告白
里美は布団から跳ね起き、部屋の明かりを付けた。
同時に勝也の大きな手が頬にとんできた。
「お前、千華に今度は何言わせてるんだ」
また叩かれると目を閉じた。
でも勝也はそれ以上里美を殴りたくない、という風に両手を握りしめ、里美から、離れた。台所に行き、冷蔵庫から発泡酒を出し、一気に飲んだ。
千華は椅子に座り、父親を見上げている。
「……俺、中古の自転車で良かったんだ」
勝也は赤い眼をして、ぽつり、ぽつりと、語り始めた。
慣れたら、坂道も、どおってことなかった。
なのに、駅の駐輪場で自転車、盗まれたんだ。俺のミスだよ。鍵抜くの忘れたけど、金払ってる駐輪場だから大丈夫と思ってたんだ。
俺がどんな思いでとぼとぼ坂道登っていったか分かるか?
公園まで、あのコンビニまで、三十分でもたどり着かないんだ。
夜勤明けの、妙に暑い日だった。おれはコンビニに入った。暫く涼んで、雑誌を見て、出たんだ。
その時、「トマト」 に乗って、女の子が来た。
最初は後ろ姿しか見えなかったから髪、スゲエ長い特徴しか目に入らなかった。
それで顔見えて、じろじろ見ちゃいけないけど、あの顔だから見てしまって、鍵を忘れたのも、すっかり見てしまったんだ。「駄目だよ、盗まれるよ」って思った。
その時は盗む気は無かった。ところがその後、トマトに乗った、田端親子が来て、横に並べて駐めたんだ。
同じマンションだと知ってた。落ち着きの無いガキと無愛想な母親かって、くらいにはね。
俺は、店の中を覗いた。女の子はレジに、後から来た親子はドリンク棚の前からレジに移動しようとしていた。
瞬間、女の子はどっちが自分のか分からないと心配した。でも女の子の自転車にはウサギの蛍光シールが貼ってあった。
その次に、もしウサギのシールを貼った一台しかなかったら、それが自分のたと疑わないだろうと、なんでだか考えてしまった。
そして俺の目は……防犯カメラからはワゴン車の影で見えないのを確認していた。向かいの公園前に人は居ない。交差点の数人は携帯電話を見ている……誰も俺を見ていないのも素早くチェックしていた。
これは、チャンスかもしれないと、悪魔が囁いた。
ウサギのシールを剥がして隣のトマトに貼り付け、俺はあの子のトマトにまたがって、坂を上がった。
あの子は田端親子のトマトを自分のだと思う、鍵を探してる間に、田端親子が当たり前のように乗って行っても、子供だから強く言えないだろう。そんな事を頭の中で素早く計算したんだ。
多分、その通りだったと思う。
あの子は自分の自転車を諦めきれなくて、田端親子をコンビニで待ち伏せていたんだろうなあ。




