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青空の下  作者: 野球少年α
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第1球目 死んでしまった俺ら

いろいろとあると思いますが暖かな目で見てやってください!!!

プレイ―ーーーぼーる!

最後に襲ったのは頭にはしった鈍い痛みだった。



ミーンミーン・・・

蝉が外で騒がしく鳴いている。3年から17年の間を土の中で過ごして花が実って外に出て生きられる期間は一か月ほどだ。何ともはかないものだろう。


蝉自身自分たちがすぐ死ぬとは思わないのだろうか?それとも死ぬ時期というのは分かるのだろうか。答えは出ない。出るとしたらそれは本当に自分が死ぬであろうその瞬間だけだ。

空を羽ばたけ、鳴くことができる。


その少ない日を一生懸命にも生きている。


人間は時がたたなければその時間の速さや重みには気づくことはできないのだろう。気づいたとしてもそれをすべて受け入れ毎日を悔いなく過ごすことは思っている以上に簡単なものではないのかもしれない。










昔何かの本でそんなことが書いてあったのを思い出す。なんとなく読んだだけなのになぜか記憶に残っていた。それを今思い出したのはなぜか?そう問いかければこう答えることしかできない。


「俺はその死を迎えたからだ。」


あの本の謎をここで答えるとするならば死期が分かるかどうか?答えは「分からないだ。」予想だにしない死に方だった。まぁ死ぬ過程の違いかもしれないがあれは無念としかいいようがない。


野球一筋だった俺の人生は実にあっけない終わり方を迎えた。

高校三年の最後の甲子園出場をかけた予選の一回戦目に向かう時だった。田舎に住んでる俺は当然町には出ずにすぐ近くにある田舎の高校に通った。

野球一筋とはいってもそれなりに楽しんだ生活を送ったとは自負しているが、最後の最後で悪戯な神は俺に最悪な贈り物をしてくれた。


田舎だからこその移動の大変さ。予選の試合会場に向かう時に山を越えなくてはいけない。その当日は前日まで降っていた雨で山の斜面の土が柔らかくなっていたのだろう。上からの土砂が俺たち晴香(はるか)高校の乗っていたマイクロバスを襲った。


バスは横転して俺は強く頭を打ち付けて意識を失った。


次に目が覚めた場所は今俺が立っているところだった。病院の中であると思われる廊下は外で照らし続ける太陽のことなど関係なく涼しい温度を保っていた。そして俺の目の前には一つの病室がある。


名前は『朝倉(あさくら)夏樹(なつき)

聞いたことはない。すくなくとも自分の知り合いではないことは名前からして分かる。しかし突然どんな形で来たのかもわからない所で勝手に事を起こしていいのかという一抹の不安が残り動けない状態でいる。


「入って来て頂いていいですよ。」

中から発せられた柔らかい感じが読み取れる声を聴きゆっくりとした動きで部屋のドアを開いていく。名前が一つしか書いてなかったようだから個室のようだ。


一人としては少し大きいと感じるであろう病室にベットに上半身だけ起き上がらせた同じ年ぐらいの男がいた。顔はすこし痩せ細っており健康的とは言えない顔色をした男はこちらを見て笑顔を見せる。


「初めましてだね。僕は朝倉夏樹。この状態で挨拶は失礼だけど許してくれるかな。」


「俺は相場(あいば)(はじめ)。君は俺が来るのを待っていたようだけど俺がここにいる理由を知っているのか?こんな藪から棒に言うのはどうかと思うが俺は死んだはずだ。」


「そう。僕たちは死んだ。僕は不治の病に侵されて。君は乗っていたバスが土砂崩れに巻き込まれて。」


そう言って俺の後ろにある壁の方を指さす。後ろを向くと時計が掛けてある。6時53分46秒。時計はそこで時を刻むのを忘れてしまったかのように針を止めている。


「君は驚いたりはしないのかな?」


「いや十分に頭の中は混乱してるぞ。ただ顔に出すのが下手なだけ。それよりもこの止まった時間はどういうことだ?」


「そうだな・・・わかりやすく言うと君と僕は同じ時刻に死んだ。同じ日に同じ時間細かい単位まで限りなく一緒だ。そして最後の願いも。」


男は意味ぶかな笑顔を向けて人差し指を唇の前に持っていく。俺の最後の願いは甲子園に出ることだった。薄れゆく意識の中でそれだけが悔いた思い。


「僕は昔に約束したんだ。甲子園に連れてってあげるってね。僕は医者やみんなからはまだ余命は長いと言われてけど何か分かったんだ。死んじゃうって。昔母親に連れて行かれた神社があってね本気で願えば絶対叶えてくれるって教わったんだ。自分でも嘘だとは思っても最後にあがけることは病院を抜け出してそこに祈りに行くことだけだった。」


「・・・何を願ったんだ?」


「どんなことをしても約束を守りたいってね。後は呼吸もできなくなっちゃって今の状態になってた。だけど頭の中に入ってきたんだ君の過去やバスのこと。そしてここに現れた。」


