第78話 年の瀬を初恋のお姉さんと
12月31日、今日で今年1年が終わりを迎える。今日までの1年は、本当に色々な事があった。思いもよらない日々だった。
順調だと思っていた恋愛は、4月に入るなり終わってしまった。意味も分からず意気消沈していた俺の前に、リサ姉が現れた。
まさかの離婚という事実を知らされて、驚く事になった。人生何があるか分からないなと、改めて思い知った。
それから2人で過ごすようになって、リサ姉で童貞を卒業した。まさかの展開で、異常に興奮したのを覚えている。
初恋のお姉さんに、初体験をさせて貰えた。これ以上にない幸運だったと思った。それからまさかの、セフレという関係に発展。
リサ姉とセックスをするようになって、傷の舐め合いが続いた。あれはあれで、意味のある関係だった。無意味ではなかったと思う。
俺もリサ姉も、最初からお互いを好きだったのではない。俺は最初、憧れを拗らせていただけだった。好意ではあったと思うけど。
リサ姉もまた、良く知っていた弟分だった筈だ。肉体関係を持ってからは、少し変わったらしいけど。でもそれだって交際までは行かなかった。
そこへ高嶺部長の介入が始まって、まさかの2人目のセフレが出来る。高嶺部長は、リサ姉が俺の事を好きだと言って来た。
最初は半信半疑だった。しかし本当なのかもしれないと思える事もあり、最終的には交際へと至った。今でも信じられないが。
こうして思い返してみると、本当に信じられない事ばかり起きた。俺の人生は、どうなってしまったのだろうか?
流石に来年は、今年以上のイベントなんて必要ない。もう十分過ぎる程に色々と起きた。そろそろ落ち着きたいところだ。
余計な問題を抱えたくはない。来年から本格的に、妊活と結婚に向けた節約と貯金の日々が始まる。副業も始める予定だ。
先ずは年明け一発目から、リサ姉の両親へ挨拶に行く。認めて貰えるのか、理解して頂けるのか。それはまだ分からない。
「なあ一輝君、こっち観てエエかな?」
暖房の効いた俺の家で、リサ姉と2人でベッドに寝転んでいる。朝からサブスクで海外ドラマを観ている。平和な大晦日を過ごしている。
「いいよ。俺もそれ、気になっていたから」
「ほなこれで」
俺が持っているタブレットで、サブスクを2人でよく観ている。映画の時もあれば、流行りのアニメの時もある。
最近はサブスクのお陰で、こうしたゆったりとした時間を過ごせる。出掛けるだけがデートではない。こんな日があっても良い。
お金を使う時はちゃんと使うけれど、大晦日にあまり外出はしたくない。年末ぐらいは、のんびり過ごしたい。
わざわざ海外旅行をする人達もいるけど、俺達はそこまでしたいとは思わない。そもそもリサ姉は、英語が苦手だしな。
俺もペラペラ話せるかと言えば、そんな事はない。多少話せるけれど、翻訳なしで洋画を見られる領域にはいない。
「このスキンヘッドの俳優さん、ちょっと一輝君に似てると思うねんな」
アメリカのドラマで主役をやっているガタイの良い男性と、俺が似ているとリサ姉は言う。そんなに似ているだろうか?
