!」

 母は娘が自分の得意分野に興味を持ってくれたことが本当に嬉しかったようだ。

 しかしスピカの本心は、いつの時代も医療系なら最悪外に出ても食いっぱぐれないだろうだった。


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