第85話 間島一輝の誕生日
ウチが一輝君と出会ってから、13年がもうすぐ経とうとしている。せやけどその前に、彼の誕生日がやって来る。
新年度が始まってすぐ、本日4月6日が一輝君の生まれた日。昔から年に1度、お祝いして来たんよな。
あの頃は少し大人びた男の子やったのに、今ではめっちゃ頼りになる立派な男性へと成長している。
それこそ気づけば、ウチが惚れてしまうぐらいには。本当にかっこええ男性になってくれた。大人になってからも、一杯助けてくれた。
例えそれが、初恋の相手やったからとしても。ウチへの好意があっての事なんやから、嬉しいとしか思わない。
でもホンマに今でも不思議やわ。よう8歳も年上やったウチに、初恋をしてくれたなぁ。大体は同級生とか、学校の先生とかちゃうの?
隣に住んでいただけの、ウチが対象やなんてな。てっきり姉代わりとして、慕ってくれてたんやと思ってたわ。実際弟みたいやったし。
もちろん初恋をしてくれたのは、素直に嬉しいと思う。あんなに優しくてエエ子が、ウチを選んでくれていたんやから。
昔から一輝君の周りには、可愛らしい女の子が一杯居た。活発なタイプの女の子から、結構好かれてたはずなんやけどな。
実際に一輝君が高校生になったら、彼女が出来てたし。ちょっと遅くないかと、あの頃は思ったけど。中学ぐらいで出来るやろうと思ってた。
まあでも、お陰でウチが一輝の初めてを貰う事が出来た。それはちょっと嬉しかったな。恋人としては、初めてやないけど。
今になってみると、少しだけ悔しいと思ってる。どうせやったら、全部の初めてがウチやったら良かったのに。今更言うても仕方ないけど。
元カノも可愛らしい子やったしな。一輝君が好きになるのも分かるわ。ただ交際の仕方に問題があったのは、ちょっと許せへん。
もっと一輝君を大切にしてあげて欲しかった。何でも言う事聞いてくれるから、甘えてしまったのも分かるけどや。
せやけどやっぱりDVはアカンで。もっと良い交際の仕方はあったはずや。だからこそウチは、一輝君を大事にしようと思うてる。
「おお! 凄い、俺の好きな物ばっかりだ」
「一輝君の好きなもんで揃えたんやで」
一輝君の誕生日、平日やったから1日中サービスは出来ひんかった。その代わりってわけやないけど、ウチの家で精一杯もてなすつもり。
ウチの誕生日には、ホテルのレストランでのディナーとプレゼントを貰った。ほなウチは、一輝君の誕生日にどうお返ししようか悩んだ。
結局ウチは、自分で料理を作る方がエエと思った。彼の好きな食べ物を、ウチは全部知っているから。エエ店に行くよりも、エエ食材で作る事にした。
和風ハンバーグとか肉じゃがとか、料理自体はそこまで珍しくないもんばかり。だけど全部、高級な食材を使って作ってる。
もちろんホテルのディナーがアカンって事やない。あんなトコ、初めて連れて行ってもろた。彼の気遣いはめっちゃ嬉しかった。
どうしてもウチは10代で結婚と出産をしたから、世間一般で言うようなデートをあんまりした事がない。育児が優先やったから仕方なかった。
一輝君はそれを知っていたから、ああして連れて行ってくれたんやろう。ホンマに優しくて、気遣いの出来る大人になったわ。
再会してからの一輝君は、ずっとウチを大切に扱ってくれた。体だけの関係で終わらせても良かったのに、結婚まで約束してくれた。
彼は若いんやから、ウチなんて遊び相手にすら普通は選ばない。せやのに真摯に向き合い続けて、告白してくれた。
恋人になってくれた。だからその感謝をするには、手料理が一番エエと思った。もちろんプレゼントにはちゃんとお金を使っている。
「はいこれ、ウチからの誕生日プレゼント」
「これは……開けていい?」
一輝君に綺麗な梱包をされた箱を手渡した。プレゼント用の包装を開けると、高級感のある箱が出て来る。中身は店員さんと相談して決めた品。
