追放された俺、服を脱ぐと最強でした~無衣の獣は今日も勘違いされる~
「レオナルド・ライカン! 貴様をこのギルドから追放する!」
目の前のギルドマスター殿が、私にそう宣言する。
周りのメンバーもなにも言わないどころか、静かに頷いていた。
「いや、待って欲しい。いきなり追放とはどういうことだ。私はなにも悪いことなどしていないと思うが?」
「いきなりもなにも、自分の姿を見てみろ!」
「そんなことを言われても……」
自分の姿を見下ろす。
厚手のコートをしっかりと着込んだ、冒険者スタイルだ。
なにもおかしなところはない。
「なにも問題はないだろう?」
「馬鹿野郎! その下だ下!」
言われるがまま、コートの前を開ける。
どんな場所でも歩けるようにと買った、上等な革のブーツ。
そして、街でも一番の上等なアンダーウェア。
「なにか問題でも? 腰から下の最低限はしっかりと隠している」
「隠れてねぇんだよ!」
ギルドマスター殿の顔が真っ赤に染まる。
そこまで怒るようなことだろうか?
「いや、しかし、戦士が最高のコンディションを保つのは当然ではないだろうか? この服装でも、世間に合わせて配慮はしているのだが……」
「なにが配慮だ! その姿のせいでうちがなんて呼ばれてるのか知ってんのか?」
「いや……」
「露出狂のいる変態ギルドって呼ばれてるんだぞ!」
マスター殿は、まるで茹でダコのように怒り狂っている。
「いや、しかし、私はこのギルドで英雄として羽ばたこうと……」
「うるせぇ! てめぇが羽ばたく前にうちの信用がガタ落ちだ! 出ていかねぇならここでたた斬ってやる!!」
マスター殿は今にも武器を抜き、私に切りかかろうとする。
このままでは分が悪い。
こうなったら――。
「仕方ない……獣の神、ヴォルレオンよ。私に加護を」
私はコートを脱ぎ捨てる。
完全ではないが、今はこれでも十分だろう。
なにより、なけなしの金で買ったコートがぼろぼろになるのは困る。
「くらえぇ!」
ギルドマスター殿の鋭い斬撃が迫る。
さすがは元・街一番の冒険者だ。引退していても実力は衰えていない。
だが――。
「ふんっ!」
私は、鍛え抜かれた大胸筋で剣を受け止める。
ガキンっ!
鈍い金属音が響き、ギルドマスター殿の剣が弾かれる。
「クソッ!!」
怒りに任せた連続斬撃。
だが、この姿の私には意味がない。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
永遠とも思える連撃の後、マスター殿の剣は盛大に折れてしまった。
「はぁはぁ……てめぇ。いい加減にしろよ」
息を切らせながら、マスター殿は私を睨みつける。
周りを見渡しても、私をかばおうとする者はいない。
完全な四面楚歌。味方など一人もいないらしい。
「……仕方ない」
こうなってはもう、選択肢は一つしかない。
「わかった……今まで世話になった……」
私は一言だけ残し、コートを羽織る。
そして、そのままギルドを後にした。
「ふぅ……どうしたものか……」
透き通るような青空を見上げる。
困った。非常に困った。
ギルドから追放されたということは、寝泊まりする宿もなくなるということだ。
手持ちの金はある。
だが、宿屋に泊まればすぐになくなってしまうだろう。
「仕方ない。こうなれば依頼を受けて稼ぐしかない。これも英雄になるための試練だ」
私は一人頷き、決意とともに歩きはじめる。
だが――。
「見つけましたよ。『無衣の獣』レオナルド・ライカン」
鋭く、凛とした女の声。
振り向くと、そこには白銀の鎧を着た女が立っていた。
金髪の長いポニーテールに、キリッとした目鼻立ち。
メガネを掛けた、かなりの美人だ。
「わたくしの名は王国聖騎士団所属、ベルナデット・フォン・アーデルハイド。あなたを逮捕いたします」
***
ベルナデットは冷ややかな目で、向かいの席に座る男を見た。
「……これは一体どういうことだ?」
「なんど同じことを言わせる気ですか? あなたが各地で卑猥な格好でうろついていると、報告が上がっているのです」
「いや、しかし、それは私の戦いでの正装なんだ。誰にも迷惑を掛けてはいないだろう?」
「黙りなさい。獣の神などという邪教の信奉者と語り合う舌は、持ち合わせていません」
彼女はメガネをくいっと上げながら、レオナルドをじっと見つめる。
レオナルドは着慣れない服を着せられ、手足を縛られているせいか、もぞもぞと居心地が悪そうに動いていた。
