第81話 ご家族への挨拶
間違えて前80話を消してしまいました。
昨夜の内に再投稿をしてありますが、内容は昨日朝の更新分と内容は同じです。
俺は今、リサ姉のご両親へと挨拶をする為、京都に来ている。東雲と書かれた表札が、目の前の門に掲げられている。
薄っすらとそんな予感はあったんだよな。リサ姉の実家が、お金持ちなんじゃないかって。だってリサ姉は、その片鱗を見せていた。
単なるギャルというには、妙にお行儀がいい。色んなマナーについても、昔から詳しかった。旦那さんの影響も一度は考えた。
しかしどう見ても知識があるのは、リサ姉の方だったから。テーブルマナーも正確に把握していたし。
「一輝君、大丈夫か?」
今日は真面目な話をする目的があるので、リサ姉は少し大人なしい格好をしている。へそ出しファッションはしていない。
普段は寒い日であろうとも、リサ姉はファッションの為ならへそを出す。だが今は、温かそうな普通の格好をしていた。
「ちょっと緊張しちゃっただけ。大丈夫だよ」
「ほな入ろうや」
リサ姉に手を引かれながら、高級感のある木製の門をくぐる。多分ヒノキで作られているのかな? 少しだけ香りがした。
その向こうには、日本らしい和風の建物が建っている。玄関門の前には琴教室の看板が立っていた。リサ姉のお母さんが先生だそう。
物凄い豪邸とまでは言わないけれど、裕福な家庭だというのは伝わって来る。平凡なウチの家とは違っている。
玄関に入ると、立派な掛け軸が飾られていた。誰の描いた絵だろう? 北斎か? 何かこんな感じの絵が、葛飾北斎の作品にあったような。
「このスリッパ使って」
「ありがとう」
俺はリサ姉から渡されたスリッパに履き替える。脱いだ靴は綺麗に揃えて置いておく。非常識な奴だと思われたくないから。
今時そんな事、気にする家庭は少ないかもしれない。だけどこれは念のためだ。丁寧な対応をしておいて損はしないだろう。
俺の矜持という意味でも、ちゃんとしておきたい。だってここは、恋人であるリサ姉の実家だ。適当に入った遊戯施設ではないのだ。
「こっちやで。着いて来て」
「う、うん」
俺は今日ここで、リサ姉の両親と対面する。そして挨拶をして、これからの話をする。結婚より先に、子供を作る事も伝える。
丁寧に説明して、出来るだけ理解をして貰えるよう頑張るつもりだ。当然緊張はしているし、昨夜はあまりよく眠れなかった。
どうしても今日の事が気になって、色々と考えてしまった。もし拒絶されてしまったら、この男ではダメだと言われたら。
不安に思ってしまうのは、どうしても避けられなかった。怖がられて来たかつての記憶が、どうしても良くない方へ思考を誘導する。
悪人みたいな顔だと思われたらどうしよう。見た目だけでNGを貰ってしまったら。自分に自信は、どうしても持てない。
「大丈夫やで。2人でちゃんと説明しよう」
「……分かってる。その為に来たんだ」
不安な気持ちを押し殺し、俺は虚勢を張る。今はそれが必要な事だから。会社の仕事と同じだ。俺が不安そうにしていては駄目なのだ。
堂々と説明を出来ないで、納得なんてして貰えない。本当にコイツで大丈夫かと、相手を不安にさせるようでは話にならない。
気持ちを切り替えて、俺はリサ姉と共に進んでいく。そして辿り着いた、リサ姉の家族が待っているという和室に。
ゆっくりとリサ姉が襖を開けていくと、3人の人物が中で待っていた。言うまでもなく、リサ姉の両親と弟さんだ。
「ただいま~」
「失礼します」
大き過ぎない声で断りを入れ、軽く会釈をしてから入室する。机を挟んでリサ姉の家族と向き合う。3人は横並びに座っている。
真ん中に居るのは、間違いなくリサ姉のお父さんだ。黒ぶち眼鏡を掛けた、60歳ぐらいに見える真面目そうな男性だ。
すぐ隣に居るのは、リサ姉のお母さんだろう。雰囲気は結構違うけど、顔立ちは良く似ている。違うのはメイクの方向性だ。
そしてお父さんから少し間を開けて、座っている俺と同じぐらいの年齢に見えるのが弟さんだろう。お父さんとよく似ている。
