第94話 子育ての合間に
リサ姉と2人で杏奈ちゃんを送り届けた後、一緒にマンションへ戻って一息つく。リサ姉の家でソファベッドに並んで座っている。
杏奈ちゃんが泊まる際に利用する目的で、あの日急いで買って来たもの。それにしても、毎日が忙しいな。
子供が中学生になったら育児が楽になると聞くが、別にそんな事はない気がする。昔より言葉が通じ易いというだけだ。
知能が上がった分の大変さは確実にある。だけど面倒を見るのが嫌かと言われたら、決してそうではない。
きっとそう思えるのは、昔から知っているからだろう。全く知らない女の子だったら、流石にこうは思えない。
「元気だねぇ杏奈ちゃんは」
夏休みを満喫中の杏奈ちゃんは、毎日とても元気だ。今日も色々と振り回された後だった。
虐待の影響を強く受けていないのは良いけど、こちら側としてはその分大変だ。結構体力と頭を使う。
「あの子はホンマに、昔からずっと手が掛かるわ」
「結構言う事を聞く方じゃない? 多少のワガママは言うけどさ」
聞き分けが悪いタイプではないので、そういう苦労はしていない。ただ自分の意見をハッキリという子なだけで。
黙まり込んで何も言わなくなるとか、話の途中でどこかへ言ってしまう事もない。話は最後までちゃんと聞いている。
母親であるリサ姉の事も嫌っておらず、信頼している様子だ。クソババアみたいな典型的な悪口も言わない。
反抗期ではあるけれど、かなり大人しい反抗と言える。反論はするけど、自分の意思を押し通す事はない。
昔の同級生に教師を相手に反抗的な生徒も居たが、彼らと比べれば可愛らしいもの。かなり理性的と言っていい。
「せやけど、この先大丈夫か不安やわ。学校で喧嘩とかしてこうへんやろか?」
「うーん、中学から合流する子達もいるからねぇ」
別の学区だった小学校の卒業生達と、中学になって一緒の学校になる。性格が合わない生徒と出会う可能性はある。
元々同じ小学校だった子とは、関係性がある程度出来上がっている。そちらと揉める事はそうないだろう。
新しく知り合った子達と、上手く行くかは分からない。結局は人対人である以上、何が起きるか不明だ。
プラスに発展する事もあれば、マイナスが生まれる事だってある。絶対に安心とはとても言えないだろう。
「あの子、男の子相手でもあの調子やんか? でも中学ぐらいから男の子は大きくなって行くし」
杏奈ちゃんは小学生の時から、男子にも負けないタイプの女の子だった。如何にもリサ姉の娘って感じで。
ただ中学生にもなると、男子は背が伸びるし筋力も上がっていく。揉め事になるとどうしても不利だ。
だけど物理的な殴り合いになる程、治安が悪い地域ではない。流石にそんな男子はいないと思いたい。
「杏奈ちゃんは友達が多いから、変な事にはならないと思うよ」
「そうやったらエエねんけど」
確かに意思は強いけど、喧嘩っ早い子ではない。上手く相手に合わせる事だって出来るだろう。考え無しではないし。
どちらかと言えば、男女関係のトラブルの方が不安だな。間違いなくモテるだろうから、そっちで何かがありそうだ。
今時の子だからSNSに写真を上げる事もあるだろう。そんな未成年を狙う大人が居ると聞く。厄介事には要注意だ。
後は盗撮とかだよな。学校の先生が盗撮で捕まるとか、同級生が捕まる事件などがたまに起きている。
杏奈ちゃんが狙われる可能性はないと言えない。つい出来心で、冗談のつもりで、そんな浅い理由でも行われるのだから。
「親って、心配事が多いんだね。少し理解出来たよ」
「ウチも今ならオカンの気持ちがよう分かるわ」
両親の反対を押し切って結婚しただけに、リサ姉としては複雑だろうな。和解は出来たけど、それはそれ。
自分の過去の記憶が、杏奈ちゃんと重なって見えるのだろう。そればかりは仕方のない事だ。
