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憧れの元ヤンギャルママ(30)が可愛すぎる  作者: ナカジマ
第3章 家族という関係
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第96話 面会室にて

 リサ姉の元旦那である高田竜司(たかだりゅうじ)さんは、結局4年6ヶ月の求刑を受けて刑務所に入った。

 素直に罪を認めて、余計な抵抗をする事は無かった。流れ聞いた話では、父さんとの会話が素直になった理由らしい。

 何を父さんが話したのかは聞いていない。ただ何となく想像はつく。もう一度ちゃんとやり直すように、説得したのだろう。

 父さんは高田さんが19歳の頃から知っている。色々と面倒を見て来たのもあり、良い父親代わりだったみたいだ。

 捕まった時の父さんの気持ちは、察してあまりある。リサ姉を娘のように思っていたのだから、当然高田さんだってそうだ。


 俺から見ても、歳の離れた兄のような存在だった。初恋の女性に相応しいだけのカッコイイ人に見えていた。

 少々ガラは悪かったけど、失礼な人では無かった。起業して建設会社の社長をやれるぐらいには常識的だった。

 だというのに、どうしてこうなってしまったのか。何が不満だったのか。どうしてリサ姉の側を離れたのか。

 チラリと報道を見た限りでは、元女子大生の女性は明らかにリサ姉より綺麗では無かった。若さに釣られたのか?

 飲み歩いた先で、ガールズバーにでも行ったのか? そこで良いようにおだてられて、その気になってしまったとか?


「リサ姉……」


「大丈夫や。もう覚悟は出来てる」


 夏休みも終わった9月の半ば、俺達は杏奈あんなちゃんを父さんに任せて、刑務所まで来ている。高田さんは刑期を終えるまで、ここで罪を償う。

 当たり前だけど、刑務所に入ったのはこれが初めてだ。案外刑事ドラマで見る風景と、そう大きく変わらない。

 刑務官の方に案内されて、俺達は面会室へと向かう。今頃高田さんは、どうしているのだろうか?

 今1人で何を思っているのだろうか。反省はしていると聞いているが、リサ姉の顔を見て何を思うのだろうな。


「こちらです」


 刑務官の方に案内された面会室へ入る。アクリル板を挟んだ向こう側で、刑務官の男性が扉の前で座っている。

 入るように促された高田さんが、ゆっくりと入室して来た。面会で許されている時間は30分まで。あんまり長々と話している余裕はない。

 どうやらリサ姉が来ると分かっていても、一緒に俺が来るとは思っていなかったらしい。

 少しこちらを見て驚いている様子を見せる高田さんだったが、何かを察したかのように苦笑した。

 