「まさかその言葉をすべて信じろって言うのかよ?」


なんの確証もない男の言葉。


「君もここに来た時から何か感づいてるはずだよ。君と僕はいろんな偶然が重なって出会えた。君に僕の夢と体を託す。だからかなえてほしいんだ。」


「お前も死んだんだろ。体は弱いのにそこにいったって何もできやしないさ。」


「良い所をついてくるね。」


強い口調で言ってしまったが男は軽い口調で返して、ベッドの横にある棚からマジックと紙を取り出してスラスラと何かを書き上げていく。


「一度自分の体を離れた魂はもう戻る事は出来ないんだ。だから君の魂を僕の体に宿す。確かに今は心配停止で病院に運ばれてる僕だけど君が宿ればまた機能をはじめるよ。そして僕自身は自分の病気やらすべて背負って成仏するよ。」


なかなかに上手い絵を描いて説明をしていく。こんなありえなさそうなことを楽しく言ってくる姿は、サンタクロースを信じてる小学生の無邪気な姿を想像してしまう。


「本当にあるとしても、それって都合よすぎないか?」


「この過程を知っているならそう思うかもしれない。だけど考えてみてくれ。あっちの世界ではそれが起こったとしても、なんの説明もできずに奇跡が起こったの一言で終わってしまうよ。他に質問はない?」


反論の糸口が見えずに頭を悩ます。


「じゃあ僕からも一ついいかな?」


「ああ。」


「君は僕の夢を叶えてくれる?」


前にいる男、朝倉夏樹の夢・・・甲子園。決して楽ではない約束を俺は守ることができるのか?


――――――「俺が甲子園に連れてってやる。」いつの日かの俺も同じことを幼馴染に言ったことがある。頑張れば絶対にいけると信じてたから。だけど俺は夢を見させといて死んでしまった。


「もし・・・もし本当に俺がお前の体でまた生きることができたらさ、俺の約束した奴も一緒に連れてってやってもいいかな?」


「もちろんだ。だけどそのことを大々的にはできないよ。君の記憶が移った僕がいるなんていったら変に煙を立てられてしまう。だから言ってもいいのは大切な人たちにだけ。」


「まぁ一緒だったって言うんだからわかってると思うけど俺も甲子園が夢だったんだ。」


「知ってるよ。」


「だけどその夢を目指したきっかけは、俺の周りにいた奴らの喜んでる姿が見たかったんだ。ただそれだけ。」


「そう。僕もみんなに喜んでもらいたかった。」


あまりにも似すぎている思いに俺たちは笑った。そして段々と心を開いてく自分自身のことにも気づいていた。そして俺を送ろうとする男・・・朝倉のセリフを止めて過去を二人で話し合った。俺たち二人は友人に限りなく恵まれていた。


「君になら僕の大切な人たちを任せられるよ。そろそろ頃合いだろうね。」


「無事に行けたら全力で頑張ってみるよ。お前の記憶は残せるのか?俺はお前となって二人で頑張っていきたいんだ。」


「そっか・・・ありがとう。今までの僕の記憶は残しとくよ。頼んだよ。」


「任せとけ!」


二人で笑いあい拳同士を軽く当てる。次の瞬間にはその空間から相場一という存在はなくなり一人となった朝倉がいた。朝倉はゆっくりと目を閉じて自身の人生の幕を落とした。

















――――――目を覚ます。


酸素マスクが口元を覆い俺の生存を維持していた。朝倉の言っていたことのことが本当に起こったのだ。俺は動かせる指同士をすり合わせる。ピッチャー特有のマメの硬さが感じられないことを知り体も朝倉夏樹のものになったと理解した。


部屋には俺の機械的な息遣いだけが響く。今は肘までは動かせるようになった。やはり違う体になったからなのか適応するまでに時間がかかるようだ。体が動くまでもう一回眠りにつこうと瞼を閉じると部屋のドアが開けられる。


俺は目を開けてその人を見る。そうすると朝倉夏樹の過去であろう映像が一気に流れこんできた。昔の知人を見ると戻るっていうことを言っておいてほしかった。危うく意識を落としそうになる痛みだった。


『パサッ』


ドアを開けた女の子の手から花束が滑り落ちた。二人の間で時間が止まったように動けずにいる。


「えっとおはよう・・・愛沙(あいさ)ちゃん?」


喜多野(きたの)愛沙。家が少し近い従兄妹のようだ。髪型はセミロングで茶色い色をしている。文科系なのか日焼けを全然しておらず肌が真っ白だ。


「夏樹。夏樹・・なつきぃ・・・。」


ポロポロと涙を流す愛沙ちゃんにひどく動揺してしまう俺だが動けるようになった上半身を起き上がらせ手招きする。酸素器具はもう自分でできるし大丈夫だろう。


「もう・・・起きないと思った。」


俺の胸で泣いていた愛沙ちゃんは少し経つとこちらを見上げてそう漏らした。


「えっとさ、俺って何日間寝てたの?」


「・・・1か月と13日。お医者さんにもう目を覚まさないかも・・・って言われたから。頭叩いといた

。」


「ははっ・・・そっかありがとうな。」


「うん」と頷きまた胸に顔を埋める愛沙ちゃんに少し身構えていた体がほぐされていく。この娘は入院中も毎日お見舞いに来てくれていたようだ。このか弱そうな子が医者の頭を叩く姿を想像すると笑みがこぼれる。