これまでに起きた事、自分が経験した事。離婚という結末が、どうしてもリサ姉の経歴からは消せない。
無かった事には出来ない事実。新しいスタートを切れても、不安に思ってしまうのだろう。
「2人で頑張って行こう。俺達の杏奈ちゃんなのだから」
俺はリサ姉の手を握り、少しでも安心出来るように願う。同時に杏奈ちゃんと、将来作る子供の幸せな未来も。
思いもよらなかった展開になったけれど、俺達に出来る事はまだまだある。少しずつ前へ進んで行けばいい。
学校の先生だって、頼りにして良いんだ。幸いあの学校は、変な先生が居なかった。変わり者なら居たけど、まともな先生達だった。
急激に質が落ちるとは思えないし、校長先生は以前と変わっていない。きっと学校の雰囲気はそう変わらない。
親としての責任はあるけれど、頼るべき相手は沢山居る。俺の父さんだって、良いおじいちゃんやってくれている。
「ありがとうな、いつも付き合ってくれて。自分の子やないのに」
「気にしないで。元々妹みたいな子だったしね」
未だにその感覚は残っているけど、娘として見る事だって出来る。最近少しだけ、父親という自覚が芽生えたように思う。
確かに俺の本当の子ではないさ。それは変わらないけど、家族として過ごす事に違和感なんてない。
むしろこれからが楽しみなぐらいだ。杏奈ちゃんが中学を卒業して、どんな高校生になるのだろうか。
大学に進むのか、短大に行くのか、それとも専門学校か。ダンス部だから、芸能系に強い進学先を選ぶのかな?
杏奈ちゃんが目標にしているのは高嶺部長らしく、学生時代の姿を見て憧れたらしい。読者モデルでも目指すのかな?
それとも同じように、服飾系の道を歩むのか。どんな未来だって、選べるようにしてあげたい。
俺は自分に夢はなかったけど、夢を追いかけている人は好きだ。頑張っているなら応援したくなる。
高嶺部長だってもちろん成功して欲しいし、杏奈ちゃんの良き目標としてカッコイイ姿を見せてあげて欲しい。
もし高嶺部長が自分のブランドを持てたら、成功出来たら心から祝福するつもりだ。部下として誇らしく思う。
言うまでもなく、リサ姉との未来だって大切だ。2人で幸せな家庭を作り上げていきたい。俺達の手で、完成させる。
「ホンマ、一輝君が居てくれて良かったわ。ウチ1人でやったら、耐え切れたか分からへん」
「頼ってくれて良いから。だって俺は、その為に居るんだからさ」
横から抱き着いて来たリサ姉を、優しく抱きとめる。育児の疲労を発散したいのだろうね。
こうして生活してみれば分かった。冷え切った夫婦関係は、さぞ辛かっただろう。寄り掛かれる相手がいないのだから。
だからこそ俺は、出来る限り受け止めてあげたい。全体重を預けても、倒れない存在で有り続けたい。
ストレスを解消出来る相手であり、愛情を確かめ合う相手でもある。彼氏として、未来の夫として役立ちたい。
「何かごめんな。ストレスの発散に利用するみたいで」
熱烈なキスをして来たリサ姉が、俺に向かって謝って来た。どこに謝る必要性があるというのか。
「良いじゃない。セックスだって、幸福感を得る為に必要だしね」
それに俺だって、まだまだ性欲がある。枯れてしまうまでは、出来るだけリサ姉としたい。
2人でソファベッドから移動して、リサ姉のベッドの上でスキンシップを始める。軽い触れ合いから始めていく。
勢いで進めるセックスも良いけど、順序を踏んだ行為だって悪くない。たっぷりと時間を使って、あっさり終わらせない。
子育ての合間に行う男女の時間。恋人としての大切な行為。お互いに満足が行くまで、中途半端に止まる事はない。
今日も小麦色の肌が眩しく、美しいボディラインは何度見ても飽きない。今日も俺の恋人は、最高の姿を見せてくれた。