(報告書のとおりですね)
彼は布などで体を覆われると、力が出なくなるという話であったが、それは本当のことだったらしい。
(しかし、なぜ、私がこのような任務を……)
ベルナデットは心のなかで、大きなため息を吐く。
王国の聖騎士として必死に戦ってきた自分に与えられた任務。
それが「露出狂の変態の護送」だった。
確かに、邪教の信徒を追うのも聖騎士の役目だ。
だが、こんな辺境の地まで派遣されたという事実は、真面目な彼女にとって苦痛以外の何物でもなかった。
ただ、素直に彼が捕まったのだけは幸いであったが。
「ん? なんですか……」
しばらく馬車に揺られていると、突然、停止した。
次の瞬間、焦げ臭い匂いと煙が車内に立ち込める。
「くっ……!」
彼女はすぐさま馬車から飛び出す。
飛び出すと同時に、乗っていた馬車が炎に包まれた。
「一体どういうことですか!」
普段の冷静な彼女らしくない叫び声が響く。
彼女の周囲を、同じ護送任務を受けた同僚の聖騎士たちが取り囲んでいた。
「あんたはやりすぎたんだよ」
「……騎士団長の差し金ですね」
「ここで死ぬあんたには、どうでもいいことだろ?」
裏切りの聖騎士たちは剣を構える。
ベルナデットも剣と盾を構えた。
一触即発の雰囲気。
彼女は一流の騎士だ。
だが、多勢に無勢。万が一にも勝てる見込みはない。
(せめて……聖騎士として誇り高く戦い抜きましょう)
彼女がそう覚悟した瞬間――馬車が盛大に弾け飛んだ。
全身を火に包まれた男が、そこから姿を現す。
「君たち……多勢に無勢での戦いは、さすがに卑怯ではないかね?」
威風堂々とした声。
その場にいた全員の視線が、男に釘付けになる。
「レオナルド・ライカン! 義によって助太刀する!」
炎が消えると、そこには一糸まとわぬ男。
無衣の獣が、堂々と仁王立ちをしていた。
***
燃え盛る馬車を背に、私は彼女たちを見る。
どのような事情があるかはわからない。
だが、四人がかりで一人を襲うこの状況……やるべきことは一つ!
英雄として、ただ戦うのみ!
私は腕を大きく振り上げる。
「獣の神、ヴォルレオンよ! どうかご照覧あれ!」
次の瞬間、私は矢のような速さで敵に接近した。
「どりゃぁぁぁぁぁ!!! 獣王流三十七の必殺技の一つ! 獣王式ワイルドボア・ラリアットぉ!」
「ぐわー!!」
丸太のような腕から、猪の突撃を思わせる会心の一撃を叩き込む。
敵の鎧はひしゃげ、別の聖騎士を巻き込みながら吹っ飛んでいく。
「く、くそぉー!!」
「とぅっ!」
「なっ!」
回避! 跳躍!
月光を背に、私は空高く舞い上がる。
「獣王流三十七の必殺技が一つ! 獣王式イーグル・フライング・ボディアタックぅ!」
上空からの、全体重を乗せた一撃。
体勢を崩した相手になすすべなし!
「ぐへぇ!!」
鷹のような一撃を受けた相手は、地面にめり込んだ。
残りは一人。
私はすぐさま構えを取る。
「くっ、くそ!」
残る一人は逃げようと背を向けた。
「逃さん!」
「な、なにをする!」
相手に向かって突撃し、その体をガッチリと掴む。
そして、強引に逆さまへと抱え上げた。
「獣王流必殺技が一つ!」
「や、やめろぉぉぉぉ!!」
「獣王式、ドラゴン・ブレンバスタァァァァァァ!!!」
脳天から地面に叩きつける。
その体はドラゴンの牙のように、大地へと深々と突き刺さった。
腕を離すと、相手は力なく倒れ込む。
辺りを静寂が包んだ。
私は両腕を大きく振り上げる。
「獣の神、ヴォルレオンよ! この勝利を捧げます!」
全力を尽くした、いい戦いだった。
きっと後世の歴史書にも、英雄レオナルド・ライカンの名前が輝くだろう。
「っと、しまった……お嬢さん。大丈夫かな?」
私はベルナデットと名乗った女性へとゆっくり近づいていく。
彼女は小刻みに震えていた。
無理もない。いくら聖騎士とはいえ、彼女も女性だ。
怖かったのだろう。
こういう時こそ、英雄としての包容力を見せるべきだな。
「さあ、もうなにも心配はいらない。私の胸に飛び込んできたまえ」
彼女の前で大きく手を広げ、受け止めようとする。
「こ……」
「こ?」
「この変質者ぁぁぁぁぁ!!!」
彼女の盾が、私の下半身に叩きつけられた。
予想外の一撃。回避などできるはずもない。
「ごふっ!!」
強烈な痛みに襲われ、私は崩れ落ちる。
英雄を目指すというのは、かくも過酷な道だとは……。
私はそのまま、意識を失ってしまった。