その後は大変だったとだけ言っておこう。ナースコールで看護婦さんを呼びまたもや驚かれていろいろと生体検査をおこなったがその日のうちに退院してもいいというぐらいの健康。その事実に病院の関係者は驚きっぱなしだった。


それでも検査入院ということで一週間は安全を見て入院することになった。


いろいろな患者さんがいる病院のロビーで退院を終えた俺は保護者を待っていた。


「それより愛沙。入院中に誰も来なかったけど俺ってそんなに友達少なかったっけ?」


俺は少し悲しくなっていた。せっかく奇跡の回復を見せたというのに一週間の入院中に顔を見せたのは愛沙だけその期間に呼び捨てにもどすまでの仲を取り戻した。


「それは・・・当然。私が黙っていたから。オジサンにも頼んでおいた。」


おじさんというのは俺の保護者。親は事故で死んでしまったらしい。そして預かってくれたのが愛沙の言う俺のじいちゃんにあたるわけだ。会った面識などつい前まではなかったのに朝倉の記憶が戻ったのでこの周りにいる人達も俺の大事な一部に変わっていく。


「なんでそんなことを。じいちゃんにも頼むなんて?」


「だって・・・ごめんなさい。」


「いや違うよ。怒ったわけじゃないんだ。ただ愛沙以外にも他の人たちに会いたかったなぁって思ってな。」


あまりしゃべることをしない愛沙は表情の変化も読み取りづらいと思うが、なぜか少しの変化でもわかってしまいそのたびに慌ててしまう俺がいる。


「待たせたの夏樹。一回も会いにいかずに悪かったな。」


「んっ、いや大丈夫だよ。理由は今聞いたからさ。」


白髪の髪の毛を軽いオールバックにした俺のじいちゃんは69歳という年齢なのに、威厳というものを感じてしまう。家に作った剣道場の師範を昔から務めているからなのか腰は定規でも入れてるのかというぐらいピシッと伸びている。俺より少し身長が大きいのが何とも言えない。


「愛沙の言った通りに二人は呼んでおいたからな。家に帰ったら儂は道場の方を見に行くからの後は久しぶりの四人で仲良くやってくれ。」


車の中で運転席からこちらを見て不意に言ってきた。


「・・・ありがとう。おじさん。」


「ほっほっほ。お安い御用だ。」


昔から愛沙には弱い性格をしているじいちゃんは大抵の事ならやってしまう。今の話からすると家にいる二人は愛沙の兄妹にあたる兄と姉がいるはずだ。記憶にもあるようにこの四人の中で甲子園の約束をしたらしい。


「美紀姉ぇと大樹兄ぃはまだ知らない・・・・だから、すごく驚くと思う。」


後部座席で俺にぴたりとくっついている愛沙は軽く微笑みそんなことを俺に言ってくる。愛沙の態度からして俺達は恋人同士なのでは?と疑問に思い過去を振り返るがそんなことはなく普通の関係を維持していたようだ。この積極的な態度も以前はなく俺が病院を抜け出してからこういう態度になった。


「二人は今も野球をやってるんだよな?」


「そう・・・だけどなんか元気がない・・最近。」


俺も病気が悪化したのが高校に入学した当初なので一応在籍をしている。その中であの二人は野球部に入ったはずだ。美紀は女なのに選手として入部希望をしていた。


「そっか。じゃあいっちょ相談に乗ってやるか。」


二人で小さな「えいえいおー」をやりそれから少しして俺の家であろう所につくことができた。俺と愛沙は車を降りて隣に用のあるじいちゃんと別れた。


「ただ・・・」


緊張しながらもただいまと言おうとしたが、愛沙に止められてしまう。玄関で待つように言われて愛沙は玄関から遠いドアの方へと消えていく。


『ドタドタドタ!!!』


すぐに大きな音が聞こえてきたかと思うと良い体格をした日焼け姿の男が勢いよく現れた。


「夏樹ぃぃぃいいいいい!!!!!会いたかったぜ。なんで連絡しねんだよ。てか体は大丈夫なのか?愛沙の話だともう運動しても平気らしいじゃねーか。ああっちくしょー!こんなことならいろいろと持って来ればよかったぜ。」


俺を力強く抱きしめて次々と言葉を投げかけてくる大樹。この4人の中でリーダー的な男であるのに一番はしゃいでしまっている。大樹の後ろに目を向けると愛沙に説教している美紀の姿があった。


「美紀!!大樹。ただいま。」


美紀は顔をそむけて小さいながらも、大樹は大きな声で『おかえり』と返してくれた。



不定期になると思いますがお願いします。

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