 アクリル板の向こうで着席した高田さんと、俺達が対面する。逮捕後に俺は初めての面会となる。

 リサ姉は虐待に関する裁判の方で、一度対面しているので初めてではない。数ヶ月ぶりの再会となる。

 今となってはもう、道を違えた者同士として、リサ姉は割り切っている。今更かける情もないらしい。

 冷たい態度で向かい合ったリサ姉が、高田さんに向かって問い詰める。結局何がしたかったのだと。


「で、結局言い訳は揃ったんか? アンタ何してんの?」


「……何がしたかったんだろうな」


 金髪に染めた高田さんの髪は、染め直せていないせいで頭頂部が黒い。俺とはまた違った厳つい顔立ち。

 俺とそう変わらない大きな体は、俺の記憶にある高田さんと変化はない。囚人服を着ている事以外は。

 まるで憑き物でも落ちたかのように、以前のような覇気がない。別人かと思うぐらいに、活力が感じられない。


「何やそれ? 申し開きもないんか?」


「ああ、ない。杏奈には悪い事をしたと思っている。お前にもな」


 それだけ言って高田さんは頭を下げた。謝って済む問題ではない――だからこそ刑務所に居る。

 素直に謝罪をされたからと言って、やった事がチャラにはならない。受け入れるかどうかも、被害を受けた側が決める事だ。

 犯罪や違法行為は、こういう点が難しい。父さんから口酸っぱく教えられた事だ。犯罪を行えば、取り返しがつかない。

 罪を償う事は出来るが、失われた何かは戻って来ない。被害者はただ、辛い気持ちと向き合うしか出来ないのだと。

 反社会的勢力の犯罪と向き合い、戦い続けている警官の言葉は重かった。だから俺は、犯罪だけは絶対にやらないと決めていた。


 当たり前の常識ではあるけれど、俺の場合は少し違う。被害者にまつわる話を、沢山聞かされて来たからだ。

 旦那さんを殺されてしまった奥さんの話。悪質な詐欺被害の遭ってしまい、一家が離散してしまった家庭の子供。

 ヤクザに撃ち殺された人の遺族たち。今も様々な形で、被害者側になってしまう人達が居る。それも世界中にだ。

 犯人がどれだけ反省しても、罪を償ったとしても遺族の気持ちは晴れない。ただそういう事実が残るだけだ。

 犯人が捕まったという安心感、刑務所に入ったという結果。それで溜飲を下げられれば良い方だ。そうじゃない人も居る。


「謝るぐらいなら、最初からやんなや。ウチらはもう10代の頃とちゃうねんで?」


「……お前の言う通りだ」


 本当に誰だろうこの人は? 見た目だけは昔のままでも、中身がまるで別人じゃないか。それだけ父さんが、厳しく何か言った?

 リサ姉が何を言っても、ただ素直に謝るだけの高田さん。こんな姿を見る日が来るとは思わなかった。反論すら一切しないなんて。

 だから俺は、聞いてみたかった事を聞く事にした。どうしても理解出来なかった、一番の疑問を。


「どうして高田さんは、リサ姉を裏切ったんですか? 別の相手なんて、必要なかったでしょう?」


「……一輝にどう見えていたか分からない。ただ俺は、孤独を感じていたんだ」


 高田さんは不倫に走った理由を語る。リサ姉が育児に忙しくしていたせいで、夫婦の時間が減っていた。

 自分の仕事も忙しく、すれ違う日々が続いた。全く時間が取れなかった程ではないが、以前ほどは取れなくなった。

 それが5年ぐらい前の話だったという。だからその隙間を埋める為に、キャバクラなどに通っていた。

 風俗店へ行く事もあったという。コンカフェやガールズバーも知り合いと回っていたそうだ。

 ここで言う知り合いというのは、例の弁護士と裁判官だそう。繋がりはその時から出来ていたのか。


「気が付いたら、綾乃(あやの)と関係を持っていた。そこからはもう、止められなかった」


「どうしてそんな……話し合えば良かったのに……」


 後悔先に立たずとは、まさにこの状況を指すのだろう。後はもう勢いに任せて、突っ走ってしまった。

 なまじ弁護士と裁判官を味方につけていただけに、親権もそのまま取得しに行った。自分でも面倒は見られると思ったから。

 幸いなのは、悪い目的で杏奈(あんな)ちゃんを引取ったのではなかった事か。リサ姉は無理でも、娘は側に起きたかっただけ。

 少々動機としては微妙だけど、もうその時点で高田さんは止まれなかった。全てを手に入れようとしてしまった。

 欲をかいてリサ姉も手放したくなかったから、自分から離婚を切り出さなかった。しかしうっかり、子供を別の女性と作ってしまった。


「全て上手く行ったと思っていた……そう思っていたんだ」


 高田さんはリサ姉を諦めて、他の欲しいモノは全て手にしたと思っていた。しかし少しずつ、家庭が破綻していく。

 現在の配偶者である高田綾乃(たかだあやの)さんと、杏奈ちゃんの折り合いが全然つかない。言い合いになってばかりで、どちらも引かない。

 その結果が暴力という名の虐待であり、多少なら仕方ないと高田さんは考えた。元ヤンだっただけに、そう思ってしまったのだろう。

 高田さんが知らないところで、指導では済まない暴力が行われていると気づけなかった。見逃してしまっていた。


「アンタもこれで懲りたやろ。今度こそはちゃんと、自分の嫁と子を大事にするんやな」


「……ああ」


 そこまで話終わったところで、面会終了の時間が来た。立ち去ろうとする俺に向かって、高田さんが最後の言葉を残す。


「2人を、頼む……」


「……最初から俺は、そのつもりですから」


 これが俺の人生で、最後の高田さんとの会話になった。妻の綾乃さんがこの2年後に出所し、高田邸を売却。

 犯罪者として捕まった以上、この街には居られなくなったのだろう。その後の2人が、子供とどこで暮らしているのかは知らない。

 高田さんが出所する頃には、養育費を請求する必要もなくなっていたから。それは今よりも、少し未来の話だ。


100話目で完結となります。もう少しだけお付き合いください。

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