第2章:星空の夜
「福大、福大、起きて。ほら見てよ!」
ママの声が、ぼくの頭に突き刺さる。
次の瞬間、ぼくの体は豪快にグワんっと持ち上げられた。
「福大、起きろ。起きろ起きろ。起きるんだー」
・・・パパ。
ぼくはおみくじの筒じゃないんだよ。
そんなに振ったら、吉とか大吉とかじゃなくて、
口からキラキラ出ちゃうよ。
パンッ!
「おー起きた起きた。」
「パパ・・・痛いよぉ。」
はい、意識が戻りました。
うちのパパとママって起こし方が豪快なんだよね。
「凄いね。」
ママが夜空を眺めて呟き、パパは何も言わずに夜空に釘付けだ。
キャンピングカーの天井で親子3人川の字になって、ぼくはパパとママに挟まれながら夜空を見ている。
ぼくの手を握っているパパとママの手が冷たくて気持ち良い。
ぼくは2人の手が大好きだ。ヒンヤリと冷たい2人の手だけど、誰よりもぼくの事が好きなんだって分かるくらい温かい手。
だからぼくの熱で温めてあげるんだ。
「星がいっぱい落ちてくる。」
【星雲の狭間】から見る景色は視界全部を星で埋め尽くしている。遠くにあるって知ってるのに手を伸ばせば届きそうなくらい近くで光ってる。
そんな星達がドンドン落ちてくる。1個や2個じゃないよ、何個も何十個もドンドン落ちて来るんだ。
これはもう、願い事叶え放題だ。
三大流星群の一つ、1月に見えるしぶんぎ座流星群はまるで星空が丸ごと落ちてくるみたいに流れ星が降り注いでいる。
夜空はビックリするぐらいいっぱいの光で溢れていて、とっても静かだ。
今日は新月だから月の明かりもない。
夜空に輝く星々はぼく達をこんなにも明るく照らしてくれる。
「パパ、オリオン座見える?」
「もちろん見えるぞ」
「オリオン座はパパなの。」
「ん?」
「でね、ママはこいぬ座。」
「そうなの?どうして?」
「ママは子犬みたいで可愛いから。」
「きゃ!嬉しい事言ってくれるじゃない。どこでそんなの覚えたの?」
「パパはどうしてオリオン座なんだ?やっぱりかっこいいいからか?」
「え?だってオリオン座は狩人だから、狩人が働かないとぼく達暮らしていけないもん。パパにはこれからもしっかり働いて貰わないと」
「福大、幼稚園の年長が言う言葉じゃないよそれ。現実見過ぎだぞ。」
「でね、ぼくはおおいぬ座なの。ぼくは大きな犬だからパパもママも守ってあげるんだ。
でねでねでね。オリオン座の一等星ベテルギウス、こいぬ座の一等星プロキオン、おおいぬ座の一等星シリウスを結んで冬の大三角形になるんだよ。
だから僕たちはずーーーっと一緒なんだ。冬の空を見上げれば絶対にパパオリオンがいるし、パパが見つかれば、ママも僕もそばにいる。ぼく達は三角形で結ばれた最強で最高の家族なんだよ。」
うえーーん
今日何度目の涙だろう。今度はママが泣いた。
【星雲の狭間】は天体観測で有名なスピットだけど、泣き虫スポットでもあるのかな?
隣で一緒に寝そべっているママがぼくの体に顔を埋めながら声をあげて泣いている。ぼくの手を痛いぐらいギュッと握って。
大丈夫だよ。そんなに泣かないでよ。
隣のパパは流れ星を見ながら声を殺して泣いている。大粒の涙を流して鼻水をズルズル啜りながら。
大きな腕でぼくとママを抱きしめながら泣いてる。
パパはすぐ泣くんだ。今日だけで何回泣いてるんだよ。
ぼくは大丈夫なんだから、だから泣かないでいいんだよ。
どうして泣いてるかぼくは知ってるんだ。
でもぼくは知らないふりをしてあげてるんだ。だってパパとママって本当に泣き虫なんだもん。
ぼくの体はいつも熱くて、冬でも汗が出るほどだ。
パパとママがぼくに触ると、すぐに手が温まるぐらいに熱いんだ。これはね、ぼくの病気のせい。
ぼくは産まれた時から体温が高い。
いつも38℃〜39℃の高熱が出ている。しょっちゅう発作が出て40℃や41℃まで上がる事もある。
どんなにを検査しても原因が分からなくてずっと入退院を繰り返している。
先生は命を燃やしてるみたいだって言ってた。
ぼく知ってるんだ。ぼくの中の命がもうすぐ燃え尽きようとしてるの。
皆んな必死に隠そうとしてるけど、きっと小学校の入学式には出られないし、幼稚園の卒園式にも出られない。
次発作が出たら、もう燃え尽きちゃうと思う。
ぼく絶対忘れないよ。
パパとママの笑顔も涙も、キャンピングカーで歌った歌も、パパのこげこげ目玉焼きも、【星雲の狭間】で見た絶景も、この無数の流れ星も。
ぼく絶対に忘れないよ。
ぼくの願いも絶対に叶うはず、こんなに沢山の流れ星にお願いしたんだから。
流れ星にお願いしたくて連れてきて貰ったんだから。
『パパとママがずっとずっと幸せでいられます様にって』
「パパママ見てよ。すっごく綺麗だよ。」
だからパパとママにも、ぼくと一緒に見たこの星空を忘れないで欲しいな。ぼくのことずっと覚えていて欲しいな。
だから、この夜空を、この二人の笑顔を、この瞬間を、ちゃんと胸に焼きつけておきたかったんだ。
泣き虫パパとママの声を聞きながら、ぼくは消えては現れ、消えては現れる無数の流れ星に願いを伝え続けた。
『パパとママがずっとずっと幸せでいられます様にって』
一際大きな白い光が星海の端から現れた時、ぼくは心を込めて願い続けた。何度も何度も心を込めて想いを込めて願い続けた。
白い光は流れ星の様に消える事はなく、ゆっくりとぼく達の方へ落ちてきた。