中身は2万ちょいの高級なウィスキーや。洋酒が好きな一輝君に、渡すならこれが一番エエかなって。普段は節約してくれているから。
誕生日プレゼントは金額が全てやない。当然それは分かっているけど、エエもんを渡すのもまた気持ちやと思う。
それに気持ちやって言うんやったら、手料理の方にめちゃめちゃ込めてあるから。ありがとうって気持ちと、好きやでって気持ちを。
「こ、これは!? グレンキース!?」
「ウチはあんま分からんかってんけど、一輝君ってヨーロッパのお酒好きみたいやし」
何年ものがどうとかは、ウチには分からんかった。確か20年やったか、それぐらい寝かせてあるヤツ? そんな感じのウィスキーやった。
洋酒好きにプレゼントするんやったら、オススメやって店員さんが言うてた。スコットランドのお酒やって言うてたな。
スコットランドがどこにあるんか、ウチはよう知らんけど。有名なウィスキーを売ってる国らしい。ヨーロッパって事しか分からんかった。
ウチの知識なんてどうでも良くて、一輝君が喜んでくれてたらそんでエエねん。一番大事なんはそこなんやから。
一輝君が嬉しそうに笑っているから、これでエエねん。誕生日プレゼントって、そういうもんやろ。喜んでくれてホンマに良かった。
「さあさあ! せっかく作ったんやし食べてや。冷めてしまう前に」
「そ、そうだよね。お酒は後にするよ」
一輝君のために作った料理を一緒に食べながら、2人の夜をウチらは満喫する。いつも一緒やけど、誕生日の夜はまた特別や。
なんでも記念日は大事やしな。思えば誕生日をちゃんと祝って貰ったのは久しぶりやった。元旦那は、もう何年も祝ってくれてへん。
相手の誕生日を祝おうとしても、どうでも良さそうやった。もうあの頃から、ウチらは終わっていたんやろうな。
それでも信じていたけど、結局は裏切られて終わった。そんな数年間を過ごしたウチにとって、一輝君との時間は色々と思い出させてくれる。
愛し合う関係って、こういう間柄やったわ。お互いを尊重し合って、日々の生活を続けていくもんや。一輝君との間には、それが成立しとる。
「やっぱりリサ姉の料理が一番だよ」
「美味しかった? そんなら良かった」
彼が笑ってくれているのは、ウチの幸せでもある。いつの間にか失っていた幸せな時間を、一輝君は取り戻してくれた。
仕方ないと諦めていた男女としての幸福。まだウチを女性として、愛してくれる一輝君。年齢なんて関係ないと、熱心に愛情を向けてくれる。
まだ夫婦にはなってないけど、一輝君とならエエ家庭を築けると思う。今までにない安心感が、ウチの中で溢れている。
出産費用が用意出来たら、一輝君と妊活を始める。まさか一輝君と、子供を作るような関係になるなんてなぁ。
不思議な感覚と、幸せな気持ちが両方ある。まだもう少し先になるけど、言うてる間にその時が来る。なんやちょっと、照れてまうわ。
「リサ姉も一緒に飲まない? せっかくだし」
「エエの? ほんなら貰おうかなぁ」
プレゼントしたウィスキーを、一輝君と飲む事になった。結構度数が濃いから、だいぶ薄めに割って貰う。それでも結構アルコールが濃い。
ダウンする程やないけど、体温が上昇しているのが分かる。お酒のせいなんか、一輝君と一緒に居るからか分からへん。
彼がウチを優しく後ろから抱きしめながら、2人でお酒を飲んでいる。もうここ最近はずっと、夜はこんな感じや。
大きな体に包まれていると、凄い安心感がある。この人やったら、ずっとウチのそばに居てくれると思える。
だって彼は、10年以上も前にウチを好きになってくれた人やから。昔からずっと、大切にしてくれた人やから。
「一輝君が居てくれて、ホンマに良かったわ」
「俺だってそうだよ。リサ姉と居られて幸せだ」
彼の胸板に体重を預けて、ゆっくりと目を閉じる。こうして一輝君に全身で寄りかかれるようになった。その幸せを、ウチはただ噛み締めた。