「座ってくれてエエよ。面接やないんやから」
少し笑いながら、リサ姉のお父さんが座布団を示す。ちょっと固くなり過ぎていたか。緊張している影響だな。
「ありがとうございます」
お礼を伝えてから、俺は座布団に座った。隣に座ったリサ姉が、家族に俺を紹介する。もちろん自己紹介もちゃんと行った。
リサ姉の家族の事も紹介してもらう。お父さんの名前は東雲宗司さんで、お母さんは景子さん。そして弟さんが亮さんという。
お互いの紹介が終わったところで、俺は改めてリサ姉と交際している事を伝えた。結婚を前提に考えているという事も含めて。
まず最初に必要な情報を伝えたところで、一旦説明を終わらせる。区切りが出来たからか、お母さんから質問を受ける。
「一輝さんやったなぁ? 貴方は随分と若いのに、離婚歴のある理沙を選ぶメリットなんて、無いんとちゃうの?」
聞かれるだろうなと思っていた質問だ。この手の質問については、何の迷いもなく答えを返す事が出来る。
「理沙さんは、僕にとって初恋の女性です。今も理想の女性である事は変わりません。バツイチや年齢差については、一切問題視しておりません」
堂々と言い切った俺を見て、リサ姉の家族は驚いていた。この問題については、とっくに解決している。俺がここでブレる事はない。
8歳の差がなんだというのか。離婚歴がある事もそうだ。そんな事で、リサ姉の魅力がなくなりはしない。今もリサ姉は魅力的だ。
「今までの彼氏とは、全然感じがちゃうやん。おねぇって、まともな人と恋愛出来たんやな」
「亮アンタ、それどういう意味や?」
少なくとも弟さんからは、まともな男性と思って貰えたらしい。ただそのお陰でリサ姉が少し不機嫌になってしまったけど。
そんなに変な相手とばかり、リサ姉は恋愛をして来たのだろうか。昔からモテただろうし、その分変な相手も多かったのかな?
リサ姉と弟さんのやり取りが終わると、今度はお父さんから質問を受ける。今のところは、いきなりNGを突きつけられそうな空気ではない。
「ウチの娘はもう31になる。結婚は良いとしても、子供はどうするつもりなんや? 君ならもっと、若い相手も選べるやろうに」
そこについては、問題があると理解している。リサ姉の年齢と、俺達の収入を考えたら色々と厳しい。だけど決して、不可能ではない。
「……結婚より先に、子供をもうけたいと考えています。僕の出世を待っていては、理沙さんに高齢出産を強いる事になってしまいますから」
少しだけ空気が変わったのを感じた。一度それで、リサ姉は家を飛び出している。両親との喧嘩の原因となったのは妊娠だった。
だから思うところぐらいはあるいだろう。それでも俺は、伝えないといけない。俺の思いと、リサ姉に迎えて欲しい未来について。
「僕は子供を産んだばかりの頃の理沙さんを知っています。母親をやっている姿を、ずっと見て来ました。本当に子供が好きなんだと、見て来たので知っています。だから僕は、出来るだけ協力したいのです。また子供を持ちたいと思っている理沙さんの、望みを叶えるために」
単に俺が子供を産ませたいのではない。その意思もゼロではない。リサ姉との間に子供が出来たら、きっと可愛いに決まっている。
子供も含めて、幸せな家族を作っていきたいと思っている。何も考えずに、子供を作ろうというのではない。
「オトン、オカン、今度はあの時とはちゃうねん。今はもう、親になる意味もちゃんと分かってる。それに一輝君は、ええ加減な事なんかせぇへん」
「……誠実な人物なんは、見てたら分かる」
お父さんは誠実な人物だと思ってくれたらしい。それだけでも大きな収穫だ。だったらもっと話し合うべきだ。俺の考えを全て話そう。
これまで俺がリサ姉をどう思って来たのか。付き合うと決めた理由、幸せになって欲しいという意思も含めて。
結局かなりの時間を話し合いに使って、どうにか理解を得る事が出来た。リサ姉の家族とのファーストコンタクトは、無事に成功で終わった。