「体格の話? 俺こんなにイケメンじゃないよ」
「え~そうかなぁ? ウチはかっこええと思うけど」
高嶺部長もだったけど、俺がどんな風に見えているのだろうか。どっちかと言えば、反社に居そうなタイプだと思うんだけど。
顔がそっくりな父親なんて、警察官とは思えない人相をしている。あれは何人か殺している顔だ。少しマイルドにしたら俺の顔。
そういうタイプが好きな女性も居るらしいけどね。一応これでも、実質3人の女性から評価して貰ったわけで。あ、中沢さんも入れたら4人か。
有難い評価ではあるけれど、生憎と俺は女子からモテる人生を歩んでいない。避けられる人生なら歩んで来たけど。初対面で泣かれた事もある。
全員から毛嫌いされたわけじゃないけど、好意的だったのは体育会系の女子だけだった。大人しいタイプの女子は、露骨に怖がっていた。
「気持ちは嬉しいけど、俺は全然モテなかったからね」
「それが不思議なんやねんけどなぁ。もしかして、一輝君って結構鈍感やったりする?」
それは……どうだろうか。リサ姉の好意に気づけなかったから、鋭くはないと思う。彩智の気持ちにも、気付いてなかった。
うーん、これは……否定出来る要素が何もない。高嶺部長から狙われていた事も、全く分からなかった。俺、結構鈍感かもしれない。
「違う……とは言えないかな……」
「裏で泣く泣く諦めてた子、結構居るんとちゃうか?」
そう、なのだろうか? もしそうだとするなら、悪い事をしてしまったかもしれない。俺が好意に気づけた可能性はかなり低い。
俺はもしかして、結構悪い奴なのか? 好意に気付かず泣かせてしまっていたら。いやでも、そんなにいるかなぁ? いまいちピンと来ない。
という思考自体が、鈍感という事なのか? ダメだ、全然分からない。女心は相変わらず難し過ぎる。精進が足りていないのだろう。
「……うん、ホンマに鈍感やったんやと思うわ」
「そ、そうなの?」
あまり知りたくなかった現実。ラブコメ漫画の好意に全然気付かない主人公を見ると、イライラしてしまう。
いやこれだけ女の子から好意を向けられて、気付かないのは有り得ないだろうって。どうしてそこで告白しないんだ! と思ってしまう。
だけどどうやら、俺も大差なかったのかもしれない。結局女心を分かっていないのは、俺も同じだったわけだし。同族嫌悪なのかこれ?
新年を迎えようという時に、悲しい真実を知る事になった。いや……むしろこれでいいのか。来年に持ち越さず、ここに捨てて行こう。
どうせ俺が鈍感だとしても、今更関係がない話だ。俺はリサ姉以外の女性から、モテる必要性なんてないのだから。
「ほ、ほら、俺リサ姉の事なら何でも分かるし」
「……あんまフォローになってへんで」
良いんだよこれで。他の女性には鈍感でも、リサ姉にだけ発揮しないなら問題ない。これからもリサ姉だけを見て生きて行こう。
そんなやや残念な感じのする来年の抱負を掲げつつ、大晦日を2人で満喫する。夕方になり、2人で外出する。目的はただ1つだ。
「年越しラーメンかぁ。ウチはやった事なかったなぁ」
「大学の時に友達がさ、言い出してね」
日本の文化、大晦日の年越し蕎麦。それを大学の時に年越し中華そばだと言い出した奴が居た。案外悪くないかもと、一度試してみた。
これが案外悪くなくて、それ以来仲間内で年越しラーメンが定着した。結果俺も毎年、大晦日の夜にはラーメンを食べる事にしている。
前もって31日の夜まで開いている、近所のラーメン屋を見つけてある。個人経営だけど、結構美味しそうだった。
今時流行りの家系のラーメンではなく、昔ながらの中華そばという印象だ。でも案外そういう店程、結構美味いって事がある。
長年それ一本でやって来れたという事は、それだけ味が美味しいという証明だ。不味いならとっくの潰れているだろう。
「ここだよリサ姉」
「へぇ~結構良い感じやんか」
町の中華屋さんという、昭和を感じさせる味のある外観。真っ赤な屋根に、店名が書かれた年季の入った幟。
くすんだガラスケースには、食品サンプルのラーメンやチャーハン等が展示されている。入ってみると、趣と歴史を感じさせる風景が広がっている。
常連客なのか、カウンターに座っている老人が店主を会話をしていた。多分奥さんかな? と思われる女性に席へ案内された。
リサ姉と2人でメニューを眺めて、何を頼むか相談する。頼む物を決めた俺達は、再び店主の奥さんらしき女性を呼んで注文を済ませる。
暫く雑談しながら待っていたら、頼んだノーマルの中華そばとチャーハンが到着した。リサ姉のチャーハンは小サイズだ。
先ずはラーメンだろうと、熱々の麺とスープを味見する。思った以上に美味しくて、当たりを引いたと分かった。
「これは美味い」
「せやなぁ、エエやんこの味」
新しく見つけた美味しい店で、リサ姉と年越しラーメンを食べた。来年はどんな1年になるのだろう。良い年になる事を祈るばかりだ。




